アリス?とエレノア?
2話連続投稿しています!
前話を読んでない方はそちらへ!
門を潜ったシャイト達を出迎えたのはごっついボディビルダーもかくやと言わんばかりの肉体を持った警備兵だった。
身に纏った鎧はきついのか、動くたびにミシミシと音を立てている。
一般人男性ではとてもでは無いが振り回すことが不可能な槍を携え、かなりの威圧感を放っている。
「歓迎するぜ。騎士様、それに坊ちゃん、嬢ちゃん。生きて帰れるとは思うなよ?」
どこかの悪役のような台詞を口に出しながら差し出された手はどこか優しな感じが見て取れる。子供に向ける笑みを見る限り、この警備兵は子供好きなのだろう。
「看板見たらそのくらい嫌でもわかりますよ。それより、オススメの宿なんかありますか?」
差し出された手を握り返しながら、シャイトが代表して答えると、警備兵は快く教えてくれた。
シャイト達がお礼を言って去ろうとすると、
「おっと、待ちな。俺の名前はザイスタルつんだ。よろしくな!」
「シャイトです。シャイト・アーカイド。よろしくお願いしますね」
互いの自己紹介を済ませた後、今度こそと教えてもらった宿屋に向かう。
教えてもらった宿屋の名前は“わからない”だ。看板にも書いてあるし、ザイスタルもそう言っていた。
外見は、ヨーロッパ風の普通の宿屋だが、違う点が何箇所か見られる。
まず一つ目に、玄関扉がでかい。3メートルはありそうだ。
二つ目に、煙突が6つある。意味がわからん。
最後に、壁一面にピカソが書いたような魔物が描かれていた。一見、何が書いてあるのかわからないのだが、端っこに“これは魔物です”と書いてあるのだから魔物なのだろう。
もう、普通の宿屋と言っていいのか不安になってくる。
宿屋の解放された玄関扉を潜ると、天井が吹き抜けで、開放感のあるロビーが広がっていた。
内装は、外装と違い、シックなオシャレな感じが広がっており、【死神に愛されし村】には相応しく無いと思われる。
奥にはカウンターがあり、そこには宿屋の亭主と思われる人物が驚愕の表情を浮かべてこちらを見ていた。
10歳の少年少女を連れた一行がこの村に来れば当然だろうと思っている騎士たちだったが、どうやら違うらしい。
シャイトも驚愕に目を見開き、二人の影が消えたと思ったら、宿屋の真ん中にいた。
吹き抜けの天井から吊るされているシャンデリアの下で、互いに“銃”を額に突きつけ合う2つの影。片方は小さく、もう片方は大きい。
「こんなところで宿経営なんでやってんのか?『鴉』」
「そっちこそなんでこの世界にいるんだ?『サトナス』」
何故かこの男は地球でシャイトが呼ばれていたハンドルネームを口にする。
男が手にもつ銃はパーカッション式回転式拳銃。非常にリロードに時間がかかる銃であるが、殺傷能力はそれなりにある。しかし、対するシャイトが持つ銃はベレッタ。遠距離・中距離戦であれば確実にシャイトの勝ちだったろうが、こんな至近距離では、銃の違いなんて関係ないだろう。
不意に亭主が銃を下ろすと、シャイトも口元に不敵な笑みを浮かべながら下ろす。
「ようきたな、サトナス。歓迎するぜ」
「やめてくれ鴉。今の名前はシャイトだ」
拳を打ち合わせながら、さっきの張り詰めた空気はなんだったのかと思わせるほど霧散し、再会を喜びあった。
「俺の勝ちだから宿代はまけてくんね?」
先程の勝負?は側から見たら引き分けのように見えたが、実際には違う。シャイトのベレッタは安全装置が外れ、薬室に弾丸が入っていたのに対し、鴉の持っていた回転式拳銃は“撃鉄”が上がっていなかったのだ。
「やっぱバレてたか……」
「そんな簡単なこと誰だってわかるだろ」
流し目で葵とフィルたちを見ると、フィルたちは頭上にハテナを浮かべ。葵は、気まずそうに視線をそらす。
