反逆の狼煙 2
SAT隊員をあらかた殺し終え、警視庁内のブレーカーを全て落としたところで眼鏡から少女に通信が入った。
『子猫ちゃん。そっちは終わった?』
「そっちはってことはなにかあったの?」
『いや〜、それが自衛隊機に追いかけられちゃってさ〜、参っちゃったよ』
少女が驚きをあらわにした声を出すが、眼鏡は『大丈夫だよ〜、こちらの損害は計画にない弾の消費があっただけだよぉ〜』と気の抜けた返事を返してきたので、戦場なのに張り詰めた精神が少しだけ和らいだ。
多分、これも眼鏡の思惑なのだろう。
少女は話を戻すため、咳払いを1つだけし、眼鏡の質問に答える。
「終わった。警視庁内は制圧完了」
『ご苦労ご苦労。だけど、本番はここからだよ。敵さんの応援が来るからねぇ〜』
「分かってる。今から立て籠りの準備を整える。それから、他はどうなったの?」
『沖縄以外は順調ね』
「沖縄?」
『米軍の奴らが出張って来たのよ』
「え?そんなことできるの?」
不思議に思い、少女が聞くと、『普通は出来ない。普通はね』と返って来た。
これだけ普通を強調するということは、今現在普通じゃないことが起こっているということだろう。
少女は、そこらへん詳しく聞こうと思ったが、聞いても絶対にこの世界の言葉として理解できないだろうから、開きかけた口を閉じて、別の質問を口にする。
「じゃあ、沖縄は放置ということでいいの?」
『そういうこと。それから、自衛隊が動き出したから気をつけてねぇ〜』
「え!?自衛隊!?大丈夫じゃなかったの!?」
『空は大丈夫ってこと。それじゃ、またねぇ』
「ちょっ、ちょっとーー」
詳しく問いただそうとしたが、通信を切られた。
多分、少女から連絡しても出てくれないだろう。
あいつはそういう女だ。
諦めの溜息を1つつき、そこに転がっている自動小銃を鹵獲してから集合場所に向かう。
集合場所には既に全員揃っており、少女が最後の1人だった。
「お待たせ。被害は?」
少女が隊長格の人物に話しかけると、その人物は居住まいを正して答える。
「こちらの被害は自動小銃が一丁壊れただけです」
その報告を聞いた少女は少しだけ驚く。もっと被害があると想定していたのだ。
まあ、でも、こちらにあまり被害がないのはいいことだと思う。
肩にかけてあった鹵獲した自動小銃を隊長格の人に渡してから指示を出す
「立て籠もる。高機動車5台をエントランスに配置、もう5台を各駐車場入り口に配置して」
「了解しました!装備はどうしましょう」
「あるもの全部使っちゃう。弾薬が全部なくなる前に離脱する。私達の目的は警察に打撃を与えることだから」
「「「了解しました!」」」
この場にいる全員が返事を返してくれた。
立て篭もりの準備をせっせと始めているが、一方、少女はというと、屋上に来ていた。
屋上では、屋上に来るまでの間に鹵獲した狙撃銃を手入れしている少女が目に入る。
そして、その少女をめがけ突っ込んで来る4機の攻撃型回転翼航空機(攻撃ヘリ・AH-64D アパッチ ロングボウ)。
とてもじゃないが、少女1人に対しての戦力じゃない。
しかし、それは“ただの少女”だった場合だ。この状況を見るに日本政府は少女の身元確認を終えたのだろう。
だが、警視庁の屋上にただ1人で佇む少女によってこの4機の攻撃ヘリは今後一切、大空に羽ばたくことはできないだろう。
それを証明するように、少女が狙撃銃の銃口を1機の攻撃ヘリ向けられると、その攻撃ヘリは黒煙を吐き出しながら巨大な爆弾となり、到着したばかりのパトカー数台を巻き込みながら盛大に爆発した。
その光景を終始、観客になっていた他の3機が我を取り戻し、少女目掛けて下部に取り付けられた30ミリ機関砲が火を噴くが、3機の掃射の後に残ったのは抉れたヘリポートと狙撃銃の形を残していない物、そして、耳に付けるような機械の残骸だった。
