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妖狐の異世界転生旅  作者: ポポ
第2章 森羅万象の復活?
23/50

追想

神話大戦末期



これはバルテック艦隊を率いるシュデイルング・ベイロスト艦長の話である。





「ベイロスト号並びにハプベルト号は周囲警戒!スベイストロ号は対空砲で天使を牽制!その他戦艦は、各自の決められた天使を撃滅せよ!」


ベイロスト号の艦橋に響き渡った声は凛々しく、強い意志を感じさせる声だった。

その声の発言主を探すと、艦長席に座る初老の男性がいた。

髪型は、白髪はくはつのオールバックで、白髪しらがではないことがわかる。それくらい綺麗な色をした髪色だった。


「右翼壊滅寸前です!」


「左翼、天使の撃滅を確認!中央は右翼の援護に向かうとのこと!」


「左翼からも右翼への援軍に向かうとのこと!」


「中央左翼並びに中央右翼、目標の天使を撃破!中央左翼は中央の援軍に、中央右翼は右翼への援軍に行くとのことです!」


戦況が次々に言い渡せれる。

シュデイルング艦長はその報告を冷静に聞き取り、考え、指示を出す。


「左翼はそのまま待機!それ以外はそれでいいと伝えろ!それから、目標天使はあと幾つだ!?」


「中央担当天使の撃破を確認!残り右翼担当天使四体です!」


「目標天使をα、β、θ、ωと呼称!ベイロスト号主砲旋回!照準を定め次第主砲開門!」


オペレータたちが、艦長の指示を聞き、それぞれの艦長に伝えて行く。

シュデイルング艦長が艦橋全面に映し出されている戦況を見ながら、主砲発射の合図を待つ。


聞いている限りではこちらがとても優勢に聞こえるが、実はそうでもない。

右翼は壊滅寸前にまでなっているし、他の場所も壊滅寸前とはいかないが、無視出来ないほどの被害を被っている。


現在、軍艦の数は三千隻強だが、ここの領域に入った時は五千隻弱はいたのだ。いきなりの襲撃だったというのも被害が大きくなった原因でもあるのだが、天使の強さがわかる戦いだ。


「照準定まりました!いつでも撃てます!」


艦橋にはオペレータ席、副艦長二人分の席と艦長の席の合計九個あった。

そして、いま艦長に話しかけたのは艦長席の斜め右下にある副艦長席から放たれた言葉だった。


「主砲発射!」


シュデイルング艦長がそう言うと、オペレータの一人が復唱し、主砲の発射ボタンを押す。

戦況が映し出された全面のディスプレイの右端にベイロスト号が映る。

船体下部に取り付けられている主砲から光が解き放たれる。


この艦に取り付けられている主砲は、反物質粒子砲と呼ばれるもので、対消滅の恩恵を受けられるものだ。

有効射程距離は約三万キロ、射程距離は約四万キロだ。これは本格的な宇宙進出時に作られたものよりも、はるかに性能が良くなっている。


莫大なエネルギーを必要とするものだが、撃てないことはない。天使一体破壊するのに、旧世代の国家でいうアメリカが一年に使う量の電力を必要とする。それでも有効射程距離は数百キロだが……


しかし、今はそんなことはない。四万キロを飛ばすくらいの電力なら半日もあれば生産できるし、作り溜めも出来るので、あまりというか全く困ってないのだ。

今のベイロスト号ならば数千発は撃てるだろう。まあ、主砲の冷却や整備が必要なので、実際の戦闘ではそこまで撃てない。一回の戦闘で五十発前後が限界だろう。


主砲から放たれた反物質粒子は天使たちに向かって物凄い勢いで飛んでいき、着弾する。

対消滅の光を確認後、余波到達時刻を割り出す。


「余波到着まであと三十分ほどなので、十分に回避可能です」


副艦長から艦長へと情報が伝達する。

オペレータや副艦長からもたらされる情報や艦橋前面に映し出されるバルテック艦隊の分布図を見て、これからのことを判断する。


「第一警戒態勢を維持、全方位警戒レベルをレベル5ファイブからレベル6シックスに引き上げ。右翼艦は中央安全地帯に入り、船体の修繕を急げ。右翼への応援に向かった艦は天使の状況を随時報告せよ」


