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妖狐の異世界転生旅  作者: ポポ
第3章 エフィロス王国
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エフィロス王国の戦争 2

 エフィロス王国(表)の首都の城壁内部、火砲が大きな音を鳴らし、その筒ないから吐き出された黒い鉄球が城壁にぶち当たる。

 城壁は何らかの魔法がかけられているのか、天井から埃が落ちる程度の振動で収まっていた。しかし、この世界の人々にとっては未知の攻撃だ。

 指揮官がエフィロス王国(裏)の人間であれば何とかなったかもしれないが、ここに駐留していた指揮官は運が悪いと言うのか不明だが、表の人間だった為、兵士たちの混乱が収まらなかった。


ドオォォォンン!!


 また一発城壁に着弾し、大きく揺らしながら城壁内に反響した。


「何なんだよっ!」


「くそ!どうすりゃいいんだ!」


 そう言う戸惑いの声が城壁内に響く。


「音が鳴る間隔とからして、敵の大砲は4〜5門かな」


 冷静に判断した葵がそう告げてくる。

 シャイトはその報告を聞き、周囲を見渡した。フィルは何が怒っているか分からないような顔をし、深青は爪を伸ばして周囲を警戒している。


「葵と俺、それから……クイとリャクは大砲の破壊及び敵指揮官の殲滅。フィルはここで待機、深青はフィルの護衛。残りは敵兵士の殲滅」


 フィルが不満そうに手を挙げた。


「私も戦いたい」


「ダメだ」


 シャイトがそう冷たく言い放つと、不満そうな顔をさらに不満顔にしながら言い募ろうとしたが、シャイトの続く言葉に遮られた。


「火薬を使った飛び道具の恐ろしさを知らない奴を前線に出すことはできない」


「で、でもっ!」


「聞き分けてくれ。今度戦い方を教えてやるからよ」


 戦い方を教えてくれると言うことで溜飲が下がったのか、小さく頷いた。



⭐︎



 大砲の金属塊を打ち出す音と、投石機の石が地面を抉る音が戦場に響き渡る。

 エフィロス王国兵(表)は見たこともない大砲によく立ち向かっていると言えるが、大きな音と早すぎて見えない砲弾に戦友がられることで士気は最低だ。

 そんな戦場で、果敢にも敵軍に突っ込む奴がいた。

 銀の髪と人間よりかはやや長い笹簿耳、一見魔術師に見えるような軽装と腰に吊る下げた槍が特徴の男だった。


「草薙流槍術”陣”」


 男がそう言うと同時に、男に群がってきていた敵兵士が近くに居た者は槍の柄で吹き飛ばされ、矛先あたりに居た者は頭と胴が永遠の別れを告げた。

 吹き飛ばされたものに関しては、首が変な方向に向いて居たものがほとんどだった。


「き、貴様……っ!!」


 一人の敵兵士が仲間の仇というように背後から襲いかかったが、槍の間合いに入った瞬間に細切れにされる。それこそ、10ミリ四方のサイコロ切りにされた。


「何だ?帝国軍がこんな一人の人間に恐れ慄いているのか?笑わせてくれるな」


 さっきの仲間のように自分たちが細切れにされるのを恐れ、遠巻きに見て居た兵士たちに嘲笑を混ぜた皮肉を送る。


「こ、この!」


「やっちまえっ!」


「所詮一人!」


「多勢に無勢!複数人でいけば勝てる!」


 この男の挑発にまんまと引っかかった敵国兵士たちに、哀れみの感情を多分に含んだ冷たい視線を向け、次にこの部隊を率いている隊長を見ると、馬上で自分のヒゲを弄りながら踏ん反り返って居た。

 

