帰ってきました。
三章開始です!!
これからもよろしくお願いします!
「んぐぅぅ〜〜〜〜〜っ!」
久しぶりの太陽の元で、伸び伸びと背中を伸ばす。 現在は機械の体なので特に疲労を感じないのだが、人工ではない太陽というものはやはりいいものだ。
シャイトの服装は、ボロボロになりつつあるローブに、腰に剣帯を巻き、そこに黒剣をつるさげているという形だ。
深青は、特にこれといった装備などはしておらず、ちょっと街では浮くかな?程度の服装だ。
目線をぐるりと回して、辺りを確認する。 近くには森というよりも、林に近い樹林があり、それ以外何もない草原が広がっていた。
足首にも届かない草は自然芝生となっており、風に揺られて様々な模様を作り出している。
そして、シャイトの視線が一ヶ所に止まった。
「おい、どこ行こうとしてるんだ?」
抜き足差し足で、音を立てないようにしていた少女が見つかる。
「い、いやぁ……もう送り届けたんですし、帰ってもいいかなぁ……なんて思ったりして」
「そうか、そんなに還りたいか」
「ん? なんかイントネーションが違うような……意思疎通が出来ていないような」
少女がそこまでいったところで、シャイトは腰に吊るしていた黒剣を抜く。
太陽の光を受けて、艶消しされた剣身が反射する様は、異様な雰囲気を放っていた。
「え、ちょっちょっと待って! 話が違くない!?」
黒剣をギラつかせながら、底冷えするようないい笑顔で言う。
「話は違くないよ。 ほら、なんていったかそのたりない脳味噌で考えてごらんよ」
酷く優しげな声は、逆に少女の恐怖を煽った。
「え、……た、たしかに殺さないって…………あ、」
そこまで考えたところで気付いたらしい。
「そう、俺はね、この場では殺さないっていったんだよ。 屁理屈に聞こえるかもしれないけど、そう言うことだから」
黒剣を上段に構え、とてつもなくいい笑顔で、少女に迫る。
「ま、待って……私まだ死にたくない。 いや、嫌だ。 まだ死にたくない!死にたくないっ!」
「知らん♪」
語尾が何故かウキウキした感じに聞こえ、問答無用と黒剣が少女の首めがけて振り下ろされた。
黒剣の刃は、何の抵抗もなく少女の首を切断する。
頭が無くなった胴体は、首から大量の鮮血を撒き散らしながら地面に倒れた。
ゴロゴロと芝生の上を転がる頭は、目から涙を流していた。
「やっと終わったな!」
いい仕事をしたっ! と言わんばかりの、キラキラとした汗を拭いながら深青の方に体を抜けると、深青が引いていた。
「え、そんなに引かなくても……良くない? ちょっと、我のメンタルじゃ耐えられない」
そんな馬鹿なことをシャイトが言うと、深青が質問した。
「何であんなに笑顔だったんですか?」
「怖がらないようにとの配慮です」
「語尾がウキウキしていたのは?」
「怖がらないようにとの配慮です」
「無駄な配慮だったね」
「ごもっともで」
シャイトも切り落とした頭が涙を流していたことに気が付いて、無駄な配慮だったことを悟ったのだが、後の祭り状態だ。
深青は腰に手を当てて、大袈裟にため息をつく。
「はぁ〜、これだからシャイトは。 まあ、そんなちょっと抜けてるところも好きなんだけど……」
「ん? 何か言った? もっと言ってくれてもいいんだよ? ん? ん?」
ニヤニヤ顔で顔を近づけるシャイト。 絶対にこいつ聞こえていやがる。 そう思うと、何だか腹立たしくなり、深青の額に青筋が浮かぶ。 これはやばい、やり過ぎたと思うシャイトだったが、時すでに遅し。 眼前に深青の手のひらが迫っており、
次の瞬間、
乾いた音が草原に響き渡った。
☆
時は少し遡り、
神界にある城の一室。
そこには、女神と、女神の周りの世話をする侍女天使と、葵とフィルの四人がいた。
「シャイト、まだ帰ってこないの?」
「お父さん……遅い。 ぐすん」
フィルは古書を片手にソファに寝っ転がり、足を遊ばせて、暇を持て余していた。
また、葵はここ最近シャイトと会うことができずに、幼児退行化していた。
「もうすぐよ。 多分ね……」
