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妖狐の異世界転生旅  作者: ポポ
第1章 死そして転生
16/50

目覚め

よろしくです!

その後シャイト達は葵が付いて行くと言ったので、荷物をまとめるために葵の部屋に来ていた。


葵曰く、飛空船の客室が全て埋まることは滅多にないと言うことなので当日の飛び入りでも大丈夫らしい。まあ、昨日大丈夫だったんだから当日も大丈夫だろうと言うことだ。


「ここが家」


そう言って紹介された場所は地球で言うところのアパートに近い物件だった。葵は一階のとある扉の前に立つと、懐から鍵を取り出してドアにかかっていた鍵を開けた。


鍵のガチャリという音を聞いて中に入ると、8畳一間の1Kの乱雑な空間が広がっていた。


「家賃は1週間5000ルイス、周りは結構静かで住みやすい場所だよ」


葵が先頭して中に入り、説明しながら部屋の中のカーテンを開けると部屋全体を照らす陽の光が差し込む。

葵が言う通り、このアパートがある場所は閑散とした住宅街が広がっており、大通りの喧騒とは無縁な感じだった。


「荷物、まとめるからパパ以外の男は出てって」


「なぜ俺だけ?」


「別にパパに下着ぐらい見られてもいいし、1人だけでも人手は多いに限る」


シャイトは納得まではしないものの「ふーん」とだけ葵に返し、服類、ゴミと思われるもの類、雑貨類、etc.とまあ、そんなこんなで葵の荷物をまとめること2時間。シャイトは本棚に収納されている本が気になり取り出してみると、ガシャンという音を鳴らして本棚が回転。本棚が回転して出て来たものは、なんと銃火器だった。


「…………………………え?銃?」


シャイトは混乱する頭を必死に宥めつつ、冷静さを戻した頭で考えること数秒。第一声がこの言葉だった。

地球でこれを見たのならば「うわっ」という驚きを出すだけで済んだのだが(内心で)、異世界のこの地となると、流石にそんな小さな驚きだけでは済まされなかった。


女騎士2人とフィルはこの世界に無いものを発見し、観察するようにまじまじと見つめ、葵は「あ、そういえば」という今思い出したような表情で両手をパンッと打っている。


「ベレッタM92が三丁、サバイバルナイフ一本、コンバットナイフ一本、眼鏡特注葵専用防弾服上下一着、弾倉五個、眼鏡特注猫耳専用補聴器・インカム……か。何したんだ?」


シャイトは本棚の裏に隠されていた物の名前を1つずつ上げていき、最後に質問した。その質問を受けた葵は「ふふん」という効果音がつきそうなほどに胸を張り、


「警察・自衛隊とドンパチやりましたっ」


そう答えたのだった。シャイトはその答えを聞き、こめかみを抑えて深いため息を吐くと、「過ぎたことはしょうがないか……」と独り言ち、そのすぐ後には葵を褒めるのだった。葵は絶対に怒られると思って身構えていたのだが、褒められたことにより、肩透かしを食らった気分になった。


「え?怒んないの?」


「ドンパチやったのは怒りたいとこだが、この世界に銃器を持って来たことを褒めてるんだよ。戦力アップに繋がるしな」


どうやらシャイトはここにある銃器を使うつもりでいるようだが、問題点がいくつかあるが、大きな問題は手入れ用品が無いのと、既に装弾されていた弾丸含めて120発しかないこと、の2つだ。

手入れをしなければ暴発する危険性があるし、弾丸がなくなればただの鉄塊、荷物になるだけだ。


手入れは日用品でなんとかできるだろうが、弾丸が問題だ。作る技術なんて持ってないし、構造もイマイチ分からない。まあ、構造は分解して理解するとして、どう製造するか……まあ、後で考えればいいか。


そんなこんなで、際どい下着を見つけて騒いだり、手榴弾が転がっていてビビったりと騒がしかったが、飛空船出航時刻には全員搭乗ができた。



飛空船内部は「何処の豪華客船だよ」と呟きたくなるくらいに豪華な帆船だった。全長290メートル、乗客2600人、内部は、プリンセス・ダイヤモンドというクルーズ船に似てる。まあ、似ているだけで、技術力は落ちているが。


チケットを渡し、乗務員に案内してもらった部屋は運良く窓が多い部屋でかなり日当たりがいい。ここはスーペリアクラス。しかし、ベットは1つのみ。普通はシングルベットが2台置いてあるかダブルベットが1台置いてあるかなのだが、葵がシャイトと同じ部屋がいいと駄々を捏ね出したので急遽こうなったのだ。ちなみに、横2メートルちょいはありそうなキングベットが1台である。