シャイトは、フィルたちは兎も角、葵はよくそれで闇の世界を生きていこうとしたなと呆れ顔だ。
「一人、一泊三千ルイス。本当は四千ルイスなんだからな?感謝しろよ?」
葵が財布を出し、銀貨2枚と大銅貨4枚をカウンターに並べる。
「あんたが負けたのが悪い。感謝なんてしない」
鴉は感謝してくれてもいいんじゃね?と疑問に思いながらシャイトたちを部屋に案内して行く。
部屋は、一人一部屋の一人部屋で、男は二階。女は三階だ。朝食と夕食は一階の食堂で食べられる。昼も食堂はやっているのだが、宿代に含まれていないので、追加料金を支払うことになる。また、亭主が日本人ということもあり、風呂完備で、午後の4時から6時までの2時間がが女湯。午後の6時から8時までの2時間が男湯ということになっているらしい。
「それにしても不思議だよな。殺し屋3人がこの世界のこの場所に集まってんだからな。天文学的数字と比べても目が飛び出るほど桁が違うんじゃねぇか?」
鴉が独り言のように呟く。
確かにその通りだ。普通ならそこに疑問を持つだろうが、シャイトは持たなかった。1500年間転生や転移を続けていればこんなこともあり得るし、実際に何度かあり得た。葵は……不思議に思っていなさそうだ。
魂が覚えているとかなんとかなんだろう。そう思いたい。
翌日、出立の準備を整えたフィル、シャイト、葵は山岳地帯を駆け抜ける少々大きめの鹿に跨る。
この鹿は、山岳地帯を抜けるための馬みたいなものと思ってくれていい。
今から向かう場所は、アレイドさんに紹介してもらった人の家だ。
鴉からの情報によると、その人物は【神山】に住んでいる変わり者だとか……。また、村の人に良くも悪くも有名だった。
というわけで、【神山】に向かうことになったのだが、騎士たちは置いて行くことにした。何故なら、その人物は極度の甲冑嫌いだとか……意味わからん。まあ、そういう訳で、防具が甲冑しかない騎士たちはシャイトたちが帰って来るまでこの村で修行をするそうだ。
「んじゃ、行ってくる。修行中に死ぬなよ」
「ははっ、そんなヘマしませんぜ!そっちこそ死ぬんじゃねぇですぞ!?」
「あいつが死ぬとは想像もつかねぇんだが」
シャイトが一時の別れの言葉を、騎士の一人がその言葉に返し、鴉がつっこむ。
ちなみに、葵を連れていくいみだが、特にない。葵が駄々をこねたから連れて行くだけだ。なんとも甘いシャイトである。これぞ、親バカなのだろう。
鴉は、そんな葵の駄々をこねる姿を見て眼を剥いていたが、それはまた別の話。
ちゃっちゃと別れを済ましたシャイトたち3人は、アルシャファルでも魔境と名高い【神山】に踏み込む。
今世の別れという訳でもないので、ちゃっちゃと終わらせたのである。
【神山】に踏み込んだシャイトたちの第一声は、
「「「え……?なにこれ……ッ!?」」」
見事にハモった。鹿を上手く操作して、【神山】から戻り、見上げると、雲を天高く突き上げる山があり。目の前には森がある。
しかし、その森に一歩踏み出すと、
まるで富士の樹海の中に入ったコンパスのように感覚が狂い、先程の景色から一変して草原が広がった。
感覚が狂っているのは葵とフィルだけだ。『妖狐』として完全に覚醒したシャイトにとってはどこ吹く風であるが、森に踏み出したら草原になるという不思議体験には驚いたようだ。
(こんな話、聞いたことがないぞ?1500年前も、100年前も……)
そう、鴉から聞いていたり、村の人達から聞いていたりしたらこんなに驚かない。しかも、この世界で生きて来て、こんな話など1つも聞かなかった。
こんなことが現実としてありえるならば、噂として流れてもいいだろうし、村の人々や鴉が知らないはずがない。
しかし、現実としてそれは起こっている。
