エフィロス王国の戦争 3
今回、ちょっと短めです。
テスト……辛い。
葵はシャイトに指示された場所に来ていた。
白い透き通るような髪を遊ばせ、腰から伸びている白い尻尾は左右にゆっくりと揺れている。
服装は戦場には似つかわしくない、白磁器のような白い肌とよく似合う白色と銀色のコントラストの着物。その着物はチャイナドレスのように足の脇が人為的に切られ、艶やかな素足を晒している。
武器も何ももったいない女は、戦場とは思えないゆっくりとした歩みで第一師団に近づいていき、妖艶な笑みを貼りつけながら一人の兵士の首をどこからともなく取り出したナイフで掻っ切った。
切り口から勢いよく流れ出る血で、白い髪、白い肌、白い着物を赤に染め、何事もなかったように歩き続ける。
「何者だっ!?」
その女--葵の進行方向に一人の若者が遮るようにして出て来た。手には使い古された剣を持っていて、着込んでいる鎧にはいくつもの細かい傷が見える。
若者だということと、一般兵士の装いからあまり警戒していなかったが、立ち居振る舞いと仲間が鎧袖一触で倒されているというのに立ちふさがることのできる勇気を見て、警戒レベルを数段引き上げた。
「き、キシェル様……っ!」
キシェルと呼ばれたその青年は、片腕を上げてその言葉の先を遮る。
「私がやる。邪魔はするな」
「面白いこと言うのね、坊や」
口調の変わった葵は手に持っていた二本のナイフを投擲し、相手の視界を遮ると、チャイナドレス風の着物の下に隠し持っていた拳銃を引き抜き。
ドンッドンッドンッ!
引き金を三回連続で引き絞った。
青年は自分の顔面めがけて飛んで来た二本のナイフのうち一本をはたき落とし、もう一本を顔を横にずらすことで回避する。
しかし、続く拳銃による攻撃は防ぎきれなかったのか、鎧に当たり……跳ね返した。跳弾した弾丸は周辺で見物人に徹していた兵士に突き刺さる。
「!?」
ただの鎧にしか見えないものが弾丸を跳ね返したことに驚きを隠せなかった葵の眼前に、青年の剣の刃が迫る。
次の瞬間、金属と金属の打ち合う音が響き、火花が散ると、白く発光している鎧を着込んだ青年の刃を白い着物を着た女の爪が互いに押し合い、拮抗している様子が映し出された。
「爪!?」
今度は青年が驚くばんだった。
女の指から伸びる爪は、金属のような光沢を持っており、その長さは400ミリにも届きそうだ。
青年は力任せに女を押すと、女はその力に逆らおうとせずに逆に利用して青年から距離をとった。
「君は、何者だ?」
そう青年が問う。
「私はただの葵。七剣でもなければ、七魔でもない」
その答えに青年は驚きを隠せなかった。七剣である自分と互角に見える戦いをしておきながら、七剣でも七魔でもないと言うのだ。
葵は青年が驚いた隙に伸ばした爪を元の長さに戻し、懐に忍ばせておいた投擲用ナイフを肩、大腿、額の五箇所に向かって投げ、銃の引き金を引いた。
驚きで反応が遅れた青年−−キシェルは持ち前の動体視力で投擲されたナイフを剣で払い、彼だを少し動かすことで避けたのだが、次に到達した弾丸は動体視力ではどうにもならなかった。
全て計算された弾丸は的確に鎧の装甲がないところを貫いた。
「その武器はなんだ!?卑怯だぞ!!!」
膝裏を撃ち抜かれ、立てなくなったキシェルのそばに駆け寄る部下と思われる人物が声を上げるが、葵は顔色一つ変えずに受け流した。
「大砲という武器を使っときながらこれすらもわからないの?見たことぐらいはあるんじゃない?」
拳銃を見せつけながらいうと、キシェルが部下の肩を借りながら立ち上がり、いった。
「歩兵携帯用小型砲」
「しかし、それは最重要軍事機密では!?」
隣の部下がそんなことを口走る。最重要軍事機密なのならそんな大声で出してはダメじゃないだろうか。
「フォルムも違うし、装弾速度も桁違いな上に何より連射ができている。大きさもかなり小さい」
「そ、それではまるで」
「ああ、あちらの砲の方が優れているのだろうな」