娘には甘い。必然的に甘くなるのだ。


反対した者はいな……フィルだけだったが。考えないことにしよう。


内装は、普通のビジネスホテルと思ってくれた方がいいと思う。ちょっとだけ違うが、ほとんど一緒だ。


荷物を部屋に置いたシャイト達はそれぞれ軍資金を持ち、船の中にあるカジノに向かう。向かう理由は人それぞれで、シャイトはちょっと路銀が少なくなって心許ないから。フィルは貯金を増やす為。葵は結婚資金を貯める為。男騎士3人は娼婦の為。女騎士2人は男娼と貯金の為。もちろん女騎士2人は貯金の為としか教えてくれなかったが、葵が聞き出したのだ。また、葵の結婚資金の話だが、話題にしない方が吉という物だろう。


テクテクと男騎士3人を先頭に歩いて行くと、カジノのスペースが見えて来た。既にスロットの回る音や、ルーレットの回る音、負けた人の声や勝った人の声、サイコロの音などが聞こえて来ていた。


シャイト一行が到着すると、当然注目の的となる。当然だろう。10歳くらいのまだ、この世界ですら成人と認められない年齢の子供が2人もいるのだから。しかし、地球とは違ってこの世界に未成年はダメという法律なんて存在しない。法律違反では無いが、注目されるのは必然だろう。


そんな一行は待ち合わせ場所、時間などを決めてから一旦解散、男騎士3人組はルーレットへ、女騎士2人はスロットへ向かった。先程、駆け引きは得意では無いと言っていたので、当然といえば当然か。そして、シャイトと葵、フィルの3人は自分の得意なところに行くと決めた。フィルは初めてなので葵について行くことにしたようだ。シャイトはブラックジャックのテーブルへ、葵とフィルはポーカーのテーブルへと向かっていった。


シャイトはブラックジャックのテーブルへと腰掛け、テーブルの上にドンッと言う重いものが乗っかった時の音を立てながら麻袋を置く。ディーラーはそれを無言で頷き、エリア責任者を呼ぶ。エリア責任者の前で金をチップと交換して行くのだ。

麻袋の中は金貨5枚と銀貨20枚。それをエリア責任者を連れて来たディーラーが手に取りチップに変えていく。その際、ディーラーとエリア責任者は軽く目を見開いていたが、周りには気づかない程度なので良しとしよう。


そして、交換されたチップは黒が5枚と白が20枚。


なんとなくわかると思うだろうが、金貨が黒、銀貨が白、大銅貨が赤だ。銅貨や銭貨、石貨は使えない。日本円にすると、金貨が10万、銀貨が1万、大銅貨が1000、銅貨が100、銭貨が10、石貨が1円と考えてもらいたい。


早速、ディーラーが手札を配る。そして、その手札を見てからベットする。


そんなことを続けまくって約2時間、集合場所であるカジノエリア近くにある巨大な柱まで行くと、男騎士3人組は以外が揃っていた。


「あ、パパおかえり〜。どうだった?」


いち早くシャイトの気配を察知した葵が戦果を聞いてくる。負けてたらどうするんだ?と思うのだが、多分、葵は負けるなど微塵も思っていないのだろう。困ったものだ。しかし、シャイトはカジノに行って軍資金をマイナスにして戻ってくることなど一度もないので、そこからもそういう信頼?が来ているのだろう。


シャイトは葵の質問に麻袋3つを掲げて満面の笑みで答える。そうすると、葵も下に置いてあった麻袋2つを掲げて満面の笑みを返してくる。どうやら、葵も勝ったようだ。


他の奴らに視線を向けると、女騎士の1人はホクホク顔で1.8倍くらいになった麻袋を掲げ、もう1人は「増えも減りもしませんでした」と返して来た。そして、その女騎士の横で蹲るフィルを見れば、フィルの結果もわかる。分かり易過ぎる。


そして、女騎士2人と葵を合わせた4人で談笑していると、視界の端に男騎士3人が小走りで近づいてくるのがわかった。


「どうだった?」


女騎士の1人が男騎士3人に話しかけ、その3人全てがサムズアップした。どうやら、負けたのはフィルだけのようだ。


全員揃ったシャイト達一行は船の最上階、甲板の一個下にあるレストランへ向かった。この船内の夕食の時間は6時から9時までに船内のレストランへ入れば無料で食べられるというものだ。ただし朝食と夕食の1日二回のみ。それでもかなりいいサービスだろう。これで利益はいったい幾らになると言うのか、これで商会(会社)が成り立つのか不思議である。


