反逆の狼煙 3
次からは3日に一度くらいの投稿になります。
もしかしたら、1週間ということもあるかもです
ライムで少女との緊急連絡?を終えた眼鏡は、息をつく間も無くハッキングで国民保護サイレンを消す。
「ふぅ……あの生理的に嫌悪感を感じるサイレンはなんなの?誰が考えたのよ……趣味悪過ぎよ」
ここに猫耳の少女がいたら「お前もな」と突っ込んでいただろう。
眼鏡は誰もいない天井が凹んだコンテナの中で、独り言を呟き、寝っ転がる。
「あ、無人機子猫ちゃんに貸さなきゃ………だりぃ」
渋々と言った感じで起き上がると、5機ある無人機の中の1機の操作主導権を少女のパソコンに委託してから、今度こそ寝っ転がる。
「やっべぇ……寝みぃ………ふわぁ〜あ」
大きな欠伸をすると、レーダーに反応があった。
床に転がしてあったタブレットを操作して、敵の位置情報を確認する。
「50メートル範囲に自衛官が……15人か。本当にガチで潰しにきてるの?」
眼鏡が言ったように、このトラックを潰すには(物理的にではなく)15人程度では足りない。
それをわかっていない指揮官が馬鹿なのか、それとも、囮なのか。こちらの戦力を見誤っているのか。
そんなんどうでもいい。
殺すだけだから。10トントラックの下部に取り付けた2門の機関砲を、生体反応があった方向に掃射する。
タブレットの画面に映っている緑の小さい点が次々と消えていき、最終的には2人だけを残して、全滅した。
眼鏡は側に置いておいた中型自動拳銃を手に取り、コンテナから外に出る。
「外に出るのなんて、何時間振りだろぉ」
大きく伸びをした眼鏡に1発の弾丸がかすり、着ていた白衣が裂ける。
「危ない危ない。殺すつもり?」
殺すつもりだから来てるのかぁ〜、と、なんとも気の抜けた言葉を口から出すが、その気の抜けた言葉とは裏腹に、自動拳銃を右手に構えて、照準を自衛官に合わせる。
右手に構えた自動拳銃の引金が引かれ、銃口から弾丸が飛び出したかと思うと、白衣を傷つけた自衛官の脳天を銃弾が貫通する。
「あと、ひとりぃ」
最後の生き残りとなった自衛官は、恐怖に駆られてか、自動小銃の弾丸を無闇矢鱈に撒き散らすが、銃口が眼鏡(銃を構えている女)にすら向いていないので、当たらない。
右手に持った自動拳銃の銃口を理性を失っている自衛官の額に向けて、発砲。1人目同様に額に穴が空く。
眼鏡は深く溜息を吐くと、再びコンテナ内に戻り、自動拳銃を適当に放り投げる。
実に危ない行為だが、そんなことを気にする眼鏡ではない。
パソコンの前に再び座ると、ディスプレイと睨めっこを開始。
千葉、新潟、秋田、岩手、沖縄、滋賀、宮崎、岡山、大阪、京都、和歌山の11の都道府県は警察・自衛隊の手に落ちたと表示され、26の都道府県が危機的状況に陥っている。
しかし、眼鏡の顔には一切の表情が消えていた。焦燥や、仲間が殺されたことによる怒りすらない。
眼鏡の心情を簡潔に表すと、“子猫ちゃん以外どうでもいい”だ。
猫耳の少女さえ生きていればそれでいいのだ。では、なぜこの様なテロ行為に及んだのかと言うと、ひとえに“猫耳少女が心配だったから”。
少女1人だけで、こんな大規模な危険を冒して欲しくなかったから。
そして、決定的とも言えるのが、少女の父と約束したからだ。
そんな無表情を貫き通していると、背後(攻撃ヘリ10機がいる方向)から大音量の爆発音が10回、周囲に轟いた。
上部ハッチを開けて爆発音がした方向に視線を向けると、ちょうど10機の攻撃ヘリ(AH-64D アパッチ ロングボウ)が黒煙をあげて墜落途中か、空中で花火の様に盛大に爆発していた。
また、大型輸送ヘリからは人が蟻の様に空中から投げ出され、パラシュートを広げる自衛隊員の姿も見える。
次々と空中に身を投げていく自衛隊員を尻目に、反対側(眼鏡から見て正面)から迫る攻撃ヘリにも目をやるが、心配はなさそうだ。よく晴れ渡った快晴の空に、僅かにだが黒煙が残っており、数秒後には爆発音が耳に届いたので、堕とされたのだろう。
一旦、コンテナ内に戻り、タブレットを確認すると、かなりヤバくなって来た。戦車(90式戦車)10台に、戦闘機(F-4EJ)5機。さすがに少女といえども耐えきれないだろうし、抑えきれないだろう。
眼鏡は額に脂汗をかきながら、10トントラックの運転席に座る。
もちろん、大型車の運転免許証なんてもの持ってないし、運転したこともない。
実を言うと、眼鏡は、普通車の免許も持っていない。車なんてものはゲームのみでしか運転したことがないのだ。
では、なぜ運転席に座ったかと言うと、他に運転する人がいないと言うのもあるのだが、1番は気分だった。
