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もう一度王都へ

今年の別祭日は時折小雨を交じえた風が吹くあいにくの天気だった。おまけにジュベータは昨日一日かけてトーラスから王都まで出てきたせいで、腰や背中に疲れが残っていたが、別祭日にそんなことに構ってはいられない。身支度をすると、男爵家の別邸を後に、待ち合わせの場所へ向かう。南地区の谷筋に面した、角にある寺院の階段で、待つ。遠くの奉公先から戻ってきた人、休みをもらった王都の人、花や飾りをつけた馬車に露天商の屋台やサーカスの荷車、朝からすでに多くの人がジュベータの前の通りを行き交う。


少し寒い。もっと厚着をしてきたほうがよかっただろうかと思いながら、ジュベータが段の上で足踏みをしていると、脇道のほうから

「ジュベータ!」

と呼ぶ声がした。振り向くと、待ち人が手を振りながら近づいてくるのが見えた。リーリアだった。

「ああ、リーリア、お久しぶり」

二人の娘は両手を握り合う。

「別祭日に来られて、よかったわね」

「男爵夫妻もしばらく王都にお見えになるので、少し早く出してもらうよう、お願いしたんです」

「今日は一日思い切り遊ぶのよ。まずは朝ご飯。新しいお店があるの」

お天気が悪いわね。これでも暖かくなったわ。この冬は雪がすごかったもの。会わなかった間に自然と生まれていた隙間を埋めるように、女同士の会話がやりとりされる。


王都には、牛乳を多くして飲みやすくしたコーヒーの店が流行していた。リーリアのおすすめの店で朝ご飯を食べることにして、ジュベータは初めてコーヒーを飲んだ。

「ミカエラはお昼に運河の橋に来るって。それまで婚約者と遊ぶつもりなのよ」

「あら、いいですね」

「うらやましいのね。テペシさんは昼までお仕事ですものね」

「あ、あの」

頬を染めて口ごもるジュベータを見て、リーリアはこれみよがしにため息をつくと

「ああ、どうせこうなるなら、王城を辞めるときにテペシさんと結婚しちゃえば話が早かったのに」

「あの時は別に、別に親しくなかったので」

「じゃあ、いつ親しくなったのかしら?あなたの手紙じゃ、全然わからないのだけど」

「わからなくていいでしょう」

「だって、知りたいじゃない。どうすれば婚約できるのか」

冗談の口ぶりでリーリアが言うけれど、冗談で返していいものか、ジュベータはリーリアの様子を窺う。コルムさんと交流があることは知っているけれど、それが恋愛なのか、までは知らない。手紙にはほかの男の人の話題は出ないし、やっぱりコルムさんのことだろうか。

「テペシさんは、なんて言って結婚を申し込まれたの?」

リーリアが話を続ける。

「リーリアったら」

「教えてくれないなら勝手に想像するわ。月夜のテラスでテペシさんはあなたに薔薇の花束を捧げて、<いとしのエルジュベート、我が魂は永遠に君の物です>と仰ったのね」

「ぶっ」

その光景を目に浮かべてジュベータはコーヒーを吹き出しそうになった。リーリアも笑いながら

「でも、これ私のお友達が本当に言われた言葉なのよ」

「すごい、あの、情熱的?、私なら、お返事にきっと困ります」

「<私なら>ね、何て言われたの?」

「普通です、もっと」

「あなたの普通の基準って、誰なの?」

「え、そりゃあ、テペシさん、です」

リーリアは眉根を寄せた。

「え?じゃあ、テペシさんの普段のあの調子で普通に、申し込まれた、っていうことかしら」

「うーん、あの、よく考えてみると、申し込まれ、てはいないかもしれない」

「何なの?ちゃんと話してくれないと全くわけがわからないわ」

「あのですね、私の大叔母のところにテペシさんが来られて、どうしたんですかってお尋ねしたら、結婚の約束がないと会えないと思って、頼みに来たと」

「ええ、それで?」

「それだけだったと思います」

リーリアはジュベータをまじまじと見つめた。


「だから、その、結婚してください、と申し込まれたわけではないです」

「あなたそれで、なんてお返事したの」

「有難いお話です、かな、いやあんまり驚いたので、正確にはなんて答えたか忘れましたけど」

「それは、うん、淡々としているわね」

「テペシさんはそういう方ですよ」

リーリアはまた驚きの目でジュベータを見つめた。内気で冴えなくて、21にもなって男性に縁がないと、内心下に見ていたジュベータが、いつのまにかさっさと婚約して、わかったような口を利いている。いろいろな男性に好意を持たれたけれど、肝心の人とは親密になれていない自分との違いはいったい何なのだろう、意識に上りかけたその疑問を、リーリアはすばやく封印する。

「…まあ、二人が幸せならいいわよ。それでお昼までどこへいきましょうか。そうだ、この際、ジュベータは少しお化粧をするべきよ」

「え、ちょっとそれは」

「今は王都では眉を長く描くのが流行っているの。それに髪型も、顔の横に髪を下ろして、少し巻かなきゃ。今何もしてないでしょう。田舎じゃそれでいいかもしれないけど、王都では見劣りするわよ」

「いえ、私なんかがお化粧してもかえって見苦しいですし」

「努力する姿勢が大事なの。じゃあ行きましょうか、小間物屋巡り」


さりげなく、無意識に、ジュベータを見下すポイントを見つけたリーリアだった。

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