そして、やって来たのは展望デッキにあるレストラン。机1つ1つに置いてあるランプが可愛らしく、さらに、頭上に輝く月とそれを反射する海面に浮かぶ月。この2つの月も相まって幻想的な雰囲気が漂っている。


ウェイターの青年に連れられてやって来た席はデッキの端。外の風景が楽しめる場所だった。


そんな雰囲気に女性陣がうっとりしていると、不意にシャイトが疑問顔を浮かべる。それを不思議に思った向かいの席に座る葵が尋ねると、


「いや、上空で風もあるのによく火が消えないなって。ロウソクの火だぞ?不思議に思わないか?」


葵は今更ながらに気付いた自分を叱咤しつつ、確かに疑問に思った。その2人があれこれと仮定を立てて行くが、空気の読めない男騎士の1人が、


「魔法ですよ。風魔法。便利ですよねぇ〜」


シャイトは溜息を深く付き、疑問に思う騎士の斜め前からは男騎士に対して鋭い視線が突き刺さる。「え?俺何かやった?」と口に出す騎士。周りに助けを求めるも、皆が皆「自業自得だ」と斬って捨てるのだった。


そうこうしているうちに料理が運ばれて来た。今回頼んだのは、とても評判のあるコース料理だ。評判では、一口食べると口の中に食材の楽園が広がると言う。肉は舌で食べれるほど柔らかく肉汁たっぷり、しかし、食べ応えもあり、さっぱりとしていてとても食べやすいのだそうだ。


食べた結論から言うと…………メッチャ美味い。ミシュランで星を何個でも獲得できるほどに美味い。と、思う。




そんな船上バカンスを謳歌していると、遠方に大陸が見えて来た。それをみんなして上空から見ていると、アナウンスが流れた。どうやらあれが目的地の魔大陸らしい。


だが、近づくに連れ不穏な空気が乗務員に流れ始める。確かに魔大陸の港と思われる場所に大量の人が集まりこちらを見て指を指しているが何か問題でもあるのだろうか……例え、その全ての人がお揃いの防具を身につけていたとしても、こちらに弓を向けていたとしても、竜騎士と思われる者が飛び立とうとしてもだ。


そして、急激に船首が反転。Uターンする様に来た空路を戻る飛空船。


「何かあったんですの?」


如何にもアイ アム 貴族!!な令嬢が二枚目な乗務員、二枚目な乗務員に話しかける。“二枚目”これ重要。


話しかけられた二枚目な青年がこれまた二枚目然とした爽やかな表情で、


「どうやら魔大陸を統べる七魔王の総意で無条件撃墜令が出ているそうです」


この“無条件撃墜令”と言うのは、“無制限潜水艦作戦”と言う馬鹿な作戦とほぼ一緒だ。違う点を挙げろと言われれば、飛んでいるか飛んでいないかの違いだろう。飛空船にだけ反応するものの様だ。なんと迷惑な話である。


その事を聞いた令嬢は顔を青褪めさせたがUターンしている事に気が付き、安堵の表情を浮かべるが、早計というものだろう。


シャイトが二枚目から視線を外し、港の方に向けると、既におびただしい数の竜騎士が飛びだっているところだった。パッと見で50騎は超えているだろう。


オーバーキルではないか?と、思うシャイトだったが、それは間違いだと直ぐに察する。なんと、船体下と左右から砲台の砲口が飛び出したのだ。


(あれ?この船って戦艦だったの?)


乗務員たちはどこからか弓と矢を取り出して番る。今思えば乗務員の制服も軍服に見えなくもない。肩にある星の数が違うから多い方が階級が上なのだろう。


シャイトと葵は慌てず場馴れした雰囲気を纏っており、他の者は、ギャースカピースカと騒いでいる。フィルと騎士たちは流石にそんな愚を犯さないがシャイトと葵ほど落ち着いている訳ではなかった。


『撃てぇぇえええ!!』


野太い声が響き渡ると同時に砲台が火を噴いた。この世界に火薬という物は未だに発見されてはいないので何が飛び出したのかというと、火炎系統の砲弾が飛び出した。


飛び出した火球は一瞬で竜騎士まで到達すると、対空砲の様にその場で爆発した。火球はどうやら土魔法との複合魔法らしく、石の礫が無数に飛び出し、爆風や爆炎の効果範囲外の竜騎士もドラゴンという存在を嘲笑うかのように鎧や鱗に風穴を開けていく。