ここに少女がいたら、きっとこう言うだろう……「何やってんだ?あのクソ眼鏡……状況わかってんの?」
さて、話を戻すが、眼鏡はエンジンを掛け、アクセルを踏むところまではうまくいったが、次が問題だった。
「あれ?ブレーキってどうやんの?」
ブレーキの位置すら知らずに、よく動かせた物だと思うが、時すでに遅し。トラックのスピードは既に時速80キロに到達しており、しかし、どこにもぶつけていない。
眼鏡はハンドル回し、アクセルを全開に踏んでいるだけなのにだ。
まあ、一言で表すのなら“才能”という言葉で片付けられそうだ。
何せ、ハンドルさばきだけで、住宅街を時速約80キロで爆走し、曲がり角も、片輪を浮かせながらではあるが、きちんと曲がっている。
そして、眼鏡の目的地は、もちろん警視庁だ。
「待っててねぇ〜〜!!!!!子猫ちゃんの盾が今参りまーす!!」
奇声を発しながら……
☆
少女が引金を引くと、銃身でたっぷり加速された弾丸が銃口から飛び出し、約3秒後に先頭を突き進んでいた1機の攻撃ヘリが黒煙をあげながら墜落する。
「初弾命中!」
ボルト・アクション式のボルトハンドルを後ろに引き、排莢、次弾を装填し、素早く照準を合わせて、引金を引く。
それを5回繰り返した時には、担当する上空には攻撃ヘリがいなくなり、弾倉も空になった。
「すごいです!」
そう言いながら、キラキラした目を向けてくるのは観測手を任せた青年だった。
「1800メートル先の的を正確に撃ち抜くようなもんですよっ!マジですごいっ!尊敬します!」
尊敬されても……といった感じの苦笑いを少女は浮かべながら、弾倉の取り替えを行う。
弾倉の取り替えを終え、先程と同じ様に流れるような動作で装填。スコープを覗き込む。
先程スマートフォンの画面(パソコンと同じ例のアプリ)を見た限りでは、少女が担当する西側に戦車が5台迫ってきていることがわかった。
少女がついでと言わんばかりに引金を引くと、見事戦車の駆動部に命中。動きを止めることに成功する。
また同じ流れるような動作で次弾を装填し、2台目の戦車を行動不能に陥らせるが、順調にいくのはここまでだった。
「ッ!! 逃げてっ!」
そう言って少女を突き飛ばしたのは、先程まで無垢な笑顔で話しかけてくれた青年だった。
切羽詰まった青年の表情。
ドガァンッ
先程まで少女が狙撃していた場所が、青年と一緒に弾け飛んだ。
コンクリートの破片が辺りに散らばり、呆然としている少女を動かしたのは眼鏡の声だった。
「待っててねぇ〜〜!!!!!子猫ちゃんの盾が今参りまーす!!」
銃声が飛び交い、何もかもを押しつぶすような中、やけにハッキリと聞こえた。
青年の犠牲を無駄にしてはいけない。
そして、記憶が蘇る。
『お前は優しい子だ。仲間の死を悲しんでいる。だけど、それだけじゃこの裏の世界は生きていけない。死んだ仲間の分も生きてやる。そう心に刻んで生きろ。汚くてもいい、卑怯でもいい。生きてさえいればチャンスはいつかくる』
何年前の記憶だろうか……幼き頃の少女の頭を撫でるのは、現在の少女と同じくらいの年齢の少年。
少女が父と慕う人物だ。
少女の綺麗な翡翠の瞳から一筋の雫が滴った。
少女がエントランスに着くのとトラックがエントランスを守るように乗り上げたのはほとんど同時だった。
「子猫ちゃ〜ん!!大丈……」
F-4EJが爆弾を警視庁本部目掛けて投下したのはその時だった。
そのことに気が付けたのは少女ただ1人。
眼鏡の声を遮り、警告を促そうとしたが、一歩遅かった。
ドガァァァアアンッッ!!
少女の目の前が紅蓮色に染まり、目の前にあったトラックや、目の前にいた眼鏡は跡形もなく消え去った。
実に呆気ない。あの眼鏡が一瞬にして死んだ。
ヤクザの総本山に単身で乗り込んで無傷で帰ってくるような奴が一瞬で死んだ。
その現実を直視する少女だが、受け入れることなど出来ない。少女が父と慕う者の次に心を許していた相手だったのだから。
少女が唯一残っていた眼鏡のかけていた眼鏡を拾い上げ、膝を地面につき、崩れ落ちていると、ついに自衛隊の本隊が到着した。
即座に取り囲まれ、いくつもの銃口を向けられるが少女の身体に痛みは襲ってこない。
不思議に思い顔を上げる。
それもそうだろう。自衛隊が完全に戦意消失している相手を……今、脅威でもない相手を殺す筈無いのだから。
しかし、その判断は間違っている。
世界最凶と恐れられた男の娘だ。即座に殺すべきだったのだ。そして、殺さなかったことで、本来死ぬ筈のない人間が死ぬ。
流れるような動作でホルスターから自動拳銃を引き抜き、
ダアアァァンッ!
