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妖狐の異世界転生旅  作者: ポポ
第3章 エフィロス王国
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エフィロス王国 3

硬質な物と金属がぶつかり合う戦闘音が周囲のあちこちで響き渡る。


「雷帝よ・我に力を」


レミルが唱えた二節の呪文に応じて、雷がレミルの持つ剣に纏わりつく。この魔法は中の上、第二位階魔法サンダーロープという。捕縛系統の魔法ではかなり上位に位置づけられる魔法で、普通は二節では終わらないが、そこはさすが七剣人の一人というべきだろう。


レミルが相手取っているのは、“巨熊ジャイアントベア”という魔物をベースにして作られたキメラと、“エクリプス”という不定形の魔物をベースに作られたキメラの二種類だ。


「死ねっ!!!」


そう言いながら手に持つ剣を霞むような速度で熊型キメラに打ち付ける。雷を纏っているためか、普通ではあり得ないような剣線が空間を走るが、バチバチとちょっとだけ放電した後はすぐに消えてしまった。

それよりも、と考える。熊型キメラは雷を纏った剣を強化された極太の爪で受け止めたのだ。

そう、受け止めた・・・・・のである。


レミルはここぞとばかりに剣に込める魔力を増大させて、雷が保有するエネルギー量を増やすが、熊型キメラは少しだけ嫌そうな顔をすると、その豪力で持ってレミルの剣を弾き返した。


レミルが驚きの目で熊型キメラを見るが、すぐに視線はもう一体のキメラに移された。

この場合、熊型キメラから目を離すのは危険だと思われたのだが、もう一体のキメラが攻撃を仕掛けてきたので移さざる得なかったのだ。


「流石の七剣人とて、S級キメラを片手間で相手取ることなど不可能だしねっ!」


不定形のエクリプス型キメラは、魔法主体の攻撃で、魔物の名前からして想像がつくかもしれないが、闇属性の魔法が得意だ。物理攻撃は効かないし、してこない為、魔法を使う魔法士でないものにとっては恐怖の対象となっている。


毒系統の魔法を純粋の魔力障壁で防ぐと、合間を縫って肉薄し、斬りかかる。先程説明したように、物理攻撃が効かない相手なのだが、それはただの物理攻撃であった場合に限る。イコール、何かしら付与がかけられた武器であれば有効な攻撃と化すのだ。


そして、現在レミルが手に持っている剣は雷が付与されている為、有効な攻撃となるだろう。

そう思っての行動だったのだが、斬りかかっても一向に効いている様子が見えない。


疑問に思ったレミルは、一旦距離を取るべきだろうと判断して、バックステップで二体のキメラの攻撃範囲を抜け出した。


油断なく雷を纏った剣を構えながら、状況を分析する。


この世界に魔法が効かないと言われている・・・・・・魔物や動物はミストと呼ばれる魔物と東洋型の龍だ。

そして、エクリプス型キメラに龍が混ざっているようには見えない。となると、ミストという魔物が合成されているのだろう。


ミストという魔物は、一般的に魔法は効かないとされているが、それは間違いで、正確には“第六位階魔法以外の魔法を受け付けない”というこの魔物の特性が原因である。この事実を知っているのは極少数のみで一般的には広まっていない。


「原因がわかったところでどうにもならないわ……これ」


そんな時思い出した。


――師匠がいるではないか!


そんな期待の眼差しで、師匠と尊敬する者がいるであろう方向を向くと、


人間が戦って出来たしまった土地と言われて、納得できないような……そんな出鱈目な光景が広がっていた。





シャイトは、狐面無しに解放した天狐の力を用いて神器である神刀を召喚し、腰に吊るしていた黒剣を抜いた。

顔には幾条もの赤い線が走っており、それは、狐面の赤いラインと似ている。

また、そのシャイトから発せられる空気がいつものような少し気の抜けたものではなく、尋常ではない威圧を放っており、周囲の草木は風も無いのに揺れ動き、妖怪と言われて相応しい怪しさを放っていた。