艦長の命令を下にいるオペレータ達が各艦の艦長へと連絡する。

艦長の言ったことを復唱するのは何か面白いものがあるが、今はいい。


艦隊分布図に映っている艦隊がシュデイルング艦長の指示通りに動き、配置に着く。

すると、今度は右翼応援艦隊の方から天使達の報告が上がる。


「こちらシュバルツ号艦長右翼艦隊代表のジェイン・シュバルツです。現在、天使二体の消滅を確認。他二体の天使はセイド恒星系第三惑星に逃げ込んだ模様。無人偵察機を送ったところ、かなりの手傷を負っているようです」


「詳細を出せ」


すると、また別の艦長から報告が上がる。


「こちらゼイトス号艦長中央右翼艦隊代表ゼイント・ゼイトスです。生き残ったのは天使β、ωの二体で、それぞれ80%程の損壊を受けている模様。また、セイド恒星系第三惑星現地生命体により、さらに消費している模様。いま、突撃したらいけます」


力強く放たれた言葉は艦橋に映し出される画面の向こう側からだ。

ゼイント・ゼイトス艦長……ゼイトス号の艦長にして最年少記録保持者。齢20にして大隊を持つ艦長に抜擢された実力のある軍人だ。


シュデイルング艦長は思考し、結論を出す。


「宇宙特化型有人戦闘機ERG-21第八世代を100機出撃。セイド恒星系第三惑星に周回するスペースデブリ帯を全て破壊し次第突撃。援護射撃はケベレッジ、スピリット、アイラスの駆逐艦三隻。指揮は中央右翼艦隊代表ゼイント・ゼイトス艦長に任せる」


シュデイルング艦長がそう告げると、艦橋に映し出されていたゼイントは一度深くお辞儀し、通信を切る。

それを確認したシュデイルング艦長は副艦長に追加事項を言う。


「障壁展開無人機をつけとけ」


「………了解しました」


答える間に空いたのは確認をとった為に出来たものだろう。しかし、確認などせずにも艦隊長命令ならば事後承諾でも可能なはずだ。

シュデイルング艦長は空いた時間を不思議に思いながらも、人間なんでもあると思い、流すことにした。


この判断が、後にどのような結果をもたらすかを知らずに……





場所は移り、シュデイルング号宇宙特化型有人戦闘機整備ライン。の、隣にある発艦する場所だ。


「くそぉ……こんな時に召集命令かよ」


「うるせぇよ。って言うか、さっきの戦闘で召集されなかったのが奇跡なんだからな。文句言うなよ」


「そうだけどよぉ……」


そうボヤくのはパイロットの杉本淳。

同僚と思われる人物は同じパイロットのブラッケン・新虎羅須ニコラス

この二人が二人の愛用機である宇宙特化型戦闘機ERG-21第八世代型“Hydraヒュドラ”に乗り込む。この戦闘機の名前は使う人物がそれぞれつけていいことになっており、淳とブラッケンはHydraと名付けた。


色もそれぞれが決めていいことになっており、現在発艦場所は色とりどりの戦闘機でカラフルになっていた。

ちなみに、二人の愛用機は特別迷彩というものを使っている。

特別迷彩というものを簡単に説明すると、周囲の状況に合わせて色を変え、視覚的にも感覚的にも見つけにくくするものだ。


「ああ、可愛い妊娠中の嫁さんが待ってるってのに召集とか……ふざけてんだろ。この戦いが終わったら、この仕事から足を洗うんだ」


「こいつ、フラグ立てやがった。死亡フラグだな」


ニコラスは優しい人物なので、本当にどちらか一方が死ぬと分かれば待っている人がいる淳を優先させて自分が死ぬだろう。

淳はそう思いながら絶対に死んでたまるかと心に刻んでから愛用機に乗り込む。


(だいたい、死亡フラグ立ててもピンチになって生き残ることが多いからな)


趣味の読書でだいたいそれは分かっている。


(それに、ニコラスを死なせて俺だけが帰ってきたって……あいつに合わせる顔がねぇじゃねぇか)


そう、淳の嫁さんはニコラスの妹。

つまり、ニコラスと淳は義理の兄弟という関係になるのだ。

そんな関係でも戦友としてギクシャクせずにやっていけるのは幼馴染というのが大きいだろう。


ヘルメットに内蔵されている無線から管制官の声がする。


『こちら管制塔、“Hydra”聞こえますか?』


『ばっちしですよ。今日も可愛い声ですね』


無線の先から聞こえてきたのはアニメ声と呼ばれるような声だった。

この声の主人は、“Hydra”担当の娘で、ニコラスが目をつけている娘だ。

いつものように軽口を叩きながらも管制官の誘導に従って動き、発艦地点に到着すると、艦内に設置されているアームに持ち上げられ、宇宙に出される。まだ、エンジンは付けておらず、アームにぶら下がっている状態だ。