銃声は一発、しかし、少女は4回引金を引いた。いや、4回で強制的に止められた。
その全ての弾丸が狙い違わず、4人の自衛隊員を殺したが、それ以上の死者は出ない。
何故なら、少女の腹部から血が滴っているからだ。
「これが走馬灯ってやつ?」
最後にそう言い放って、少女の意識は、出血多量により闇に落ちた。
そして、このテロ事件は過去最大の死者数を叩き出した。
民間人死者数234名
警察官死者数7842名
自衛官死者数459名
のちに、このテロ事件は〈灼熱の終戦記念日〉と語り継がれ、若者達に武力衝突の怖さを埋めつけたというが、それは、また別の話。
☆
少女が目を覚ますと、そこは知らない森の中だった。
片手で起き上がり、もう片手を顔に当てて状況を整理する。
自分は自衛隊員に囲まれて……撃たれて意識を失った。
「撃たれて?」
小声で呟き、記憶にある撃たれた場所を弄るが、痛くもかゆくもない。
視線を向けると、服は破れていたが、肌は破れていない。
不思議だ。
血も流れた痕も無ければ、撃たれた痕も無い。少女が混乱していると不意に足音が聞こえてきた。
少女は、脊髄反射でホルスターから自動拳銃を引き抜き、足音がした方向に銃口を向ける。
そこにいたのは、四つ目の狼だった。
「新種……?」
悠長に少女は考え込む。しかし、自分のことを脅威と見なしていない少女が気に食わなかったのか、四つ目の狼がひと吠えすると周りからも同じ種類の狼が出てきた。
その数、5体。
全ての狼が少女を囲むように陣取るが、当の少女はというと、
「四つ目の狼?……そんな動物は地球にいないはず……新種?……それとも地球じゃない?……っていうか、なんで撃たれたのに生きてるの?あの後どうなったの?」
全く焦っていなかった。
少女が自身の思考の海に潜っている間も、四つ目の狼、計6体は獲物を見るような目で少女を睨め付けながら狩の体制に入っていく。
そして、四つ目の狼たちが一気に襲い掛かるために跳躍しようとするが、動かない。
よく見れば四つ目の狼の四肢がプルプル震えている。
なんとも情けない……いや、震えるだけに止まっていることを褒めるべきかもしれない。もし、普通の人間が得体の知れない“コレ”を受けたら、口から泡を吹き、一瞬で気絶するだろう。
それくらいの“殺気”が少女から溢れ出ていた。
「何そんな目で見てるの? 獲物を見るような目を向けるのは貴方達じゃなくて私だから。食物連鎖の頂点はパパ、二番目は私。それくらい分かれ」
少女が四肢を震わせる四つ目狼達を睨み付ける。視線を向けずに殺気だけでここまでの威圧を放つ少女が視線でも威圧を向けたらどうなるか……。その答えはすぐに出た。
ドサッ
そんな音がすると睨み付けられた狼達は順に気絶していった。
そして、気絶した狼達の表情を見るに、「何この化け物……ありえへん」と言っているようだった。
「うん、今日の夜ご飯の調達完了」
狼達にとっては悪魔の囁き。その囁きが葉擦れの音すらしない静寂に満ちた森に木霊する。
そして、
ダァンッ!
静寂が戻った森の中に、今度は銃声が木霊する。
白い煙を吐く銃口の向いた先には、額から血を流す“一匹”の四つ目の狼の死体があった。なぜ、一匹なのかというと、必要もないのに殺すことはないからだ。まあ、殺し屋が言っても説得力など皆無なのだが……
そして、再び森の中を静寂が支配すると、ある違和感に気づく。それは、全く生物の気配がしないということだ。
“普通”の森であるならば、地面を這い蹲る虫の気配や、鳥の囀りが聞こえてきてもいいのだが……ここは全く聞こえない。ということは、“普通”の森ではないということだ。
しかし、少女がいくら普通の森と違う場所を探しても、生物の気配が無いことくらいしかわからなかった。
「ッ!?」
少女がこの森の異変に気付き始めた時だった。
突如、背後に生物の気配を感じたのだ。
振り向きざまにホルスターから自動拳銃を引き抜き、構えると、そこにいたのは、体長3メートルはあるだろう人間型の巨体に、一つ目、頭部に一本の角……それは、地球では〔サイクロプス〕と呼ばれる生物?だった。
少女は本能に従い、〔サイクロプス〕の目、角、両肩、両足の付け根の計6カ所に向かって発砲。
目を撃ち抜かれ、角を砕かれた〔サイクロプス〕は一瞬の出来事について行けず、絶命した。
少女は、いきなり現れた気配のことや、この場所のこと、その他諸々のことを考え出すが、一旦全て棚上げし、この森からの脱出を試みる。
この森に近づくことを、本能が警鈴をガンガンと鳴らしていたから。
そして、数日経ったある日、森を抜け、やっと人が住んでいるであろう街を見つけた。
その街の名は、【キューコスの街】
よろしくです!