「愚か者たちめ……せめてもの情け、受け取るがいい」


 男はそういうと、腕が消えたと錯覚するほどの早さで槍を振り回し始めた。




 それを遠目でシャイトは見ていた。


「あの人すごいですね、よく腕がもげませんね」


 すぐ後ろに控えていたリャクが小さく独り言を漏らが、


「あれはただ単に早いんじゃない、的確に人間の死角をついてるだけの攻撃だよ」


 その独り言を聞いた葵が、自分の反則的な五感で感じ取ったことを伝えた。


「相手の死角をついているだけなのなら、何でこちらから見ても何も見えないのか不思議ですわね」


 そのクイの口から出た疑問に、シャイトが答える。


「それがあいつのすごいところだな。第三者の目から見ても早すぎるように感じる……人間の目の構造をうまく利用している」


 そのシャイトの言葉に納得したのか、クイとリャクは頷きながら視線を正面に戻した。



⭐︎



 金属と金属が打ち合う音が聞こえる。その音の発生源は二人の人間が持つ金属でできた剣だった。

 ここは、銀髪のエルフが出没した場所とはまた別の場所。人目につきづらい森の中だ。


 数度打ち合う音が響くと両者は弾け飛ぶようにして後方に身を引いた。その直後、魔法でできた稲妻が先ほどまで撃ち合っていた場所を通り過ぎる。


「おいおい、俺まで焼こうとしてどうするんだよ……」


 狐の覆面をかぶった黒ずくめの男が呆れの混じった声を上げる。


「チッ……今ので死ねばよかったのに」


 そう愚痴りながら森の木々の間から姿を現したのは、こちらもまた狐の仮面を被った黒いローブで身を包んだ魔法師に見える女だった。


「……銀狐っ」


 狐の仮面を被っていた男と対峙していた、騎士装束に身を包んだ男が畏怖と恐怖を混じらせた小さく言葉にする。

 騎士装束に身を包んだ男は背中に冷たいものが走るのを感じながら、自分の体を騙しながら、剣を構える。


「あら、私たちを銀狐だとわかった上で喧嘩を売ってくるとわね、今なら見逃してあげてもいいけど?」


 その女の甘い囁きを聞いて、騎士の男が一瞬固まるが、すぐに元に戻り、辺りを見渡す。

 そこには、先ほどまで同僚だった物がころっがている。


「ここで逃げては騎士の恥っ!!仲間の死を無駄にはせぬ!!!」


 気丈に言い張るも、カタカタとかじかむ歯に、ガクガクと震える足ではまともに戦えないだろう。先ほどまで目の前の男と打ち合えていたことが不思議に思えるくらいだ。

 そして、騎士の男が一歩踏み出すと、大地が裂けたかのような音が辺りの響き、砂塵が舞う。

 乾燥していない湿った黒い土なのにもかかわらず、視界を土が覆った。


 狐面の男の背筋に嫌な汗が流れ、感の赴くままに剣を振り上げると、ガギィンという嫌な金属の擦れる音が砂埃の舞う静寂に包まれた森に響き渡る。

 その擦れ合う金属音は一度だけではなく、何度も何度も森にこだました。


「水よ・貫き・我に力を貸し給え『ウォータレイ』!」


 女魔法師の声がすると同時に、数え切れないほどの水の線が生まれた。

 それらは木々に当たると何の抵抗も見せずに貫通する。


   第二位階魔法”ウォーターレイ”


 普通の魔法師ならば、凄腕といわれるものでも8条程が限界と言われている。

 これだけの数を一度に出せる魔法師など、そうそういない。これだけの数を打ち出せるものなど……七魔人しかいない。


「七魔人!?」


「そんなに強くはないわよ。一対一じゃあ負けるしね、でも二対一なら負ける気はしないわね」


 切羽詰まったような騎士の声音に対して、女の声音は余裕の笑みすら浮かべていそうなほどに軽い。


「おらおらおらおら!そんなに驚いてる場合か!?」


 一瞬の気の緩みを突いて、狐面の男が畳み掛けるようにして剣を振るう。一見無造作に振るっているようにも見えるが、実際相対してみると洗礼された剣術だというのがわかる。

 そして、すでに視界は回復している。女魔法師が風の魔法で吹き飛ばしたのだろう。


「くっ……!、強いっ!」


「そりゃどうも!」


 今押しているのは狐面の男の方だが、これまでの戦闘を見る限りでは、騎士の男を倒すより体力が先になくなるのが早いだろうと女魔術師は冷静に判断する。

 対して、騎士の男の方はバテる気配はない。ましてや、チャンスを狙って機を逃さないようにしているようにしか見えない。


「引くわよ!悔しいけど今の私たちじゃ勝てそうにないわ」


「何でだよ!今押してるようにしか見えないだろ!俺の感が今しかないと叫んでいる!!!」


「あんたの感なんて一度も当たったことないでしょう!?口答えせずにさっさと引くわよ!」


「痛いところついてくるなぁ!そう言われたら引くしかないじゃん」


 不満顔を隠そうともせずに口にしながら、騎士の男から一足跳びで距離を取ると、手に持っていた剣を鞘に収めた。


「逃すかっ!」


 それを追おうとするが、女魔法師の牽制によって行く手を阻まれた。


「じゃあね、また会うことがあればその時はよろしくね」


 女は仮面に覆われていない口元をニヤリと歪めると、手に持っていた杖を一振りすると姿を消した。男の方は懐から出した石を砕いて女同様に姿を消した。


 騎士の男は視線を自分の剣に落とし、剣身についている血糊を布で拭き取った。

 鞘と剣身が擦れる音が静寂に包まれた森に気味よく響くと、背後の木々の間から数十人単位の足音が近づいてくるのが聞こえる。


「キシェル様、ご無事でしたか!」


 隊長格と思われる人物が大きな声をあげながら騎士の男に近づく。

 騎士の男はゆっくりと振り返り、鷹揚に頷いた後、後ろの兵士を見遣ってから指示を出した。



⭐︎



 ”妖狐”という異名は人々に恐れを抱かせるとともに、希望を与えていた。


 今、シャイトは黒剣を片手に持ち何百人もの兵士を相手にしている。

 他人から見たらものすごい偉業に見えるが実はそうでもない。一人のニンゲンに一度に攻撃できるのはせいぜい5、6人だろう、もちろんフレンドリファイアを恐れなければ遠距離攻撃もできるので何百人にも膨れ上がるが、軍隊というものはフレンドリファイアを恐れるのでとても戦いやすい。

