教会
よろしくお願いします!
食堂に向かうと既にレイモンドさん夫妻が揃って席についていた。
朝、食堂でばったり会うことは少ないと聞いていたのだが……
そんな事を考えながらレイモンドさん夫妻に挨拶をする
「おはようございます。国王陛下」
「よしてくれ。いつものレイモンドさんでいいよ」
「しかし、示しがつかないのでは?」
「いいよいいよ家族みたいなもんなんだしね」
「じゃ、遠慮なく。おはよう、レイモンドさん。それに……」
そう言えば奥さんの名前聞いてなかったな……無難に行くか。
「……王妃様」
「よして頂戴。シャイト君、それにフィリルちゃん。初めまして、キャルロットと言います。キャルと呼んでね。夫から話は聞いてるわ」
「わかりました、キャルさん」
そんな挨拶を交わして行き、朝食を食べ終えた後部屋に戻る。
さぁて、師匠探しでもしますかね……
そう、今日やることは剣と魔法の師匠探しだ。
昔、アレイドさんは父さんと同じくらい強いって聞いてたし、まだ鍛錬を重ねているのならもっと強くなっているだろう。なので剣の師匠はアレイドさんに決定。
問題は魔法の師匠だ。
基礎は母さんに叩き込まれているので良しとしても、実戦での魔法の使い方は教わっていないのだ。
アレイドさんに紹介してもらえばいいかな……
と、いう訳で、騎士団本部に向かう。
着替えてから部屋の扉を開けるとフィルに声を掛けられた。
「シャイト、どこ行くの?」
「剣を教えてくれってアレイドさんに頼みに行くんだよ」
「ならフィルも行く!一緒に剣を教えてくれって頼みに行く!」
凄い勢いで言って来たので、頷かざる得なかった。
騎士団本部に着くと昨日とは違う門番に声を掛け、アレイドさんの執務室に案内してもらう。
まあ、案内してもらわなくてもいいのだが、騎士団所属でない奴が本部を1人でいや、2人でうろちょろするのもどうかと思ったので案内してもらったのだ。
昨日見たとても高価そうな扉をノックしてから入る。
「2日連続……しかもとはな、どうかしたのか?」
「いえ、アレイドさんと手合わせしたいなぁ……って思いまして」
(え!?そうなの!?)
フィルがアレイドさんに聞こえないように小声で言ってくるが、アレイドさん程の剣士になるとダダ漏れだろう。
実際に訝しげな視線を向けている。
「だって、自分より強くないと意味ないでしょ?」
「確かに……」
「という訳でよろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、アレイドさんは全てを察したようにくちもとを三日月のように吊り上げて言う
「上等だ。ボッコボコにしてやる」
もちろん冗談だろう。しかし、それくらい本気でくると言うことだ。
「それでは、昼過ぎに王城の第一訓練所で待ち合わせしましょう」
「おう。それとフィルが一緒にいるってことはそうゆうことか?」
「どうゆうことかわかりませんが、僕と同じってことですよ」
「りょーかい。じゃあ、昼過ぎな」
「よろしくお願いします」
2人で同時に頭を下げてから、昼まで時間があるので王都の散歩をする。
大通りを歩いていると時々現代風のブレザーのようなものを見かけるようになった。
「あれ、ブレザーか?なんでこの世界に……フィル、あれなんだ?」
「え?知らないんですか?あれは王立魔法学校の中等部、高等部の制服ですよ」
「昨日来たばっかだよね?なんで知ってんの……」
「王城で働いてるメイドさんに教えてもらいました」
ヘぇ〜、情報通。まあ、殺し屋時代ならこの程度の大きさの街の情報なら昨日のうちに網羅してただろうけど……
今言ってもしょうがないけどね。
というか、この世界でブレザーって……俺と同じような奴が校長でもやってんのかね?
