白身魚フライ
始まりは、ジュベータが困っているところをたまたま見かけたテペシさんが介入してくれて、その時は誰にも話さずにいてくれた、はず。その後、今度はテペシさんはたぶん自分の都合を曲げて、ジュベータの様子確認を続けた挙句、早急にけりをつけるために、同僚のコルムさんに事情を話してお芝居をさせたのだろう。美形の軍人さんに肩を抱かれていれば、チラヴァさんが文句をつけられないとか、そういう感じだ。
それでも他の人に話すのはやめてほしかった。それくらいなら、ジュベータがどこでご飯を食べようが、ほっておいてくれたほうが、よっぽど気が楽だ。ジュベータは長いため息をついた。別に、「誰にも言わないで」と頼んだわけではないけど。助けて貰っておいて文句は言えないけど。テペシさんが他の人に、自分のことをどんな風に話したのか考えると、情けなくて、みじめで、両耳をふさいでわあわあ叫びだしたくなる。
とにかくこれで、チラヴァ氏に気兼ねするのは終わりだ。普通に食堂でテペシさんに確認されることなく食事をすればいいのだ。それなのに、なんとなく胸がつかえて、盛り付けられた料理を平らげるのがつらくなってしまった。ジュベータをは夕食を残し、朝食をお茶だけで済ませた。
「そろそろお昼いきましょうか」
とリーリアが言い出す。
「また昨日のコルムさんと会えたらいいですね」
ミカエラは夢を見すぎだと思う。ジュペータも立ち上がったが、朝ご飯を食べなかったせいか、身体が重い。食堂へ向かおうと職員用の廊下を進む。向こうから黒い制服がやってきた。
「あ」
テペシさんだった。
「おう、いたか」
テペシさんは後ろにいたコルムさんを指して、ちょっと小さい声で口早に言った。
「こいつが勝手な真似を、して、すまんかった」
コルムさんはリーリアとミカエラに挨拶していたが、ちらっとジュベータに目配せしてみせた。
「やる」
片手で抱えていた小ぶりな紙袋を渡された。なんなのだろうこれは。
「鯰の揚げ物。ちょっと冷めたが、美味い。鯰野郎を食い尽くせ」
以前ジェベータがチラヴァ氏を鯰野郎と言ったからだろう。
「あの、どうもありがとうございます」
生暖かい紙袋のねじった端をほどくと、ジュベータの指三本くらいの幅のある魚の切り身の揚げ物が、5つ入っていた。魚と揚げ油の匂いがぷんと鼻をついたかと思うと、ジュペータの喉に急に胃液が上がってきて必死で紙袋を押し戻し、口元を手で押さえたが、
※※っ
という音とともに廊下に嘔吐してしまった。
「ジュベータ」「ジュベータさん」
リーリアとミカエラが駆け寄ってくる。あまり食べていないので嘔吐できる量が少なかった。背中をさすってもらって、嘔吐が収まるとテペシさんが、ジュペータの手を引いて立たせた。
「病室へ行く。一人ついてこい」
「はい」
ミカエラがジュペータの逆側で腕を組んで支える。
「コルム、後片付け」
「了解」
「すみません、ご迷惑をおかけします」
「いいから早く行きなさいよ」
リーリアの怒った声にもう一度頭を下げる。
「歩けるか?」
「はい」
ジュベーダは肩で荒い呼吸をしながら、ミカエラとテペシさんに引っ張られて、なんとか自力で歩いた。「すまん、魚は苦手だったか」
「い、いえ、昨日から、調子、悪かった」