ということは、だ。こんな不思議体験をしたのがシャイトたちが初めてだったのか、シャイトたちよりも先に不思議体験をした人達が口を閉ざしているということになる。
「どうする?」
葵にでも、フィルに問うたのでもない。呟いただけ。しかし、こんな言葉の答えなんてシャイトの中で既にでている。
どうしようもなくね?と。
まあ、そんな訳で、草原を鹿で駆け抜けるシャイトたちの姿があった。
草原を鹿で駆け抜ける。実にシュールだ。
ときに、襲って来た魔物を倒し。ときに、休憩を入れたりしてたどり着いたのは、草原のど真ん中にぽつんと佇む一軒の全て木でできた家だった。
草原のど真ん中と言っても、川が近くに流れ、林や森といった木が生い茂っている場所も近くにあった。
草原という平地になぜ、川が流れているのか問いたいところだが、魔法があるこの世界の人々に聞いても無駄だろう。どうせ、こう帰ってくる。「魔法だからでしょ?」と。
まあ、兎に角、シャイトたちが最終的に着いたのは、木で出来た家だった。大きさは、普通の一軒家の二回り大きい程度の二階建てだ。
柵で囲まれた庭と思しき場所には、洗濯物が並んでいて、パンティーやブラジャーなども干してある。
男物の服が並んでないところを見るに、女性しか住んでないように思われる。
シャイトたちは鹿を適当な柵に繋げ、扉をノックする。
コンッ、コンッ、ココンッ、コンッ
「雪だる……」
ガチャ
シャイトのノックに合わせて歌いだそうとした葵を遮り、扉が開かれる。扉を開いた人物は、綺麗な緑がかった金髪で碧眼。肌は新雪のように真っ白く、手をつけるのも躊躇われるほど。
髪の間からぴょんと飛び出している尖った耳とその美貌を見るに、種族は森林族だろう。
「どちら様ですか?」
凛と透き通る声音は耳に気持ちよく響く。こてんと首を傾げる美女。ところどころ見せる所作が実に可愛らしい。その可愛らしさと、エルフ特有の容姿が混ざり合い、不思議な雰囲気を放つ。
一体このエルフは過去に何人の男を落として来たのだろうか……想像するのも恐ろしい。
シャイトは懐に手を伸ばし、アレイドさんからもらった手紙を取り出す。
その手紙には宛先と差出人の名前が書かれており、封を閉じるのに封蝋がが使われていた。
白い封蝋で、アレイドさんの家紋が浮き出ている。
エルフの美女がその封蝋に手をかざすと、蝋が溶けて封が解かれる。
推測だが、特定の人物の魔力に応じて封が解かれる魔法でも仕掛けてあったのだろう。先程、エルフの美女が封蝋に手をかざした時に、ほんのかすかだが、魔力が動いたからだ。
「あら、アレイドのお友達?」
「はい。シャイト・アーカイドと申します」
「フィル・アーカイドです」
「初めまして。訳あって姓は言いたくありませんが、葵です。よろしくお願いします」
3人とも、丁寧にお辞儀をする。
葵がいつもより、饒舌だが、仕方のないことだろう。初対面なのだから。これから変わるだろう。
「初めまして。アリス・フォンド・ファーンと言います。アリスってよでね♪ よろしくね♪ ささっ、入って入って」
アリスにつられて中に入ると、アンティークな内装が広がっていた。
室内を照らす灯りは、全てが橙色をしており、とても雰囲気が作られている。
シャイトたちが最初に通された部屋は、居間だった。
アンティーク調のソファが二台に、一人がけ用の椅子が2つある。
1つはアリスのだろうが、もう1つはもう一人の住人のだろう。洗濯物の数から見て、ここに住んでいるのは二人から三人だというのは簡単に予想ができる。
また、四方の壁一面が本棚であり、全てに本がびっしりと整頓され並んでいる。題名や著者を見る限り、著者の(アルシャファルでの)あいうえお順で並べられていることがわかる。
アリスさんかもう一人の住人がとても几帳面だということが伺える。