薄明光線と言われる、雲の間から射す月明かりが、反射して神刀“羽張”が怪しく輝き、黒剣が鈍く反射する。

キメラは思う。小さな……それこそ、自分の一挙手一投足で死ぬ矮小な人間から、何故、このような恐怖を感じるのか……何故、死を覚悟しているのか……。

そんな自分がいることを悟り、キメラは怒り狂う。頭が冷静な判断を下せない状況にまで怒り狂う。


それが、目の前の化け物が施しているだと知らずに。


「さあ、楽しい楽しい殺し合いの時間の始まりだ!」


月明かりに照らされ、一瞬見えたシャイトの表情は、口端が釣りあがり、心の底から楽しんでいるような……よく想像する悪魔の笑顔に似ている。


ケンタウロスをベースとしたキメラは、血が頭に登り、正常な思考能力を発揮できないのか、口から涎を撒き散らしながら大剣を片手に突進してくる。

その大剣を振り上げ、シャイト目掛けて振り下ろす。 振り下ろされた大地には亀裂が入り、激しく隆起するが、所詮それだけだ。そんなパワーを持っていたって当たらなければ意味がない。意味があるとしても、足場をちょっと悪くするだけだ。


続けて何回も振り下ろされるが、怒りに任せて振るう大振りの攻撃など当たるはずもなく、紙一重で避けながら無駄な動きを全く見せずに、ケンタウロス型キメラに接近。


分厚い金属製の鎧の上から、神刀“羽張”を突き刺す。 左胸の上から突き刺し、背中に抜ける。


万物を切り裂く神刀“羽張”というのは本当のようだ……と、感心したように突き刺したままの“羽張”を見ていると、視界の端で動くものが見えた。


驚きの表情でそれを見ると、既に振り下ろす体制に入っていた大剣を握る腕だった。


回避しようにも“羽張”を突き刺している状態では動けないし、かと言って“羽張”を手放して回避すると、“羽張”が敵の手に渡る可能性がある。魔法で防御しようにも、防御力が足りないし、妖術での防御は時間がかかりすぎる。 黒剣で受け止めれば、あの威力だと自分の腕がぶっ壊れるだろうし……


ゼロコンマ数秒でその事を全て考え、最良の決断を下す。


(腕がぶっ壊れても知らん!)


大剣が通るだろう道筋に黒剣を翳し、そこに持っている腕の肘を当て、衝撃に耐える。


が、いくら待っても(0.8秒)衝撃が来ないので、不思議に思った途端に、脇腹に衝撃が走った。

その瞬間に、衝撃が逃げる方向に向かって飛んだが、少し遅すぎた。普通に受けるよりかはいいと思ったのだが、その次に来た地面との接触時に来る衝撃の方も笑えないほどだったので、あの時耐えておけばよかったと思うが、後の祭り。


「うおぇ……ペッペッ」


血反吐を地面に吐き出し、ちゃんと黒剣と羽張の両方が握られている事を確認して、自分を褒める。


脇腹に損傷を負っておいて、“羽張”までもキメラの胸においてきてしまいました〜なんて笑えない冗談だ。


ケンタウロス型キメラを正面に、構え直すが、脇腹の損傷が激しいらしく、激痛が走る。しかし、治癒系統の妖術を使うとなると、時間がかかりすぎるし、魔法は適正がない為かなり使いづらい。

しょうがなく脇腹に鋭く走る激痛を堪えるが、今後の戦闘に支障が出るだろうと判断して、早々に決着をつけることにする。


「どうしたものかな……」


胸に一突きされた為か、熱が冷めてしまったキメラが油断なくこちらを伺っている。この状態では迂闊に攻撃に出ようにもすぐに迎撃されるし、脇腹の痛みで本来の攻撃力を出せないかもしれないが、この膠着状態をなんとかしなければこちらが不利になる一方だ。


今この状況で切れる手札は、二つ。

一つは、体がぶっ壊れる覚悟で身体強化を施し、“羽張”の能力任せにキメラの首を切断する。

もう一つは、タイムラグのほとんどない〈ディレイトキャノン〉を使用して、キメラを吹っ飛ばす。


上記二つにはそれぞれのメリットもあるしデメリットもある。

一つ目のデメリットは、賭け要素が強いことにある。 もしキメラに反応されて回避でもされたら終わりだし、この身体強化で肉体崩壊を起こしてもおかしくない。

メリットは、周囲への被害を最小限に抑えることが可能になる。

二つ目のデメリットは、周囲への被害が多大になるほか、レミルからの伝授申し込みが絶え間なく続く。また、射線上に誰かが入ってきた場合、タイムラグがほとんどないこの魔法はキャンセルできる時間も非常に短い為、巻き込む可能性がある。