それはそうだ。この世界の文明と現代社会の文明を同列に扱う方がおかしい。
副官のような男が顔を青くする。それもそうだろう、敵の持っている武器が自国の最新兵器を軽く凌駕する性能を見せつけているのだから。
しかし、それとは対照的に、キシェルの方は顔を赤くしていた。怒りからくるものではなく、興奮から来ているものと考えられた。
「久しぶりだ。同等かそれ以上のものと戦うのは」
「それは私を買いかぶりすぎ。正面から戦ったら一方的に負けるもの」
まあ、正面から正々堂々と戦ったらの話だけどね。と葵が続ける。
「第二ラウンドと……っ!!」
仕切り直しの言葉を言い終える前に、葵の持っている軍用ナイフがキシェルに牙を剥いた。
キンッという金属同士がぶつかり合う音が一度なろ響いたかと思うと、それを皮切りにして何度も何度も金属音が鳴り響く。
時に砂の舞い上がる音が、時に打撲音が、金属音に混じり、すぐに消される。
つま先で砂を舞い上げ、その隙にキシェル首を切ろうとするが、どこからか湧き出した剣の刃がそれを防ぐ。
そんなのは予想通りとばかりに反対の手で持つ軍用ナイフを相手の脇に向ける。が、それすらも剣で弾かれた。
強いっ!!!
そんなことはシャイトから聞いていたし、七剣ということから予想はしていたが、いざ刃を交えてみると見た目と雰囲気から察することのできない強さが見えてくるものだ。
転ばせようと、下段の回し蹴りを放つが、飛んで交わされる。
「はあ!?」
そう口に出さずにはいられなかった。
相手は両足を銃弾で撃ち抜かれているのだ。普通ならば飛ぶことなんてできないはずだ。興奮して痛みが多少薄れているとしても、そんなことで痛みを忘れることのできる傷ではないはずだ。
そして、葵が驚くこととなった元凶は、シュタッという音がつきそうなほど華麗に着地を決める。
生まれる世界が違ければ、オリンピック選手として活躍していたこと間違いなしだろう。
驚きから立ち直った葵は、アリスから教えてもらった魔法を行使するために魔力を練り始める。
葵の膨大な魔力が動き始めたことによって、何をするのか観察していたキシェルが、猛スピードで駆け出す。
彼我の距離は約25メートル、あってないような距離だ。
しかし、これを狙っていた葵は魔法を完成させた。
「敵の命は・風前の灯火・吹けよ・荒れよ・刻め!!!」
「『獄風』!!!」
最後だけ日本語で言われたその魔法は葵のオリジナル。威力だけ見れば第三位階魔法にも匹敵するそれは、突進して来ていたキシェルの体を包み込み……暴れた。
風が吹き荒れ、砂を巻き上げているため魔法が発生している中心の様子は分からない。
しかし、徐々にその風に赤色が混ざり始め、周囲で傍観していた兵士たちの体に鮮やかな赤色の液体が付着する。
そして、葵は追い討ちをかけるように、中心に向かって弾倉内に残っている弾を吐き出させた。
「うわぁ、あの子めっちゃ強そう」
遠くで繰り広げられている戦いを目にした狐面をつけた男がそう呟く。
「ほんとね、けど勝てない相手じゃないわ」
その飛ぶやきに同意するように、女の声が聞こえる。
この女もまた、狐面をしている。
その出で立ちは、先ほどキシェル・リンブランと戦っていたものたちに見えるが、男の背には戦斧が背負われており、女の方は魔法使いのような格好ではなく、取り回しの効きやすい身軽なローブを着ており、ローブの内側に大量のナイフが見え隠れしている。
見た目で判断するのであれば、男の方が戦士系で女の方が暗殺者系だろう。
そして、その二人の背後に突如人影が映し出された。
しかし、二人は慌てる様子もなくその二人組を迎え入れた。
「目標の暗殺には失敗したわ」
「行けると思ったのによ」
その声を聞いて、ハルバードを背負っている男が立ち上がり。
「しょうがない」
そう呟くと、女の方も呟いた。
「私たちは成功させるとしましょう」
そう言って彼らは鋭い視線を、遠くで無双化している銀髪のエルフ族に向けた。