そして、本の系統から見るに、ここの住人はとても魔法好きだというのがわかる。8割が魔法書で、1割が魔法関連の歴史書、残りの1割が童話という感じだ。
まあ、そんな感じで、シャイトと葵が周囲を観察していると、居間と廊下をつなぐ扉が開かれる。
扉の軋むキィという音を響かせてやって来たのは、先程のアリスと、妙齢の女性。こちらも、アリスに負けず劣らずの美女だった。
雰囲気からして、二人ともかなり年を食っている感じだが、そんなことを言える度胸など、シャイトにはない。
戦闘になったらいざ知らずだが……
三人とも同時に立ち上がり、自己紹介を始める。
自己紹介といってもアリスに言ったのと全く同じだ。
「シャイトにフィルに葵だな。ん?葵?アレイドからの手紙には書いてなかったが……?」
「ここに来る途中に仲間?になったみたいな感じです」
「ふーん、まあ、いいや。私の名前はエレノアだ」
そう名乗ったエレノアは、部屋に入った時に持っていた木の板をシャイトたちに渡す。
「修行をつけるということだが、基本的にアリスがやる。いや、全てアリスがやる。そして、その木の板だが、自分のステータスを見ることができる」
この世界にステータスという概念はなかったはずだが、100年も経っていたら変わるのだろう。シャイトは一人そう納得して、エレノアの説明を聞く。
ステータスとは、個人個人の技量を見ることができる。まあ、技量といっても、内臓魔力量と、適正魔法属性、適正魔法系統がわかるだけだ。
内臓魔力量はその名の通り、個人が保有している魔力の量を感覚的にではなく、数字として出される。
適正魔法属性もその名の通りで、熱、水、風、金の基本四属性のどれに適正があるか確かめるものである。
一属性使える魔法士は、シングルマジシャン。二属性使える魔法士は、ダブルマジシャン。三属性がトリプルマジシャン。四属性がクアドルマジシャンとなる。
また、アルシャファルにいる魔法士が、全人口の60パーセント。その中で、シングルマジシャンが六割、ダブルマジシャンが二割、トリプルマジシャンが一割五分、クアドルマジシャンが五分という感じで、クアドルや、トリプルマジシャンはとても貴重な人材として、国に重宝されている。
適正魔法系統というのは、精神操作系統、重力操作系統、死霊系統、などなど、数え切れないほどの系統があり、今までに発見された数はゆうに100を超える。
木の板に血を垂らすだけでいいらしい。
シャイト、フィル、葵の順で発表していこう。
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内臓魔力量 120
適正魔法属性 なし
適正魔法系統 ☆♪
スキル
暗黒物質操作
魔素直接操作
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内臓魔力量 36800
適正魔法属性 水、金
適正魔法系統 物質操作
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内臓魔力量 82000
適正魔法属性 熱、風
適正魔法系統 ☆♪
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* “☆♪”は、万能という意味。悪く言えば、特出したものがないという意味。
「え……?まともなのが一人だけ」
これがエレノアの発した第一声だった。
実際にはまともな人などこのステータスを見ていないのだが、エレノアがもともと強すぎるので、感覚が狂っているのだろう。
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内臓魔力量 2000
適正魔法属性 一属性
適正魔法系統 ☆♪