紅茶を優雅に傾けながら答える女神。 いつものような神々しいドレス姿ではなく、今はかなりラフな格好をしている。 チュートップブラにホットパンツという多分、地上の信者には見せられないだろう格好だ。
「あーあ、早く見違えった私を早く見せてあげたい」
「葵もだもん」
実はこの二人、シャイトと一緒に行くと思われたのに、あっさりと引いたのはこのせいだ。
女神に魅力的な提案をされたのだ。
『ねぇ、二人とも。 ちょっと聞いてくれる?』
『何ですか?』
『沙……シャイトくんはこれからシールドコードっていうのを取りに行くんだけど、ついて言っちゃうんだよね?』
『『もちろん!』』
『そこで提案なんだけど、シャイトくんがシールドコードを取りに行ってる間に私があなたたち二人をシャイトくん好みの淑女にしてあげるから、シャイトくんと一緒に行くの我慢してもらえるかな?』
『あ、お願いします』
『うーむ……まあ、そういうことなら』
これがあっさりと引いた理由なのだ。
この時の違いは、フィルが即答で葵が少し考えたところだろうか。
中身の無くなったティーカップをソーサーの上に置く。 すかざすティーカップの中身を紅茶で満たそうとする侍女だったが、女神はそれを遮った。
そして、一瞬だけ目を見開く。
パチンと指を鳴らすと、先程までのラフな姿とは打って変わって、神々しい白とピンクを基調としたドレス姿に変わった。
女神が片隅に蹲って幼児退行化している葵に目線を合わせて声をかける。
「あなたはもう立派な淑女だわ。 今からその結果を見に行ってみない?」
声をかけられた葵は当然として、ソファで寛いでいたフィルも顔をあげる。
涙を流しながらコテッと首をかしげる葵の様子はとても可愛らしいのだが、見た目が見た目だけに、ちょっと病んじゃってる奴にしか見えない。
「何をするの?」
葵の言葉を代弁するかのようにフィルが問う。
「修羅場に乗り込もうかな…っと」
一番最初に「私は」という主語を入れるべきだろう。
「修羅場?」
今度は葵が言葉を発した。
「そう、修羅場。 間違いなく修羅場になりそうな予感がするのよ」
「何それ面白そう」
「葵も行く」
女神はフィルと葵に言ってやりたい。「その修羅場を起こすのは多分、君たち二人だ」と。
☆
所変わって、シャイトたちが戻ってきた草原にフィルたち四人は降り立った。
空間が歪み、何かが来ると悟っていたシャイトは黒剣に手をかけていたが、その正体がフィルや葵たちだと知ると、警戒は解かないものの、黒剣の柄からは手を離した。
「雰囲気や歩き方、体幹からして全員俺の知っている奴と同一人物だと思うんだが、一応聞いて置く。 フィルと葵と女神とその侍女天使だな?」
「そうよ。 忘れたなんてひどいわ!」
顔に手を当てて泣き崩れる真似をするフィルだが、それをシャイトは何事もなかったかのように無視して、両足を踏ん張り、両手を広げる。
葵はそれを抱きついても大丈夫な許可だと知ると、涙を空中に散布しながらシャイトの胸に飛び込んだ。
「って! ちょっとは聞きなさいよ!」
そう言いながらヅカヅカとシャイトに歩み寄り、葵同様に抱きつこうとするが、頭を手で抑えられ、行く手を阻まれる。
「今は葵を抱いてる途中」
ぶっきらぼうにそう言うと、シャイトの胸の中で抱きつきながら泣いている葵が反応する。
「抱いてる? 抱いてるって言った? よし!早くホテルに行こう!」
「何言ってんだボケ!」
幼児退行化が一瞬にして治り、変なことを口走った葵の頭に拳骨が落ちる。
そんな感じでほんわかとした空気が流れ始めたところで、フィルが気付いた。
「そこで死んでる奴のことも聞きたいんだけど……シャイト、この女誰?」
流し目を使い、さらにガン飛ばするフィル。低くドスの効いた声は、シャイトを震え上がらせた。
また、フィルの言葉で他に女がいることに気がついた葵も、背後に般若が見えるような雰囲気を醸し出していた。
「え、えーと……拾った?」
両手をあげて、冷や汗を流しまくるシャイトに葵は顎先に拳銃の銃口を押し当てながら問う。
「子猫みたいに拾ってくださいと書かれていたとでも言うの?」
非常にいい笑顔で、そして可愛い声と上目遣いはとても愛らしいのだが、目が笑ってない。 シャイトは視線を巡らせ、視線だけで女神に「助けてくれ」と頼むが、女神は横に首を勢いよく振った。