3機の攻撃ヘリは目標を探すが、一向に見つからない。
その時だった。
3機の内、2機が黒煙を吐き出しながら1機目同様にパトカーの上に落ちていく。
残り1機となった攻撃ヘリのパイロットが銃弾が飛んで来た方向に視線を向けると、先程の掃射でボロボロになった服を纏い、2丁の拳銃の銃口をこちらに向けている少女がいた。
少女が持っている拳銃から弾丸が猛スピードで攻撃ヘリに吸い込まれるが、緊急回避行動を行なった機体に弾丸は弾かれる。
そして、少女は発砲と同時に拳銃を明後日の方向に放り投げ、隠していた猫耳部分を両手で押さえ、蹲る。
少女の指の間から血が滲み出ていた。
攻撃ヘリのパイロットはこれ幸いと30ミリ機関砲の銃口を少女に向けるが、眼鏡が乗る10トントラックから発射されたミサイルによってその機関砲が火を噴くことはなかった。
両耳の鼓膜が破れ、その痛みに耐えるため俯いてしまった少女がいつまでたっても自分の身体を弾丸が貫通しないので、恐る恐る顔を上げると、目の前で攻撃ヘリが盛大に爆発した。
いきなりのことでびっくりしたが、そこはさすがプロの殺し屋。瞬時に受け身の体制を取り、必要最低限の怪我で済ませる。
少女は立ち上がろうとするが、感覚がおかしいのか……いや、おかしいのかどうかわからないが、とにかく不思議な様子を見せている。
それも当然の結果だろう。
なにせ、少女は両耳の鼓膜が破れ、周りの音が8割9割近く聞こえないからだ。
少女は空間把握を感覚や人間が出す存在感を頼りにしていなかった。
そのほとんどを聴覚で補い、有り余るほどだったから。
だが、ここに来て、重要性を知る。
聴覚が無くなるとこんなにも不自由なのか……そして、もっと聴覚に頼らない空間把握能力を磨いておくべきだったと……
しかし、今そんなことを考えていても意味がない。もっと早くに気づいておくべきだったのだ。と、切り替え、耳に点耳薬をさす。
少女の耳は非常に繊細なため、常日頃から鼓膜を破っていた。
そのため、点耳薬を持っていたのだ。
なぜ、鼓膜を破るから点耳薬を持っているのかと言うと、細菌が入ってしまうと鼓膜が回復しなくなるからだ。
両猫耳に点耳薬を指し終えると、予備で持っていた猫耳専用補聴器を付ける。
これを作った眼鏡と、今日持って来ていた自分にサムズアップを送った少女は自分の傍に置いてある大量の狙撃銃の内、1丁持ち上げ、周囲上空の警戒に入る。
絶対に先程のような失敗はしないと心に決めて。
☆
一方、コンテナの中では先程と変わりなく、パソコンのディスプレイと睨めっこしながら高速タイピングをしている眼鏡が胡座をかいて座っていた。
しかし、違う点を上げるとすれば、場所が警視庁全体を見渡せる場所に変わっており、10トントラックの下からは機関砲やミサイルなどが頭を覗かせているところだろう。
眼鏡と睨めっこしていたパソコンのディスプレイが急に赤と黒の模様に変わり、スピーカーから機械音声が大音量で流れ始める。
『警告、警告、直ちに避難して下さい。警告、けーー』
「るっさいわよぉぉおお!黙っときなさいッ!」
唐突に眼鏡がキレた。
眼鏡を床?に叩きつけて、粉々にし、キーボードを操作して、機械音声を消す。
その直後、コンテナを大きな爆音と揺れが襲った。
ミサイルが着弾したのだ。
しかし、このコンテナは馬鹿みたいに防御力が高いため、天井部分が凹むだけで済んだ。
どこからの攻撃なのかを眼鏡が割り出すと、警視庁の屋上に4機、こちらに2機の攻撃ヘリが向かって来ていた。
どう考えても戦力比がおかしい。
少女1人に対して攻撃ヘリ4機、完全武装トラックに対して攻撃ヘリが2機。
しかし、少女の素性を知れば当然な結果なのだろう。
と言うことは、だ。日本政府には既に少女の身元が割れているということになる。
そして、少女の身元が割れたということは、この作戦の失敗が許されない状況になったことを示している。