『こちら宇宙特化型戦闘機第八世代型ERG-21“Hydra”。神経伝達回路正常、リンクスタートします』


『こちら管制塔。リンクスタート開始の許可がおりました』


『『了解。……リンクスタート』』


リンクスタートの合図が二人で揃い、二人同時に目を閉じる。

そして、二人が感じるのは戦闘機に自分の意識が持っていかれるような感覚だった。“Hydra”に飲み込まれないように細心の注意を払いながら“Hydra”との神経回路を繋ぐ。


いま、二人が行なっているのは神経回路を“Hydra”とつないでいるのだ。

従来の戦闘機では目視やレーダーでしか敵の補足ができなかったし、高性能ステルス機だとレーダーに映らず、奇襲をかけられてしまうのだ。

しかし、それを克服したのが現代の戦闘機だ。


従来のとは違い、直接戦闘機に意識を入れるのだ。

こうすれば、目潰しを受けても大丈夫だし、全方位への対応が可能になる。また、宇宙空間なのでどちらが上かどちらが下なのかも分からなくなるが、これがあれば平気というわけだ。


そんなこんなで神経回路の接続は無事に終了し、いよいよ出撃となった。


『こちら“Hydra”。リンク終了。武器弾薬に不備は見当たりません。いつでもいけます』


ニコラスがいつものおちゃらけた雰囲気を全く感じさせずにマイクに向けて言う。

淳は、いつもこれだったらモテるのにと思うのだが、ニコラスが言うには性に合わないそうだ。


『こちら管制塔。発艦合図はこちらで出します。推定発艦時刻は2208。繰り返します。推定発艦時刻は2208』


『こちら“Hydra”。推定発艦時刻2208、2208…………』


訂正の言葉がこないのであっているのだろう。淳はそう判断してから自分の腕時計を見る。

現在の時刻が22時01分なので、出撃はあと7分後だろう。


宇宙戦闘用ヘルメットを装着し、起動する。 すると、液晶ディスプレイに様々な情報が映りこんだ。

外見はゴッツゴツのSF映画によくあるようなもので、シールドはない。しかし、被ると内側には液晶ディスプレイがあり、情報が映し出される。

機能面では最近開発されたばかりのものなのでとてもいいのだが、いかせん代一世代型。プロトタイプと呼ばれる奴だ。今現在も改良研究が進んでおり、今のよりずっと軽くなるようだ。


ヘルメットの調子を確認していると、ディスプレイの端に出撃時間が映し出された。


“出撃まで後30秒”


秒数が1秒進むごとに減ってゆく。


そして、10秒を切ったところで、


『エンジン点火』


戦闘機内に轟音が響く。


『冷却機構正常、操縦桿正常、燃料残量96%、エンジン点火による不備……無し。これより、宇宙特化型戦闘機ERG-21“Hydra”出ます』


『こちら管制塔、“Hydra”の発艦を許可。カウントを開始します。……3……2……1……アーム接続解除!』


管制塔がそう言うと同時に戦闘機を支えていたアームが外れて、戦闘機が宙に投げ出される。しかし、点火していたエンジンは本領を発揮し、浅く綺麗な……それでいて深いものを感じるような群青色の軌跡をえがきながら戦闘機は宇宙の果てに物凄い速度で消えていった。





