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○私●の話 I stand in the middle of the North and the South with Sin

「現実に思い残すことはないかい?」と今回の臨床試験を主導している先生が私に尋ねる。


 この世界に思い残すことなんてない。なぜなら、もうこの世界に真司はいないから。思い残すことなんてない。私が求めるのは、もう、この世界には存在しない。遥か先の世界に私の求めるものは存在している。


「残酷なようだけど、最後に念を押させてもらうよ。君は、あちらの世界で川畑真司君と出会っても、自分が神園詩織。いや、川畑詩織だと明かしてはいけない。君が君であることを向こうの世界で誰かに伝えた瞬間、君は、死ぬ。あちらの世界の魂の結合は壊れやすいんだ」


「分かっています」


 私を私だと分かってくれるだろうか。


 分からなくても良いけれど、でもやっぱり私だと分かって欲しい。


 この世界は私と真司の魂の結びつきで出来ている。とても壊れやすい世界。


 外見もずいぶんと変わってしまうらしい。十六年間慣れ親しんだ自分の体。病気のこともあるし、全部が好きというわけではなかったけれど、私の大切な体だ。でも、さよならを言わなくてはいけない。


 真司とあっても、私が神園詩織であると打ち明けることはできない。


 そう表明した瞬間に、この世界で結合した魂は、前の世界の、あるべき肉体に戻ろうとして作用しはじめる。無理やり私と真司の魂を結合させてこの世界に繫ぎ止めているらしい。


 決して自分を明かしてはいけない。


 だけど、私はきっと、どんなに外見が変わっても、私は絶対、真司が真司であると分かると思う。 


 ・


 目を開けたら新しい世界だった。私はそこで冒険者になった。魔法が使えるちょっと不思議な世界。たぶん、あまり話題にはならなかったけど、真司の影響なんじゃないかな。だって、なんだかゲームっぽい世界だもの。

 魔物とかも、ゲームに出てきそうな名前だ。でも、もしかしたら植物は私の影響が大きいかもしれない。私が知っている植物が多い。病室で植物図鑑を良く眺めた。薬草とかの名前なんて、ほとんどがその植物の学名だ。

 真司は、朝顔もトマトなど、夏休みの宿題で植えた植物は大体枯らしてしまうから、きっと植物は私の影響だ。


 ・


 冒険者として日々過ごしながら、ずっと私は真司を探し始めた。


 想像以上にこの世界は大きくて。広くて。とても苦労した。


 でも、やっと見つけた。分かる。間違いない。確信を持ってこの人だと言える。


 彼は、真司だ。シンという名前だ。


 名前が真司とシン。名前が似ている。そんな単純な理由じゃない。


 前を見て歩いているようで、実は地面ばっかり見て歩いている姿。同じだ。


 座るとき、まず軽く椅子の隅に座って、そこから椅子を引いて深く座りなおす。同じだ。


 間違いない。見つけた。そして、もう二度と離れたくない。


 真司は私に付き合う形でこの世界へと来てくれた。プロポーズまでしてくれて。


 正直、期待していた。来てくれると思ってた。でもそれは、真司にとって、この世界を諦めることだ。私が引きずり込んだんだ。


 私は自分勝手だ。だけど、私は愛する人を諦めない。それが自己中心的でも、自分勝手だとしても。私はずっと真司が好きだった。


 真司とシン。その隣に私はいたい。


 真司のこの世界での名前は、「Sin」というらしい。「罪業」という意味だ。


 罪人がいるとしたら私だろう。これは私の罪物語。


 たとえ非難されたとしても、私はそれでも、愛する人を諦めない。


 North()South()の真ん中にI()がいる。


 それが(Sin)なら私はそれを受け入れる。


 私は二度と、離さない。真司とシン。私は彼と生きて行く。


<おしまい>

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