「ご、誤解が生まれて――」
「あぁ!?」
誤解を解こうとしたのだが、その言葉を遮ってフィルが短剣を首に突きつけて来る。
「正確に頸動脈の上に刃を置かないで! 俺何も悪くない! 責めて言い訳ぐらいさせてくれない!?」
目尻に光る液体を溜めて必死に言うシャイトの姿に、さすがにやり過ぎたと思ったのか、二人とも武器を下げた。
(ふぅ、危なかった。 さすがに死にはしないだろうが、気絶くらいはしてたかもしれん。 封印しているとはいえ、ここまで俺に追いつけるとは……俺も努力が足りないな)
このくらいの状況、なんとかできるくらいの実力を封印ありで付けようと心に決めたシャイトだった。
一通りの言い訳が終了した。
「で、言い残すことは?」
「何を!?」
再び、葵に銃口を突き付けられる。
「覚悟は出来てる?」
「ひっ」
フィルがシャイトの頬を短剣の腹でペチペチと叩く。
「誰ですか? この女たちは」
深青の長く伸びた爪がシャイトの首に心臓の上に突き付けられる。
なぜか深青まで参加していた。
「は、はい!」
このまま何も言わずに発言すると殺されそうと思ったシャイトは、挙手をする。
「「「どうぞ」」」
三人の声がハモり、より一層色々な圧が増えるが、それに怯まずに発言する。
「葵、俺は何か言い残したらどこに行くんですか?」
落ち着きは取り戻したものの、敬語使いはやめられなかった。
「葵の旦那になる」
澄まし顔で答えられて、何も反論できない。
「フィル、俺は何に覚悟すればいいのですか?」
「私の旦那になる覚悟」
さすがに頬が引き攣り始めたシャイトくん。
その過程でどんどん不機嫌オーラを醸し出していた深青をなだめる。
「深青、この二人はフィルと葵といって、俺の………旅仲間だ」
「なんですか? その間は」
「え、えーっと、そうで――」
「早く言え」
「フィルが義理の兄妹で、葵が義理の娘です。はい」
深青の剣呑な眼差しに負けて、シャイトが正直に言うと、ブツブツと何事か呟き始めた。
「義理……義理が気になる。 義理だと合法なの?それとも違法? いや、それよりも先に、この国やこの世界は娘や妹と結婚しても大丈夫なのか? それ以前に、結婚できるのか? 出来ないとなれば、勝ち目が大いにある。 知り合った時期を埋めて有り余るくらいに。 法は私の味方」
一方、女神と侍女は少しだけ遠くでその様子を見ていた。
「良いのですか?」
「何が?」
「そんなラフな格好で良いのですか?」
城にいた時と変わらないチュートップブラにホットパンツの格好をした自分を見下ろして、女神は顔を赤くする。
そんな女神の表情の変化を、侍女は驚きを持って見ていた。 ここ数百年……あるいは数千年も表情に動きが全く見られなかったからだ。 天使たちはそれを心配していたのだが、シャイトという一人の赤子が女神の意思に関係なく生まれたことで、変わった。 女神の顔に、神になった当初のような表情を見せ始めたのだ。 最初の頃から見守る侍女は特に驚きを隠せなかったし、シャイトに感謝すらしていた。
女神がフィンガースナップをすると、一瞬にして神々しいドレスを纏った。 城では周りに至高の逸品と呼ばれるような芸術品がゴロゴロとしていたため、少々女神の美しさが埋もれていた部分があり、めっちゃ美しいで収まっていたのだが、草原にすぐ近くには森しかない場所では女神の美しさが抜きん出ていた。 周りの草木が女神の美しさをたたえるように避けたほどだ。
「これで良し」
満足げに頷いた女神は、何度も言うようだが、美しかった。
その美しさの影響を受けて、自然と争いは収まっており、シャイトがホッと一息ついていた。 さすが、女神を自称するだけはある。そう思うシャイトだが、女神がそれを聞いたら「実際に女神なんですけど!?」と怒っていただろう。
シャイトは葵とフィルをその場に残して、深青を連れて女神の元へ向かった。
「はい、これがシールドコード」
そう言いながら女神のデコを突き、情報を流し込む。 データ化されたシールドコードは女神の頭の中に入り込み、その脳という造られた機関に自身のデータを強制ダウンロードさせた。