コフー、コフー


ピッ……ピッ……ピッ……ピッ


戦闘機内は戦闘機乗りの呼吸音と生命維持装置の音だけが響いていた。

一定のリズムを刻みながら吐き出される白い息。そして、無機質な機械音。

ディスプレイに映るのはどこまでも続く宇宙の闇色と、そこに散りばめられている無数の星々。

ディスプレイの端には今回の目標地点のセイド恒星系第三惑星“イル”と、合流する予定の船団だ。


今回の任務は船団と共に、先程の戦闘で生き延びた天使の破壊だ。

この戦闘機の戦闘機乗り……淳とニコラスは天使二体相手にこんな少量の戦力で大丈夫かと思ったものの、かなりの手負いだから大丈夫だと聞かされていた。


二人は嫌な予感を感じつつも、命令に逆らうことなど出来ずに任務に就いた。


そして、その嫌な予感は的中することになる。

それを知るのはもう少し先の話だが……


戦闘機内は真空にされているのでマスクを取ることが出来ない。

後部座席に乗るニコラスに淳がハンドサインを送り、ニコラスが合流予定の船団と連絡を取る。


『こちらERG-21“Hydra”。戦艦セイドス聞こえますか?』


『こちらセイドス管制塔。通信良好、ERG-21“Hydra”聞こえますか?』


『聞こえます』


『では、こちらの誘導に従って行動して下さい』


それに肯定の意を示し、誘導に従っていく。


就かされた場所は“第二防衛ライン・防衛”と言うものだった。第二防衛ラインを築く戦艦を守る役割だ。

淳とニコラスは特に文句はない。戦功によって褒賞やボーナスが出たりするが、命がなくては元も子もない。そう考えているので、比較的安全な場所にいるのは賛成なのだが、それを良しと思わないやからもいるようで、


『なんでこの俺様が防衛なんだよ!?』


『そうだそうだ!スベイル様がなんで防衛なんだ!』


無線通信を通じてそんな声が聞こえてくる。 本物の馬鹿のようで、命より褒賞や名誉が欲しいらしい。しかも、管制塔とのやりとりに使う個人無線ではなく無差別無線を使っているあたり、馬鹿に拍車をかけている。


『お前はあんなのみたいになるなよ。ぶん殴ってでも止めるからな』


ニコラスが無線通信を通して淳に言うが、淳は分かっていると返す。


『名誉や栄光なんていらん。少しでも生還率が高い方を選ぶ。自分のためにも、シイナのためにもな』


ブラッケン・紫伊菜しいな。淳の嫁にして、ニコラスの妹だ。


『よく出来た義弟だよ』


『うっせ』


最前線の戦場なのに、軽口を叩き合う二人。場は緊張が張り詰めているが、この戦闘機内だけがどこかあったかい空気が流れていた。




時は過ぎていき、本艦隊は安全圏内にまで離れ、第一防衛ライン、第二防衛ライン、第三防衛ラインは襲撃を受けずにいる。

そして、戦艦の防衛を務める戦闘機乗りたちは攻撃班から聞こえてくる情報に耳を傾けていた。


現地生命体と交戦したり、目標の天使を攻撃したり………様々な情報が入ってくる。

そう、様々な……だ。


助けを求める声が聞こえてきたり、断末魔が聞こえてきたり……精神にはかなりの負担がかかっているだろう。

しかし、情報は必要だ。精神への負担を気にして対応が遅れましたでは元も子もないのだ。天使が攻撃にくるのだから……。


淳とニコラスはその様々な情報を聞き、助けたい衝動に駆られたが、思い留まる。


今行ったところで、何になるのか?

たった戦闘機一機だけで何が出来るのか?

助けたとして、その後どうするのか?

自分のことを待ってくれている存在がいるのではないか?

自分が死んだらその人たちはどうなるのか?