メリットは、確実にキメラを仕留めることが可能だ。


「ふむ、一つ目だな」


結論は、一つ目に出た“キメラの首を切断する作戦”になった。作戦と言っていいのかどうか分からないが、この結論に至った理由はシンプルだ。

守ろうとする為に戦っているのに、その守る相手を巻き込んでどうするのか……ということである。


暗黒物質操作というスキルを使って魔力を作り出し、それを自分の全身にくまなく渡るように巡らせる。イメージとしては身体中に張り巡らされている毛細血管のイメージだ。


内臓の損傷部から血が出たのか、痛みが走るが気にしないようにしつつ、その傷口を魔力で縫い合わせるかのようにして、身体強化と同時に回復も忘れない。


口内に溜まった血を吐き出して、その血で万が一のための保険である妖術を自身の体にかけておき、準備が整った。

その間で、当然ながら襲いかかってきていたキメラだったが、シャイトが先の戦闘で事前に設置していた固定式の罠にひかかってタイムロスしてしまい、現在も手こずっているようだ。


「これは……予想外だな」


あんなにあからさまに罠ですよと宣言しているような罠に引っかかる馬鹿がいると思わなかったし、もし、引っかかったとしてもすぐに脱出できるようなものなのだが……どうやらあのケンタウロス型キメラには難しかったようだ。

普通、ランクが高ければ高いほど高知能を持つと言われている魔物だが、魔獣キメラにされた後遺症なのか、知能が驚くほど低い。魔物で言えば、ゴブリン並み。


しかし、相手はあれでもSS級……油断は禁物だ。

ちょっと緩んでしまった緊張感などを締め直し、黒剣と羽張を構える。


腰を落とし、眼前に構えた防御兼カウンター用の黒剣と、後ろに出来るだけ引き絞った攻撃用の羽張の状態を確認してから、地面を蹴った。





バゴンッッッ!!


地面を蹴っただけでなってはいけないような音がしたと思うと同時に、シャイトの姿を探すと、既にキメラの懐深くに入り込み、羽張を渾身の力で持って振り抜こうとしているところだった。

あまりの速さに、あっけに取られていると、自分が相手にしていたS級キメラ二体が同時に深青に襲いかかる。


即座に強化した爪を振り切って、その攻撃範囲から抜けようと、素早い動きで躱したサーベルウルフの眉間めがけて投げナイフを投げつける。

そして、爪を振り切った反動を利用して、レッグホルスターから抜き出した刃渡り三十センチ近くある軍用ナイフを、自分の背中を脚力のみで吹っ飛ばそうとした可愛らしいカンガルーのようなキメラに向かって切りつけ、追撃とばかりに爪で追い討ちをする。が、独特のサイドステップを刻み、全て躱される。


少々イラついてきた深青は、体内……というか、魂に流れる神力を使って神法を使い、この戦闘に終止符を打とうとするが、発動前にスピードファイターの二匹が邪魔をしてきて、十全に使えない。


このように、どちらとも決め手に欠ける戦闘が数十分続けられているのだが、そろそろ体力の限界に近い。

いくら神からもらった人外に近い体でも、所詮は人間の肉体、体力は有限だ。


一か八かの勝負に出るしかないのか……そんなことを感じ始めた時、上から何かが降って来る気配がして、その場を跳び退く。

跳んでいる間に、キメラ二体が好機と見て襲いかかってきたが、即発動できる簡単な魔法を牽制として放ち、それでも抜けてきた攻撃を強化された長い爪で迎撃する。


危なげなく着地をして、油断なく辺りを見回すと、先程は無かったものが、キメラと深青のちょうど真ん中に突き立っていた。


「刀?」


月明かりで照らされ、紫色に怪しく反射する刀身に、立派な金色の鍔。

そう、それは………


「叢雲!?」


叢雲、使用者の血を吸って能力を行使する。殆どの液体を操ることができるというチートな能力を持つ反面、使い過ぎると使用者をも殺すというとっても危険な妖刀。


「使っとけ! 血迷って全力出すなよ! 死ぬからな!!!」


そう深青に言うのは、五体のキメラの内、一番強い個体と戦っているシャイトだった。

声の主人の方を向けば、笑顔で手を振り返してくれる。


身体中にいくつも負った細かい傷の痛みも吹っ飛び、温かい気持ちが心を支配する。――これが恋……なのかな。

そんな場違いなことを考えつつ、叢雲に駆け寄った深青は、戸惑いなくその柄を握りしめ、地面から引っこ抜いた。


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