考えることよりも、目の前の敵に備えるべきだろう。
「めんどくさい……」
そう呟く眼鏡の指は踊るようにキーボードの上を動き回り、下部に取り付けられたミサイルが2機の攻撃ヘリをロックオンする。
2機の攻撃ヘリはすぐさま緊急回避行動を行うが、一歩遅い。
眼鏡がエンターキーを軽く、2回タップするように押すと、2発のミサイルが10トントラック下部から飛び出し、攻撃ヘリを墜とす。
それを10トンラックの改造ハッチを開けて、双眼鏡で墜落の様子を見ていた眼鏡は偶然にも、少女的には幸運なことに、警視庁の屋上が目に入る。
屋上では、猫耳から血を流し、2丁の中型自動拳銃の銃口を3機の内、2機に向けようとしていたところだった。
「子猫ちゃんのバカッ。捨て身の覚悟ってやつなの!?」
切羽詰まったような声音で、コンテナ内に戻り、少女が銃口を向けようとしていなかった機体の座標を確認。
その座標、そして、目視で確認した高度を入力してエンターキーを押す。
先程と同じように10トントラック下部からミサイルが飛び出し、数秒もせずに少女を追い詰めていた攻撃ヘリを粉々にする。
「危なかった……」
少女の父親との……いや、養父との約束を破るところだった。
しかし、これで、冥土に行っても顔向け出来ないなんてことにはならないと、思う。
☆
少女が周囲上空の警戒に入るが、周辺を飛んでいるのは報道用のヘリコプターのみ。こちらに危害は加えないだろう。
周囲の警戒もしながら、下を覗き込むと、激しい銃撃戦になっていた。
無線でこちらの被害を確認するまでもない。あの数じゃあ誰1人殺せないだろう……それくらい練度の高い兵士のみを雇ったのだから。
しかし、ここで戦闘に参加しないのもウズウズして気分が晴れない。
なので、必要最低限の手榴弾のみを残して、全てパトカー上空に投下。
手榴弾の爆風や爆炎は下に止まっていたパトカーや、先程まで銃撃戦を繰り広げていた警官を巻き込み、盛大な紅蓮色の花を咲かせ、数十秒後に銃声は聞こえなくなっていた。
エントランスに戻り、屋上にRWSを設置するように指示を出してから、今の状況を改めて確認する。
ちなみに、RWS(Remote Weapon System/Station )は、軍用装甲車などの装甲戦闘車両や軍用船舶に装備されている遠隔操作式の無人銃架・砲塔の事を指す。
少女が眼鏡と連絡を取り合おうとした時、街中にサイレンが響き渡る。
精神を逆なでするような、不気味で気味の悪いサイレン。
このサイレンを聞くことは一度もないと思っていたが……どうやら違ったようだ。
このサイレンは国民保護サイレン……夜に聞いたら眠れなくなるパターンのやつだ。
RWSを取り付け、戻って来た者たち……周辺を警戒していた者たちがざわめき出す。
「落ち着けっ!作戦に致命的な被害は受けていない為、作戦を続行する!」
指示を飛ばすと、個人個人頷きを返し、作戦に戻る。
さすが、訓練された兵士なだけある。
街中のスピーカーから、サイレンに続き、アナウンスも流れ出す。
『大規模なテロが発生しています。屋内に避難してください。大規模なテロが発生しています。屋内に避難してくださいーー』
「チッ、うるさいなぁ……ちょお〜うざいんだけど……」
高機動軽装甲車の助手席でパソコンを立ち上げながら独り言を呟くと、猫耳型補聴器からノイズの激しい眼鏡の声が少女に届く。
「パ……ン………あげ…て」
パンあげて……www。
ふざけないで翻訳すると、パソコンを立ち上げて。と言いたいのだろう。
なぜわかったのかというと、感もあるが、決め手は遠くに見える10トントラックからモールス符号(モールス信号)が送られて来たからだ。
「れ い の あ ぷ り……って何……?」
数十秒考えて、やっと思い出したアプリを開くと、右下に小さくなったライム……画面一杯に東京都が映し出されている。
子猫
ーー何これ?