そんな疑問が次々と出てくるため、動けないでいる。いや、正確には“動かないでいる”だろう。




その時、戦線は一気に動いた。




攻撃班が“イル”に向かってから一時間がたった頃、第一防衛ラインが“消滅”した。


文字通りの消滅。


レーダーから、宇宙から“消えたのだ”。

振動が伝わってくる程の“大爆発”を起こして……。





戦艦セイドス・艦橋


艦橋に響きわたるのは、オペレータの切羽詰まった声音の声と警報音だ。


「第一防衛ライン完全消滅!……っ!超高速不審飛行物体を発見!こちらに向かってきています!」


「ケベレッジ、スピリット、アイラスが不審飛行物体の進路に介入!」


艦橋に映し出される映像には三隻が進行方向に向かって進み、不審飛行物体に砲台を向けているところが映っていた。


副艦長がゼイントの方に視線を飛ばすが、ゼイントが反応した様子はない。

いつもならば、“なんだ?”と言って振り向いてくれるのに……と不思議に思うが、こんな日もあるだろうと考え、艦長に手を伸ばしたところで気が付いた。


二人いる自分以外の副艦長。

その手にはサプレッサーの付けられた拳銃が握られており、その銃口からは何かが燃焼された後のように煙が上がっていた。


伸ばし出した手は止められなかった。

艦長の肩に触れ、艦長が向こう側に倒れこむ。

そのことに気がついた船員の一人が銃を艦長を撃った人物に向け、引き金を引いた。


拳銃から放たれた弾丸は狙い違わずこめかみに当たり、艦長の上に覆いかぶさるようにして倒れた。


なぜ殺したのかと責めるものはいない。彼の者が拳銃を向けたときには二人目の副艦長にも銃口を向けていたため撃ったと思われているからだ。

彼の者の判断は正しかった。

艦長が死に、一人の副艦長が裏切り。

これ以上トップを失うわけには行かないと思ったのだろう。


「処理班!直ちに反逆者の死体を処分せよ!また、艦長の遺体を安置室に!」


残された副艦長は指示を出す。


この場にいるトップが呆然として我を失っては部下に示しがつかないし、士気の低下にもつながる。

そう判断し、直ぐに現状の確認に移る。


「不審飛行物体は!?」


「現在も進行方向に変化は見られません! このままいくとケベレッジ、スピリット、アイラスの三隻と第二防衛ラインが衝突!交戦になります!!………っ!映像来ました!映します!」


艦橋の前面に映し出された映像は、現実離れした美貌を持つ羽衣をまとった美女。


「神……っ!!!?」


副艦長が驚きの声を上げると同時に、その声を聞き取った者たちからまだ知らない者たちへと伝播し、艦橋は混乱に陥った。





・第二防衛ライン


その頃、第二防衛ラインは宇宙の遥か彼方に光る物体を発見した。

駆逐艦三隻からもたらされた情報によると、あれは神と呼ばれる超常の存在らしい。


“らしい”というのは、見たことがあるという人物が非常に少ないからだ。

最後に現れたのは約三百年前。ということは……見たことがある奴らは全員が三百歳以上の富豪というわけだ。

延命治療、または不老薬を使えば人間など何年でも生きられる。


閑話休題。


三百年前に現れた神が再び現れた。


これだけで第二防衛ラインは混乱に陥った。

お伽噺や歴史書によると、艦隊が幾ら集ったところで倒せる相手ではないらしい。

イコール、幾ら最強と謳われるバルテック艦隊でも敵う相手ではないのだ。


淳がそう考えていると、無線から新たな情報が入った。


『不審飛行物体を“神”と呼称!その後ろから新たな天使の軍勢を確認!!

その数、三百六十八体!!繰り返す……』


戦闘機の壁をドンッと叩く音がする。

それは後方から振動で伝わって来たものだ。なので、正確には音ではない。

まあ、それよりも、今は神と天使の対処について考えるべきだろう。


天使が四体だけでもあれだけの被害を出したのに三百六十八体なんて戦うだけ無駄。しかも、それに“神”までついて来るのだ。

淳はロケットペンダントを握り締め、“ごめん……帰れないかも”こう呟いた。




接敵まであと30分。


全ての護衛艦や駆逐艦、戦艦などが総出で戦線を構築した。

セイド恒星系第三惑星“イル”に向かった攻撃班も帰還しており、総戦力でぶつかるようだ。


全戦闘機は一旦帰還命令を下され、直ぐに出撃を命じられた。


今現在も戦闘可能な物が続々と戦線に運ばれて来ていた。


そして、この戦場にいる誰もが思っただろう。


“この戦いが神話大戦最後の戦い。決戦になるだろうと……”