初撃を乗り切ったのは50騎中12騎。その内、戦意を喪失せずにこちらに攻撃しようとする者はいなかった。それはそうだろう。この状況で戦意を喪失するなって方が難しい。だが、地上にいる馬鹿な指揮官は状況も把握できなく、人間としてもクソだったため、


「お前ら!何やってやがるっ!さっさと突撃しろっ!俺の昇進がかかってんだぞ!?家族を人質に取られてる事忘れた訳じゃねぇだろうなっ!?」


特攻しろというような命令まで出す始末。


「本当に馬鹿な奴。ここに誰が乗ってると思ってんだよ」


女性の声。決して大きな声ではなかったのだが、何故か騒がしい甲板に凛と響き渡る。そして、その声に反応するかのように隣から生物の生存本能を掻き立てるような圧が周囲に漂い始める。


そこかしこから小さな悲鳴や呻き声が聞こえるのだが、誰1人として逃げる者はいない。乗務員?たちも次弾を装填する手を止める。いや、動けないのだ。逃げ出したくても足が言うことを聞かない。竦んでしまって指一本動かすことができない。

同乗していた騎士達も同様だ。歴戦の猛者でも動けないのだ。


もし、この現象が日本の首都で起こったならば、一時的に時間が止まるという不思議現象が起きたことだろう。


しかし、この圧の中で動ける者が1人だけいた。葵だ。冷や汗とも脂汗ともつかぬ汗を額に浮かべながら、圧を発している張本人に声をかける。


「パ、パパ。抑えて」


「お、すまんすまん。ついカッとなっちまって」


照れ臭そうに後頭部を掻きながら謝るが、周りの人の内心は「そんな軽いもんじゃない!」の1つのみだろう。葵が自分の父に呆れ顔を向けていると、今さっきまで父がいた場所は空間になっていて、甲板の端には、手すりに片足をかけているシャイトを発見する。 何をしているのかと声をかけようとしたが、想像がつくので、開きかけた口を閉じ、見送る体制に入る。その娘の気遣いに感謝しながら、これまた物凄く軽く、「んじゃ」と言って甲板から飛び出した。


乗務員が急いで飛び降りたところに駆け寄り、下に視線を向けると、海に立っているシャイトを発見し、絶句する。人間がこの高さから飛び降りて、下が水だとしても無事なはずがないし、さらには、海に立っているのだからしょうがないだろう。


シャイトはというと、「ショウの始まりだ!」と言わんばかりに両手を広げると、次の瞬間には、予備動作も何もなく飛び出した。人間ではありえない速度を実現し、抜剣。黒の剣身がシャイトに向かっていく弓矢を叩き落し、いなし、シャイト自身も木の葉のようにひらりひらりとかわしていく。


ついに、上陸し、第一防衛ラインに接敵した瞬間にシャイトを中心に血飛沫が舞う。防具や盾など存在しないかのように無造作に振るわれる剣は確実に相手の肉を削ぎ、切り裂く。盾を弾き鎧の隙間を縫って確実に敵兵を仕留める。


狂戦士がこの光景を見たのならば、あの悪魔と戦いたいと叫び。詩人が見たのならば、血に愛された舞踏会と語り。その他大勢がこの光景を見たのならば、悪魔の再来と呼んだだろう。


そのくらい圧倒的強さと美しさと冷徹さを見せる蹂躙劇は飛空船の眼下で行われていた。


戦闘開始シャイトのみから数分が経過し、第一防衛ラインが崩壊。その光景を見ていた第二防衛ラインも戦意喪失し、崩壊。残るは第三防衛ラインのみとなったのだが、


「待て待て待て待て!わかった!わかったから!ここを通せばいいのだろ?俺様の権限でお前だけは通してやるから殺さないでくれ!」


しかし、10歳ほどの少年にみっともなく命乞い?をした指揮官に対するシャイトの返答は、


「なんで俺がそんな話聞かなくちゃならないの? ここを壊滅させちゃえばいいだけの話じゃん。そうすれば俺もここを通れるし船にいる連中も入れる」


心底不思議そうに首を傾げ、微笑むシャイト。背景が血の海でなく、シャイトが返り血を浴びていなかったら可愛くも見えただろうが、この場にいる兵士たち、いや、この場にいる人全員には死神の微笑みに見えただろう。