「うぉおう」
女神は、女神らしからぬ変な声を上げる。 普通の人間であれば、その情報を全て一気にダウンロードされてしまえば、ショートして死んでいたところだが、さすが女神だ。
「で、この子を連れてきた理由は?」
地下からこのアルシャファルに連れてきた理由ではない。 全て視て来たので、そのくらいはわかるが、今女神の元へ連れて来た理由がわからなかったのだ。
シャイトは呆れたような表情を一切隠そうとせずに告げる。
「女神……じゃなかったのか? やっぱり自称?」
「やかましいわ! 私だって知り得ないことだってあるの!」
「そうですかそうですか」
そのまま続くと思われた女神とシャイトの討論は、深青が口を開いたことで終わった。
「私、ちゃんとした肉体が欲しいんです! 下さいとは言いません、なんでも聞きますから!」
そう言いながら頭を下げる深青の姿は、どこか必死さが伺えた。
「かなり必死だね」
その必死さに押されてか、女神が半歩引きながら言う。 そんな女神の腕をとって、シャイトの耳が届かないところまで行くと、理由を告げた。
「あの女狐二匹(フィルと葵)に劣るところは肉体がないというところだけです。 なので、私が肉体を持ったらかなり二人を引き離してシャイトの隣につける。 そう考えたためなんです。 しかも、い、一度、シャイトにこ、ここここ告白されてますし……肉体さえなんとかなれば……わ、私が攻めれば……行けるのでは? とお、思ったからです」
最後の方はかなり顔を赤くしながら喋っていた。 そんな深青を見て、ニヤリと笑った女神は即答した。
「いいよ。 けど、条件がある」
深青が、ゴクリと喉を鳴らす。
「深青ちゃんから夜這いを仕掛けないこと。 それが条件。 飲める?」
軽く目を開き、そんなことでいいのかと思う深青だったが、続く言葉で固まった。
「シャイトは一度振られた相手にはそうそうその気にはならないよ。 遠目で目の保養にするだけだろうね〜。 まあ、頑張って」
そういって深青の肩を一度叩くと、機械の体が、体温を持つ人間のそれと同じになった。
深青は女神の言葉が衝撃すぎて放心状態なのか、体が変わったことに気づいていない。
そこに、頭上に疑問符を浮かべたシャイトが近づくと、何か察したのか、深青の肩がビクッと跳ね上がる。
「何話してたんだ?」
普通はちょっとシャイトから離れたくらいでは、シャイトの地獄耳からは逃れられない。 しかし、今回は女神が遮音の結界を張っていたため、シャイトには聞こえなかった。
「プライバシーだよ。 聞きたければ深青ちゃんに聞いたら?」
女神の言を受けて、深青に視線を送るが、喋ろうとはしない。 というか、視線がこちらに向けられていることにすら気づいていない。
「何だ、随分と無防備になってるな……そこまでの衝撃発言をしたのか」
女神に問うと、特に衝撃発言らしい発言はしていないということだった。 しかし、これには言っていない部分がある。 “女神からしたら衝撃発言ではなかった”という部分が抜けていた。 いつもなら気付きそうな物なのだが、それに気づくことはなかった。 それよりも、というか、それ以上に意識を持っていかれる案件がすぐそばにあったからだ。
「お! 肉体貰えたのか! よかったな」
シャイトは、そう言って深青の頭を撫でながら笑う。 深青が、自分の頭を撫でている手をはねのけないことから脈アリか? と思うシャイトだが、実際には脈アリどころではない。
そんな人を数え切れないほど殺している者が見せるような笑顔をしておらず、純粋無垢なシャイトの笑顔を見て、深青は改めて思った。
“私のような存在が我が主人の側にいれることを、心から感謝する”と。 誰に感謝しているのかはわからないが、それは多分、自分とシャイトか出会うきっかけを作ってくれた女神や、自分を造ってくれた技術者だったのだろう。
その想いは、目の前の女神に明確に伝わった。
「このバカ」
そう毒づきながらも、笑みを浮かべて、シャイトの胸に飛び込んだ。
シャイトは思う。 “何百年、何千年と生きていても、女という生き物の謎は解けない”と。




