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ガールズトークの巻

「せっかく、いただいたのに、失礼なことを」

「いいから寝ろ」

病室の前でテペシさんとそのような言葉を交わしたのち、ジュペータは「吐く風邪」と診断されて5日間療養の身となった。病室には、義務的に一回だけ上司のミルチエ夫人が顔をだし(そして体調不良について叱責を受け)た他には見舞いもなく、ジュペータが元の相部屋に戻ったときも同室の娘たちは軽い挨拶の言葉をかけた程度で、すぐにありふれたいつもの日常が戻ってきたように思われた。


翌日、リネン室に出勤すると、ミカエラが、

「あ、ジュペータさんが来た」

と弾んだ声を出したのでちょっと戸惑った。

「先日はあの、いろいろと、すみませんでした。休んでいる間も仕事をおまかせして」

「あ、仕事は大丈夫です。他でねえ、うふふ」

リーリアも来て、

「大変だったでしょう、ジュペータ、もうすっかりよろしいの?あまり無理しないようにしてくださいね」

と気遣いを見せた。

「いいえ、これから年末ですし、忙しくなりますから、しっかり働かないと。それよりあの、本当に、ごめんなさい、汚いものの後始末とか」

「あれね、コルムさんにほとんどやってもらっちゃった。兵舎だとよくあるから、慣れてるって笑ってらしたわ」

「そ、それはそれは」

コルムさんに対してまた遠慮する要素ができてしまった。

ベッドメイクのメイドたちがシーツを持って出入りする合間に、リーリアとミカエラは切れ切れに話を続ける。

「それでね、テペシさんが魚を持ってきたせいだから、ってミカエラと私を、コーヒーを飲みにつれて行ってくださったの」

「え、それは…すごいですね」

「おとといの夜に、<小夜曲>ですよ、コルムさんとテペシさんと私たち2人で」

「コーヒーはちょっと濃く出しすぎかな?だったけど」

「ケーキに緑のクリームがあって、ピスタチオなんですって。素敵でしたぁ」

「コルムさんは都内出身で、流行のお店をご存じらしいわ。きっといろんな女の子と遊んでるのよ」

「テペシさんは逆のタイプですよね、地方出身で仕事一筋、みたいな」

「ねえ、ジュペータ、どうしてテペシさんから魚のフライをいただくことになったの?」

「い、えっと、私にも、よくわからないんですが」

「何もなしに魚くださるって、おかしすぎます」

「本人に聞いても答えてくれなかったのよね」

「あの、えっと、以前シーツを追加で取りに来られて、その時にあの、鯰の話になって」

「なんでなるの?」

「と、とにかく話の流れでなったんです。それで鯰大嫌いと言ったら、くださったんです」

「嫌いなものを?」

「おそらく、偏食が、許せない方、なのでは」

「あ、それっぽいですよね。全部食べるまで食卓を離れるな!とか言いそう」

「ああ、私のばあやがそんな感じだったわ。嫌いなもの食べなくても死なないわよねえ」

話の方向がそれていったので、ジュベータはこっそり安堵の息をついた。


 ジュベータが吐いたりおかゆを啜ったりしていた間に、ミカエラとリーリアにとって、近衛兵付きの2名の軍人はすっかり親しい人になってしまったようだ。そして、ジュベータも親しい人のうちに数えられているらしく、夜にジュベータがスープだけの夕食を食べていると、コルムさんとテペシさんが通りがかりに、足をとめて声をかけてきた。

「エルジュベート、具合がよくなったようで何よりだね」

コルムさんの親密さに圧倒されつつ、ジュベータは食べるのを中断して立ち上がった。

「コ、コルムさんテペシさんご機嫌よう。あのその節は何から何まで本当、お世話になりまして、誠に申し訳ございませんでした」

「いや、お前のせいではない」

「病気だったんだから、そんな気にしないで。あ、お食事中ごめんね、食べて食べて」

軍人二人に見下ろされながら食事を続ける勇気など、ない。

「まだ食欲、なさそうだな」

「お詫びにトマにごちそうさせよう、って話してたんだけど、もう少し後がいいかな?リーリアとミカエラとは先日出かけて」

「いえいえ、そんな、お気遣いいただくのは、かえって困るというか、ちょうどそう、年末、年末ですごく、忙しくなりますので」

「年明けたらいいか」

テペシさんが身を乗り出した、気がする。

「あ、えっと、おそらくは」

まだ一か月先のことでわからないけど。

「よし、じゃあ<別祭日>にしよう。鯰食おう」

「え、やっぱり、鯰、ですか」

「落馬したらすぐ馬に乗れ」

「エルジュベート、こいつは鯰大好きなんだ。僕も連れて行ってもらったけどほんとにおいしいよ」

「はあ、あの、そうなんですか」

「じゃあそういうことで、よろしくね」

コルムさんは笑顔で手をふり、テペシさんはうなずいて食堂から出て行った。テペシさんを「偏食が許せない方」ではないかと話していたのだが、もしかしたら本当に「鯰の食わず嫌いが許せない」というようなこだわりがあるのではなかろうか。


リーリアとミカエラにこの件を話すと、なんだか微妙に気の毒そうな表情をされてしまった。
















<小夜曲>は若い娘に人気のカフェらしいです。


<別祭日>は王国に古くから伝わる祝日です。いろいろな風習があります。

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