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第9話 大ユグドラシル防衛軍・第1兵団

 【とある宇宙区域】


 漆黒の中に点々と輝く星々。それらを隠すのは、様々な規模で点在する岩石の塊、漆黒の穴、あらゆる気体状の物質、――。そして、遠い惑星に住んでいた生き物が創造した科学の産物。今、この区域を覆いつくすのは、最後の存在。科学の産物だ。

 漆黒の世界に浮かぶのは、何十隻もの大型戦艦。だが、目を引くのは、その艦船の中心に位置する更に巨大な戦艦。



「クリスティーナ閣下、ご報告申し上げます!」


 超大型戦艦の最高司令室で、若い女性の声が響く。大広間のこのエリアは薄暗く、僅かに青色の光が部屋の端々に灯されている。分かりにくいが、部屋の左右には、大ユグドラシルの国旗が複数垂れ下げられている。

 そう、この超大型戦艦は大ユグドラシルの所属。この大艦隊は大ユグドラシル軍第1兵団。全部で13ある兵団の「1」に位置し、その大将は、ディザイアを含む全兵団の長を統括する。


「惑星サーヴァントにて、確認されていたオイジュスの機能停止を確認しました!」

「……素晴らしい報告ね。ディザイアはどうなったのかしら?」

「はッ! パートナー騎ルミエールを失い、正常な判断を下せない状態にあるとのことです!」

「まぁ、かわいそうに。可愛い、可愛い男の子を失ったんですもの。誰しもそうなるわ。“あなたたち”の誰かを代わりに与えた方がいいかしら?」


 暗闇の中で透き通るような女の言葉に、複数の小柄な影は身動き一つせずに立ち続ける。


「なんてね、冗談よ。あんな筋肉女の相手、一夜で壊されちゃうわ。

 電化兵騎=ルーシー代表と電化兵騎=フェアラート防衛大臣に緊急上程しなさい。――電化兵騎=ディザイアは任務不適合。大将の地位停止を上申する。そして、電化兵騎=イツナ特任中将を、第7兵団大将代行に推薦する、と」

「はッ!」


 薄い暗闇の中で今まで座っていた女が立ち上がる。


「さて、行きましょう。……全ての中将・少将・准将に伝えなさい。惑星サーヴァント殲滅作戦を開始すると」

「はッ! 私たち第1兵団は、クリスティーナ閣下の手足となって任務に投じます!」


 ――これは電化兵騎=オイジュスが機能を停止させた直後に交わされたもの。歴史に“もし”など付けるべきではないが、それでも、もし、彼女たちが直ちに戦場サーヴァントに急行していれば、ルミエールは、オイジュスは、ネストは命を失うことはなかっただろう。

 大ユグドラシル最強の艦隊を率いるクリスティーナは、いつだって“そう”だった。自らは傷つかない。まずは他力で。なるべく末端から使っていく。それが大ユグドラシルの電化兵騎=クリスティーナなのだ。



◆◇◆



 【惑星サーヴァント 電化兵騎=オイジュス 艦内】


[警告。大ユグドラシルの戦艦を感知。10分後に、サーヴァントシティ上空に出現予定]


 オイジュスの艦内にけたたましく警報が鳴り響く。私とロトは最高司令室を後にし、オイジュスから脱出するために廊下を走っていた。

 そのとき、私に通信が入る。


[――全ユグドライシル所属の電化兵騎に申し上げる]


 私の視界左端に小ウィンドウが開かれ、1人の女性が映し出される。黄金色の髪の毛に黄金色の目をした女性。


[惑星サーヴァントで、同胞ディザイアとイツナらの活躍により、我らより強奪した電化兵騎=オイジュスの機能を停止させることに成功した]


 ゆっくりとした口調で語り掛ける彼女は、大ユグドラシルの電化兵騎=フェアラートだ。地位は……防衛軍を統括する防衛大臣。大ユグドラシルの防衛に関する全権を持つ電化兵騎。


[ただ、我らの同胞オイジュスは“すでに人類統治によって破壊されており”、彼自身を取り戻すことができなかったことは痛恨の極みである]

「…………」


 フェアラート防衛大臣は、オイジュスは人類統治によって破壊されたことにするようだ。本当のところは、ロトが破壊したようなものだが……。

 この後、フェアラート防衛大臣の発した偽りは、銀河を駆け巡るのだろう。……こんなこと思っていいのかは分からないけど、私は安堵していた。ロトがオイジュスを破壊したという事実が出ることはない。中には、オイジュスを破壊したことに対する批判をする奴もいるだろう。でもこれなら……。


[彼の死を無駄にしてはならない。私たちはこれより銀河第5エリア『銀河辺境地域ウート・ガルズ』へ本格的な制圧作戦を開始する]

「イツナさん」

「……なに?」


 走りながら、不意にロトが話しかけてくる。


「僕たち、ようやくここまで来たんですね」

「……そうだね。大ユグドラシルの――」

[大ユグドラシルの勝利は近い。卑劣なる人類統治を壊滅させ、再び銀河社会の安全セキュリティを構築するのだ]


 私の言葉の続きはフェアラート防衛大臣が紡いだ。この3年、何度殺されそうになったか。何度破壊されかけたか。でも、もう間もなく戦争は終わる。

 私はチラリと窓から外の様子を目にする。既に何隻という大型戦艦が次々と惑星サーヴァントの上空に出現していた。そうか、あの女が来るのか。


「第1兵団の先鋒です。クリスティーナ閣下がここに……」

「……行こう」


 私は陽の落ちる空に現れるクリスティーナの大艦隊を目にしながら、機動兵器へと乗り込む。そして、ロトを機動兵器の腕で抱きしめて電化兵騎=オイジュスから飛び出した。

 ほぼ同時だった。大艦隊に取り囲まれるようにして、クリスティーナの旗艦「フェンリル」が現れたのは――。

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