ベイロスト号・艦橋


「本国に援軍要請!!また、近場を巡回中の戦艦などに連絡!」


「………っ、本国との通信途絶!電波障害が発生している模様!」


「こちらも電波障害の影響を受けており、巡回中戦艦と連絡が取れませんっ!」


シュデイルング艦長は内心で舌打ちをする。

援軍も見込めない状態で格上の敵と戦うべきではない。数こそ優っているが、天使相手には物量戦が全く通じないのだ。


「最新兵器投入準備に入れ」


静かに紡がれた言葉は、意外にも凛としてハッキリと艦橋にいる者の耳に届いた。


「“あ、あれ”をですか!?危険すぎます!」


「わからないのか?出し惜しみなんてしてる場合ではないのだ。出し惜しみや危険などを考慮しては絶対に負ける。勝てなくとも、引き分けに持っていくにはあれしかあるまい」


その時、パァンと乾いた破裂音が艦橋に響き渡った。

銃声。銃口から煙を上げている拳銃を持っているのは艦長。そして、それを脳天に受け、倒れているのは二人いる内の一人の副艦長。


「か、艦長!何やってるんですか!?」


そう言ったのは残っていた副艦長。それにシュデイルングは答える。


「こいつがあの化け物を呼んだ。そして、この電波障害もこやつのせいだろう」


倒れている者の死体を観察してみると、脳天からは血を流しておらず、“機械人間”であることがわかる。

しかし、この時代の人間は血など流す方が珍しい。


そして、とシュデイルング艦長は続けて


「此奴のパネルを見てみろ」


そう言いながら指差したのは、副艦長に与えられている近未来的な机であった。

その机には様々な情報が羅列しており、その中には今回のことと思われる物があった。





接敵まで残り20分。


宇宙特化型有人戦闘機“Hydra”機内。そこでは、緊張で顔を強張らせた二人の姿があった。もちろん、ヘルメットの所為で互いの顔は見えないが、長い付き合いだ。雰囲気や仕草で緊張しているのがわかる。


『おい、なんか面白いこと言えよ』


『この状況でか?』


『この状況だからこそだよ。アメリカ人とのハーフなんだからジョークなんてお手の物だろ?』


『アメリカ人全員が全員ジョークが好きだと思われるのは心外だな……まあ、俺は好きなんだが』


『やばい……緊張で体が潰れそう』


そんな軽口を叩き合い、先程の緊張感バリバリの機内と変わり、雰囲気が和やかになった。ような気がする。



接敵まで残り15分。


全艦が戦線に入り、戦闘体制に移行した。全艦だ。

護衛艦も駆逐艦も戦艦も……とにかく、戦闘機能がついている船全てが戦線についた。


そして、戦線についているのは戦艦だけでない。戦闘機や宇宙特化型に改良された戦闘ヘリ、さらには、よくわからない砲台までもがずらりと並んでいた。


その数はパッと見で三百門はあるだろう。


この砲台は荷電粒子砲と呼ばれるもので、一般的にはレールガンとも呼ばれている。 実際のレールガンは電磁加速砲と呼ばれるのだが……一般市民には違いがわかるものの方が少ないために、荷電粒子砲をレールガンと呼称する。

威力や破壊能力は反物質粒子砲に劣るものの、射程や連射性、機動性などは荷電粒子砲の方が上回る。



接敵まで残り10分と出たところで荷電粒子砲が輝き始めた。

これは発射の予備動作で、車にエンジンをかけるのと同じ様なものだ。


敵方の進む速度は約20万[km/s]と、驚くべき速度だ。これは光の一歩手前の速度と考えていいだろう。光が秒速約30万kmなのだから。


計算すると、20万×60×10=1億2000万というものになる。

ということは、荷電粒子砲の射程は1億2000万km以上ということになるのだ。

もう、化け物以外の何者でもない。


威力も反物質粒子砲に劣るとは言え、小惑星一つ破壊できる威力があるのだから敵としては対峙したくないものであるだろう。

まあ、この感覚は人間のものであるから、天使側がどう見てるかわからない。


前回のアンケートで最も対峙したくない武器のトップ3に入っているのだから……

味方にこれが何百門もあるというのはかなり心強い。


閑話休題。


冷静に戦況を見ていた淳だったが、ふと荷電粒子砲の方を見やると、もうすぐ発射しそうだった。


砲身全体から周囲の光を吸い込む様にしてエネルギーを集めて行く。

砲身は眩く光輝き、ビシッビジジッと放電している。そして、その光は白でも黄色でもなく、紫の色をしていた。


深い闇を覗く様な紫であったし、紫陽花のような鮮やかな紫でもあった。そんな曖昧な紫が荷電粒子砲の砲身から漏れ出し、


『一斉射撃!出撃!!』


シュデイルング艦長と思われる人物の命令が下った後には、次弾装填をしている荷電粒子砲のみが残っていた。


バルテック艦隊残存戦力

宇宙特化型戦闘機・3465機

汎用型戦闘機・1482機

宇宙特化型戦闘ヘリ・257機

汎用型戦闘ヘリ・364機

新世代型荷電粒子砲・350門

反物質粒子砲・26門

戦線構築艦(戦闘可能艦)・3256隻

武器弾薬・一杯


神・天使軍

神・一柱

天使・367体

合計・368


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