 まあ、このように思えるのは人類最強と言われる者達だけであろうが。


 上段から振り下ろされる大ぶりの攻撃を背後にいる兵士の首筋を斬るような道に流し、突き出される槍の矛先を黒剣で切り落とす。そして、切り落とした槍の矛先を先ほど仲間を斬った者の首に突き刺し、息の根を止めてから、矛のない槍を持っている兵士を断頭する。


「次は誰だ?」


 黒剣に付着した血を剣を一振りすることで吹き飛ばし、鋭い眼光を様子見している兵士達に向ける。

 その射殺さんばかりに殺気を込められた睨まれた兵士たちはバタバタと前の列の奴から倒れていく。酷い奴は失禁している。


「お、お前らっ!!たかが一人に何を手間取っている!さっさと殺さぬか!!」


 状況のわからない頭の中がお花畑の指揮官が喚き立てる。少しこんな指揮官を持った兵士たちに同情してしまう。


「なら、お前が来いよ。馬上で喚き散らしている指揮官さん?」


「お、お、お、お前!この私を愚弄するか!この貴族の私に!!」


 シャイトの挑発に意図も容易く乗っかる指揮官に、シャイトが可哀想な物を見る目を向けると、さらに頭に血を登らせた。


「貴族だか何だか知らんけどさ、お前ウザいから死んでくれない?」


「ウザいから死ねとは……いかにも脳のないものが言いそうな言葉だな」


 ちょっとは頭から血が引いたのか、先程と違って喚き散らすことなく喋る。


「なら、その脳のない奴に少々稽古をつけてもらえませんかね」


 シャイトがそういうと、馬上の貴族は恐れたような顔をする。


「あるぇ!?そんな顔をしてどうしたんですかぁ?まさか怖いから稽古をつけるのはまた今度とは言いませんよねぇ?」


 いつもとは違う口調で挑発をすると、貴族はその身につけた無駄に豪奢な鎧をガシャガシャと鳴らしながら馬上から降りた。

 正直まじ怖いんですけどと言いそうな顔をしなしながら剣を構えた。

 ここまで挑発されて戦わないと臆病者と他の貴族に罵られ、兵士たちの信用は失い、ここで何もせずに帰ると国から追い出されかねないため、怖くても剣を構えたのだ。


 そんな表情とは裏腹に、貴族は悠然とシャイトに向かって歩き出す。


「いいだろう、そこまでいうのであれば私が相手になろう」


「本気で来いよ。じゃなきゃ、死ぬからな」


 相変わらずな態度に、目の前の貴族は怒気を発するがどこ吹く風とシャイトは受け流す。


「私の名はエイジャックス・ド・ペルシオン、ペルシオン家の次期当主であ……がっ!」


 馬鹿正直にも口上述べ始め、さらには目をも閉じて踏ん反り返っていたペルシオンの頭頂部に、シャイトが持つ黒剣の柄が振り下ろされた。

 脳を揺さぶられ脳震盪を起こしたペルシオンは何もせずに衛生兵に連れて行かれた。


「よっわ」


 シャイトがそう呟くと、頭が薄くなりかけている馬上の中年男性に怒鳴られた。


「口上を述べている時は攻撃しないのが暗黙のルールだろうが!そんなこともわからんのか蛮族め!」


「え、ここ戦場なんだけど……そんなことしてる暇があったら一人でも多くの敵兵を狩るでしょ、普通」


「き、貴族は普通じゃないのだ!!!」


「うわきったね、唾飛んだんだけど……どうしてくれんの?クリーニング出さなきゃいけなくなったじゃん。三千万ルイス請求します」


 フィルからもらったローブに付着してしまったキモおじさんの唾をそこらへんに落ちていた落ち葉でふき取りながら、どこぞのチンピラみたいなことをいう。


「さ、三千万ルイスだと!?ぼったくりにもほどがあるわ!というか、お主なんかにやる金などな」


 そこまでいったところで、中年ハゲおじさんの頭が吹き飛んだ。

 そう、頭がいきなり消えたかと思うと、次の瞬間にはボトリという音がして兵士たちの前に転がっていたのだ。

 その頭は未だに口を大きく開けて怒鳴っているような顔をしている。自分が死んだことも理解せずに他界しただろうことがうかがえる。




 目の前に転がるいくつもの死体、主人のいなくなった二匹の馬、その真ん中に佇むローブを着ている黒剣を持つ男、それを遠くから窺う大量の兵士たち。通常の戦場にはない奇妙な空間がそこには広がっていた。


「まだやる?」


 シャイトが死神の笑みを浮かべながら問うと、兵士たちは無言で勢いよく首を横に振り、手に持っていた武器を地面に放り出した。

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