そんなこんなで通りを進んで行くと人だかりが見えて来た。
「なんだ?」
「喧嘩じゃない?」
俺は集まっている野次馬の1人に声をかけてみる。
「これ、なんの騒ぎ?」
「んあ?なんか魔法使い同士で喧嘩してるみたいだぞ。なんで喧嘩してんのかは知らないがな」
魔法使いか……いい機会だ。魔法使い同士の戦闘も見ていて損はないしな
「フィル、見てかないか?魔法使い同士の戦闘がどんなのか見て見たいんだ」
「別に私はいいけど」
フィルの手を取り、俺は野次馬の列をかき分けて見える位置に移動する。
すると、当事者の2人が騒ぎあっている声が聞こえて来た。
「俺の女によくも手だしやがってっ!ぶっ殺す!!」
「殺すまで行かなくてもいいんじゃないかな?せめて決闘でどう?」
「上等だっ!四肢をもぎ取って一生動けない体にしてやるっ」
言い争っていたのはあまりパッとしない男と二枚目だった。
どうやら女の取り合いらしいな……
当事者でないからわからないが、俺だったら浮気する女なんかさっさと切り捨てるけどな。
そんな事を考えていると決闘が始まろうとしていた。
本で読んだ事だが、この国では結界を張り、周囲に迷惑をかけない状態であればどこであっても決闘が許されるらしく、近くにいた騎士が審判をするらしい。
騎士が見ているところでないとダメというのもあるが…
野次馬の1人が近くで見回りをしていた騎士に声をかけて、審判をしてもらう。
「ルールは、殺しはなし。それだけで良いな?」
「おう」
「はい」
2人の了承の返事が聞こえると審判を任された騎士は片手を天に向け高々にあげて宣言する。
「王国騎士団所属!アーミル・ファインドの名においてここに決闘の開始を宣言する!ルールは簡単!殺しはなし!死の危険を感じた場合のみ介入する!………始めっ!」
名乗りやルールなど、色々な事を宣言した後、数秒の間を置いて開始の宣言をする。
開始の宣言が下されたと同時に、両者とも詠唱を始める。
パッとしない男(普通男と呼称)が火系統の魔法を、二枚目(二枚目と呼称)が氷系統の魔法を発動する。
魔法の発動スピードは両者とも同じ。しかし、俺の目から見て術式構築密度など威力が上なのは普通男だ。
両者の魔法が激突し、炎の魔法が氷の魔法を溶かし、一気に蒸発させたおかげで周りは霧に包まれる。
しかし、霧に包まれたと言っても相手が全く見えないというわけではない。
だが、なんということか……普通男の身体が透明化したのだ。いや、霧と同色になったと言った方がいいか。俺の目は騙せないが……
普通男が霧の色と同色になってしまったので、二枚目には消えたように見えただろう。今現在も驚きを顕にしている。
そして、霧と同色になった普通男は中国拳法のような構えを取り、二枚目に一気に肉薄する。
二枚目に肉薄した普通男は両拳に炎を纏わせて相手の顔面中心に殴る、殴る、殴る。
霧が風に吹き飛ばされる前に30回以上の拳を放ち、さらには顔面を殴り続けることによって詠唱の暇を与えていないということか……
見かけによらず強い。
霧が晴れた時には、二枚目は膝をつきうつ伏せになりながら地面に倒れる。
その前には普通男。釈然とした顔で1人立っていた。
審判をしていた騎士は二枚目が倒れたところを見て、普通男の勝利を告げた後、二枚目の容態を調べていく。
顔面は焼け焦げて、両肩両膝を複雑骨折。これ程の怪我を負ってしまったら両肩両膝を治せても顔は治せないだろう。二枚目人生終了だな……
決闘が普通男の勝利に終わったのを見届けた野次馬達はばらばらと散っていく。
ふむ……結構勉強になった。
俺とフィルも他の野次馬達と一緒にその場を離れて王都散策を再開する。
散策を再開した俺たちが向かったのは王都の観光スポット、噴水広場とエリンシャデリ大聖堂だ。
噴水広場は半径50メートル程のでかい広場で中心には半径10メートル程のヴェルサイユ宮殿内にある噴水みたいな大きな噴水がある。
すげぇ……
世界を飛び回って何度かこういう噴水を見て来たが、こんなにちゃんと見たのは初めてだ。
ポケットから銅貨1枚取り出して投げ入れる。
「あ!お金がもったいないじゃない」
「いいの」
そう言って、両掌を合わせて祈る真似をする。
何も祈ってないけどな……神様なんて信じてないし。
一通り観光し終わったら今度はエリンシャデリ大聖堂に向かう。
エリンシャデリ大聖堂とは王都エリンシャデリにあるからエリンシャデリ大聖堂といい、その大聖堂は一大宗教のアレストラ教会の聖堂だ。
アレストラ教会とは、女神アレストラを祀る宗教でこの世界人口の約40パーセントが信者の超超大宗教だ。
エリンシャデリ大聖堂に向かうとあまり人は多くなく、疎らとしていた。
見た目もthe教会という感じでとても神秘的だ。
門の敷居を跨ぐと死にそうな程、心臓を握り潰さんとするように心臓が痛んだ。
「ぐ、がぁぁぁああああ!」
「ど、どうしたの!?」
俺はまだ痛む胸の上に手を当てながらフィルの肩を借りて教会の敷地から出ると胸の痛みは最初っからなかったように消えた。
え、え、え?なんなの?今の……?