眼鏡
ーー東京都の地図だけど?
子猫
ーーそういう意味じゃない。どういう機能があるのか?ってこと。
眼鏡
ーーあ、そういうこと。それは、自衛隊と警察の動きを正確に出してくれるアプリだよぉΨ(`∀´)Ψ
子猫
ーー使い方、教えて。
眼鏡
ーー赤の点が航空自衛隊の戦闘機、青が海上自衛隊の艦、緑の小さいのが陸上自衛隊の一個小隊……大きくなればなるほど大きな勢力ね、緑に赤縁がヘリコプター。その他の黄色が警察。OK?
子猫
ーー了解した。眼鏡は他のところのフォローに行って
眼鏡
ーー了解!!( ̄^ ̄)ゞ
子猫
ーーあ、でも、無人戦闘機1機だけ貸してもらえる?
眼鏡
ーー別にいいけど………操縦できる?
子猫
ーーなめんな……!( ̄^ ̄)
眼鏡
ーーわかった。けど、搭載装備は機関砲が4門2400発。対空ミサイルが4発。確認しといてね
子猫
ーー弾無くなったら、機体をミサイルにしてもいい?
眼鏡
ーー敵にそれだけの価値があるのならね……なるべくそれはしないでもらえると嬉しいわ
子猫
ーー了解。
少女は連絡を終えると、パソコンに映るライムの画面を閉じ、東京都の地図を全画面に映し出すと、既にそこかしこに黄色と緑と緑赤縁の点が視え、警視庁本部を包囲するような位置どりで進んで来ている。
「地対空ミサイルってあるよね?」
「はい、91式地対空携帯誘導弾20発が御座います」
「じゃあ、東にいるヘリ10機全部撃ち落として来て。西の5機は私が殺る」
「了解しました」
側で跪いていた隊長格の兵士は、自分を含め15名を連れて警視庁本部を出て行った。
さて、私も動きますか……
少女は、高機動車の脇に置いてあったガンケースを取り出し、そのまま屋上に向かう。
「重いっ……!」
「手伝いましょうか?」
声をかけて来たのは白色人種(白人)の若い青年だった。
「観測手できる?」
「出来ますっ!」
「じゃ、お願い」
少女がガンケースを青年に渡すと、「け、結構重いですね」と言っているが……片手で軽々と持ち上げている。
12㎏くらいあるんだけど……ま、いっか。
エレベーターで屋上まで行き、対物狙撃銃を組み立てる。
「君、なんでこの話に乗っかったの?」
「う〜ん……僕の生まれはスラムなんですよ。毎日死が身近にあるけど、僕の妹だけは安全な暮らしをさせてやりたいんです。だから、金儲けができるこの話に乗ったんです」
「そうか……私もスラム生まれだ」
それ以上の話は無用と言わんばかりに殺気を放ち、少女は青年に双眼鏡を渡す。
「よろしくな。青年」
「はいっ!」
それだけ言って優しい笑みを浮かべながら対物狙撃銃を構える。
ちなみに、今回用意した銃は『バーレット アンチ・マテリアル ライフル M95 ブルバップ』
最大射程距離1800m、50口径、ボルト・アクション。
隣にいる青年の声が猫耳型補聴器を通して少女の耳に入る。
「距離……1900、風向……東から西、風速……時速15キロ、湿度……52%。どうやら、風は味方したみたいですね」
「有効射程距離に入ったら教えてくれ」
「はい」
そう言った少女は、安全器を解除、次に槓桿を引き、遊底に弾を送る。
スコープを覗き込み、攻撃ヘリの駆動部に狙いをつけて、青年の合図を待つ。
「有効射程距離まで、あと、300……200……100……5、4、3、2、1、今っ」
その合図を聞いた少女は、躊躇なく引金を引いた。
ブックマークとか評価などお願いします。
感想もあると嬉しいですね。
やる気が出るのでお願いします。