だが、そんなに死神も無慈悲ではない。


「選ばせてやる。指揮官が足枷と手枷をつけて海に飛び込むか、俺がここにいる兵士全員を皆殺しにするか、兵士たち全員が死んで指揮官が生き残るか。さぁ、選んでくれ」


既にシャイトは剣に付着した血を拭き取り、鞘にしまっている。隙が多い様な感じがするが、武術を少しでも嗜んでいれば、すぐに隙がないとわかるだろう。そんなシャイトは腰に手を当て、堂々と立っている。


「い、いやだ。お、俺には妻と娘がいる。こんなとこで死ねるかぁ!」


1人の兵士が抜剣し、指揮官に襲いかかるが、いつの間にか移動したシャイトに意識を刈り取られる。

また、襲われた指揮官はというと、半恐慌状態に陥り、全ての兵士に命令を下している。


--死ねと。俺の為に死ねるんだから光栄に思えと。


だが、そんな命令に兵士が従うはずもなく。


「俺、あいつのこと嫌いだったんだ」

「多数より少数の犠牲だよな」

「俺は、まだ死ねない」

「まだ、死にたくない。やりたいことがいっぱいあるんだよぉ!」

「まだヤッてないのに死ぬのか?そんなのやだぜ?」


など、理由は様々だが、何を選ぶかは決まりそうだ。


「決まりみたいだな」


シャイトが抜剣しながら何の感情も乗っていない声音を出す。その言葉をかけられた指揮官は完全に恐慌状態に陥り、先程と同じ様な指示を出す。しかし、同じ様に兵士が従うはずもない。


「お前ら!わかってんのか!?そんな判断を下した奴は家族もろとも極刑にしてやるからな!?それがやだったら全力で俺を守れ!!」


追い詰められた指揮官は切り札としてそんな事を口にする。当然、兵士たちは狼狽し始め、剣を落とす者が続出するが、


「はっ!ここでお前を守っても死ぬだけだ。ならば、少しでも長生きする方を選ぶ」

「俺、家族いないん。そんな脅し無駄や」


などなど、そんな脅しが効かない兵士も少数ではあるがいる。だいたいここにいる兵士の1割ぐらいがそうだろう。シャイトが何を言いたいかというと、そんな脅しは効かない。と言いたいのだろう。


1割は反抗を示し、残りの9割は戦意喪失。指揮官を味方する者はいないと。


しかし、ここで“兵士たち”には不測の事態が起こる。


後方から弓矢や、攻撃系統魔法が飛んできたのだ。


完全なる奇襲。反抗を示した1割の兵士は全て心臓を弓矢で射抜かれ即死。戦意喪失した者は多数が死傷。

奇襲が成功したことに喜び、口元をにやけさせる指揮官だったが、次の瞬間にはその表情が固まった。


攻撃系統魔法の爆風や衝撃で吹き飛ばされた土煙が晴れる。

立っている者は1人もいないと思われる程の激しい攻勢。


視界一面に広がる光景はまさに死屍累々。しかし、その中央にぽつんと立つ人影。その人影は子供と同じくらいの背丈。


指揮官の表情が固まった瞬間。その人物……シャイトから魔力が吹き荒れた。


世界最大の制御量を持つと思われる者がフルパワーを出したのだ。


普段は目に見えない魔力が黄昏色に輝き、莫大な魔力量によって視認が可能になる。周囲の物が震え、風が起き、土煙を吹き飛ばす。


高速振動を繰り返す土煙は周囲を切り裂きながら進む。肉を断ち骨を喰らう。降伏した者(戦意喪失した者)には当たらない様に精密制御された土煙はやがて、消え去った。


その場に残ったのは、増援できた精鋭数人と指揮官の10名。それと、降伏した者だ。


こんな有様でも指揮官は希望?を捨ててない様に見える。たとえ、表情が固まっても、恐怖で肛門周りの筋肉が緩くなっていてもだ。


「随分やらかしてくれたね?少年」


指揮官の後ろから出てきたのは二十代後半と思われる男だ。「余裕でーす」という雰囲気を隠しもせずに歩く姿はその容姿と相まってモデルの様だ。

服は、宮廷魔法士コートマジシャンの制服なのであまり煌びやかではないが、ファッションショーに出しても恥ずかしくはない程センスがいい。


その男は手に持つ自分の背丈と同じ大きさの杖をシャイトに突きつけながら宣言する。


「七魔人が一人、ヴァイヴァルバ・グリューエンが相手になろう」


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