「だ、大丈夫?何があったの?」
「大丈夫だけど、さっきのがなんなのかわからない、とにかく心臓を捥ぎ取られるような感覚が襲って来たんだよ………もしかして」
「何かわかったの?」
「いや、何かわかったというわけではないんだが……中に行って聖書をもらって来てくれないか?」
「わ、わかーー」
その時だった。教会の裏口と思われる場所から王国兵とはまた違う大量の兵士らしき人物達が出て来たのだ。
その中の1人が高々に叫ぶ。
「異端審問官第16小隊隊長が命ずる!!異端者を捕らえよ!!」
『おお!!』
ええ!?なにこれ!?どういうこと!?っていうか俺たちが異端者!?
しかし、ここにいるのは俺達だけ。とても危ない感じがしたのでとにかく逃げることにした。
フィルの手を取り物凄い勢いで駆け抜けるが、大人と子供の足だ。どちらの方が早いかなんてお分かりだろう。
このままでは追いつかれると思った俺は自分の体に身体強化魔法を初見で成功するかどうかわからないがかけてみる。
しかし、成功した。
俺って天才なんじゃね!?
追われている身なのにそんなことを考えながらフィルを所謂、お姫様抱っこをして近くの屋根に飛び移る。
あ、危ねぇ……っていうか俺がなにしたっていうんだよ……
屋根の上でフィルを降ろして一息ついていると俺たちのことを見失って探し回っていた異端審問官が1人屋根の上に登って来た。
そこまでして追って来るの!?しつこくない!?
そんな無駄口を叩いている暇があるわけないので再びフィルをお姫様抱っこし、自分に身体強化魔法をかける。
当然魔力の流れを感じた異端審問官がこちらのことを見つけ、笛を鳴らす。
俺は身体強化魔法に加えて足の裏に爆裂系統の魔法をかける。
爆風で走るスピードをあげるのだ。
そのまま路地に入り入り組んだ道を縦横無尽に駆け抜けていく。
「もう追ってこないだろ」
「そうだね。で、ここどこ?」
ギクッ……背筋に冷たい視線を感じる。
「ええっと……わかりません」
「うん、闇雲に走るのは今後やめてもらおうか」
笑顔で言われた。
目が笑ってないです……はい。
「了解しました」
「で、どうする?」
「警邏してる憲兵でも捕まえて道案内させよう」
ヨーロッパの路地を彷彿させるような路地を歩いて行く。
とても綺麗だ。
色とりどりの壁。石畳の道。地面やベランダに置いてある花。その全てがこの空間を作り出し共存している。
猫が道端で昼寝をしていたり、舞い散る埃が頭上から降り注ぐ光に反射してキラキラと輝いて見える。
綺麗としか言いようがない。
そのまま二人で歩いていくと前方から二人組の憲兵が歩いて来た。
「あ、憲兵さん。道に迷ってしまったんで大通りに連れて行ってもらえますか?」
そう訪ねたのはフィルだった。
憲兵二人組は快く了承の意を示して「ついて来なさい」と優しい声をかけながら歩き出す。
その間、俺がなにをやっていたかというと、腰に取り付けてあるバタフライナイフに手をかけていた。
はぁ………めんどくさくなりそうだ。
心臓の痛みは後々わかります。
ヒントはサブタイトルと同じ教会ですね。