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上記のが一般的な魔法士のステータスだ。
このステータスと、シャイトたちのステータスを比べたら、確かにまともな奴など一人しか……いや、一人もいないだろう。
「魔力が八万越え?スキルって何?っていうか、適正魔法系統が1つだけの人初めて見た」
後ろで両手で頭を抱えるアリスを尻目に、エレノアは混乱せずに冷静に考える。
スキルとは何か。魔力量八万越えとはなんの冗談か。
いや、スキルというものは存在するが、人間が持ったことは無かった。
スキルの一般的な見解は、魔物のうち、希少種や上位種といった特殊な個体が持つもの。といった感じだ。
その後、20分間思考に没頭していたエレノアとアリスだったが、急に清々しい表情になった。
思考を放棄して楽になったのだろう。理論を頭の中で組み立て、出来るか!?と思ったら、振り出しに戻る。そんなことを20分も続けていたのだ。賞賛してやりたい。
「イレギュラーのシャイトだけは私が師事するけど、葵とフィルはアリス任せていいよね?」
「珍しいですね?師匠が師事するとは。ちょっと妬いちゃいます」
クスクス クスクス
美女二人の微笑みがこの空間に溢れる。女性特有のいい匂いがシャイトを包み込み、それにいい気分になっていると、葵に脇腹を突かれる。
「じゃあ、決まりだ。あ、あと、敬語は無しにしてくれ。こっちがやりにくくて仕方ない」
三者三様に了解の意を示し、シャイトはエレノアに。葵とフィルはアリスに連れられて居間を後にする。
シャイトがエレノアに連れられてやって来た場所は、居間から廊下に出て階段を上ったところにある部屋の中だった。
部屋の中は家具が一切なく、殺風景で、床には何らかの魔法陣が描かれている。
シャイトが推測するに、転移魔法陣だろう。
三重に円が重なっており、外から七芒星、六芒星、五芒星が描かれている。
そして、トゥレイ言(ギリシャ文字に超絶似ている)と呼ばれる文字と、数字が空白部分に無数に並んでおり、幾何学文字とかしている。
大きさは半径1メートルほどの大きさで、魔法陣の中では中の下くらいの大きさだ。
ちなみに、アルシャファルに存在する魔法陣で一番でかいのはルーレイド帝国の宮廷地下にある召喚魔法陣だ。
この召喚魔法陣はこの世(異世界も例外ではない)に存在するすべてのものの召喚を可能とするもので、半径10メートル程ある。
最後にこの魔法陣が使われたのは約1500年前。当時の世界最高峰の魔法士が使ったと見られている。
しかし、世界最高峰の魔法士が使ってから10年も経たないうちに、何者かの手によって異世界の文字に書き換えられており、この世界で誰も召喚することができない代物となってしまった。
考古学者たちが血眼になって今現在も研究が進められているが、復活するのはいつになることやら。
書き換えた張本人は、その事実を知ると、大笑いしたそうだが、それはまあ、いいだろう。
エレノアとシャイトが並んで転移魔法陣の上に立つ。
すると、魔力も流していないのに、転移魔法陣が輝きだし、高速回転を始める。
キイイィィィィィイイイイン
鼓膜に直接響くような音を鳴らし始めた魔法陣は、次の瞬間に光を失い、完全停止する。
シャイトと、エレノアの前に広がっている光景は、先ほどの部屋と変わらない殺風景なもの。間取りも変わっていない。
失敗か?と思われたが、窓の外を見ると、失敗ではないことは明らかだろう。
先程まで窓の外に広がっていたのは、地平線まで続くかと思われる広大な草原。
しかし、今現在窓の外に広がっている光景は、青い空だった。
眼下には汚れなき真っ白な雲が覆っており、頭上には青に輝く太陽。
裸眼で見ているのに、太陽が青色に見える。目がおかしいのだろうか?
シャイトが目をこすり、もう一度窓の外に目をやるが、先程と全く変わらない光景が広がっていた。
この世界が三度目であっても、流石にこんな非常識な光景には出会ったことがなかった。
「ようこそ!我が天空城“ラピタ”へ!」
「バルスッ!!!」
エレノアがこの城?の紹介をする。
どこか、有名な映画に出てくる城と同じような名前がするが、きっと気のせいだろう。
気のせいと思いたい。
しかし、バルスと叫んでいるシャイトもシャイトだろう。
崩壊はしなかったとだけ伝えておこうと思う。
その頃、シャイトとエレノアと別れたアリス、葵、フィルの三人は、草原のど真ん中に立っていた。
近くに先程まで居た家はなく、あるのは扉がポツンと一つだけだ。
この扉は玄関の扉と繋がっており、特定の鍵を差して、特定の空間へと繋げる魔導具だ。“どこ○もドア”みたいに万能ではなく、あらかじめ設定しておいた場所にしか繋げられず、設定できる場所も五個までと制限がある。
しかし、そんなデメリットより、メリットの方が大きい。
転移魔法陣で移動するより、時間が掛からないし、何より、消費魔力が無いに等しいほど少ないのが魅力的だろう。
「とりあえず、今撃てる最高の魔法を撃ってみて」
いいのか?と疑問に思う二人だったが、最終的には二人同時に頷き、視線で順番を決める。
葵が前に一歩踏み出した。
どうやら、葵が先に魔法を撃つようだ。
「我が魔力を媒体とし・この世の理を覆す・生きとし生けるもの・焼き払い給え」
4節詠唱の葵の呪文。葵の手から魔力が周囲に散布されたかと思うと、その魔力が何の予兆もなしに引火し、ナパーム弾のように炎が広がる。
指向性を持たせた炎は葵を中心として、扇状に広がり、やがて何の前触れもなく、フッと消える。
草は灰すら残さず消え、禿げた地面が広がっていた。
摂取6000度を超える炎。効果範囲約15メートル。消費魔力250程度。
この魔法は第五位階魔法に匹敵する。
ちなみに、位階魔法とは、魔法のランク付けに使用されており、アルシャファルでは第一位階魔術〜第十位階魔法までの20段階で分類されている。
魔術とは、魔法の下位交換版と考えてもらっていい。
明確な違いといえば、魔術は人間の理解できる範囲、または、証明できる範囲までの神秘のことを言い、魔法は、人間の理解できる範囲外、証明出来ない神秘のことを言う。
もっと簡単にいえば、魔術は努力さえあれば誰でも行使可能だが、魔法は才能がなければ術式の組み立てすら出来ない。
「第五位階魔法……やるじゃない」
アリスが葵に向かって賞賛を送る。
人類が到達できたのが、第六位階魔法。この歳で、一歩手前の第五位階魔法をものにしている葵が凄すぎる。
さて、次のフィルだが、何か悩んでいる様子だ。
「フィルちゃん。どうしたの?」
アリスが問いかけると、迷いなく首を縦に振り、口を開く。
「実は、水属性の訓練、一回もしたことがなくて……金属性しか出来ないんですが、いいですかね?」
「何言ってるの?そんなのどうでもいいわよ。私は自分の最高を撃ってって言ってるのよ。そんなの関係ないわ。防御結界でもいいのだから」
「わかりましたっ!」
いきなり元気?になったフィルは、両手を前に掲げる。
すると、何も唱えていないのに、フィルの眼前に金色の粒子が集まり出し、
ゴォオン
何かの機械音のような唸りを上げて横3メートル縦3メートルの金色の結界が出現した。
「う、そ………っ!?神話世界にのみ存在すると言われた第七位階魔法?そんな……!?しかも、神・オーデンの最強の守りと謳われた金色結界?」
* オーディンではありません。オーデンです。
「あ、知ってましたか。当然ですよね」
混乱するアリスに向かい、フィルは淡々と告げる。
その目は、ふふんっ!すごいでしょ私!褒めてもいいのよ?と言っているような気がする。決して気のせいではないのだろう。
得意げに胸を張るフィルと、フィルに負けたとボソボソ呟く葵、私必要ないんじゃ?と本気で考えるアリスの構図がそこに出来上がっていた。




