第一劇『二人の虎』
虎吉「あかん…目も当てられへん…。」
虎之介「どうしたの?」
虎吉「どうしたもこうしたもあるかい!……真っ赤っ赤や…。」
虎之介「また赤字?」
虎吉「あかん!こんままやったら廃業や!」
虎之介「ん〜最近お客さん来ないもんね。」
虎吉「どないしょ…虎、仕事探してこんかい!」
虎之介「今から?無理に決まってるだろ?」
虎吉「何や?お前はこの『万能屋』が潰れてもええん言うんか?」
虎之介「そんなこと言ってないだろ?」
虎吉「う〜ん…こうなったらまたババァにでも…。」
虎之介「駄目だってば!おばさんにはいつも世話になってんのに!」
虎吉「アホかっ!背に腹は変えられへん!なぁに、こっそり忍び込んで預金通帳を…ひっひっひ…。」
虎之介「…あ!ヤバイよ虎吉!学校に遅刻する!」
虎吉「アホ言うな!学校なぞ行ってられへんわ!何が悲しゅうて、こないな時にお勉強なんかせなあかんねん!」
虎之介「もうっ!せっかく学校に通えんだよ!休んだりしたらおばさんに申し訳ないだろ!」
虎吉「知るかっ!あのババァが勝手にしよったことやろが!」
虎之介「仕事なら学校で探せばいいだろ!もしかしたら三日前に貼ったポスター見て、誰か依頼してくるかもしれないし!」
虎吉「あ!せやな!ほな急ぐで虎ぁっ!依頼人さんを待たしたらあかん!」
虎之介「現金なんだから…まだ依頼があるかどうかも分からないのに…。」
虎吉「早よせいやぁっ!」
虎之介「はぁ…分かってるよ!」
(二人が通う高校『鳴海高校』に到着)
?「…ん?あ、不破君おはよ…っ!」
虎吉「どかんかい!」
?「きゃっ!」
虎之介「おっと!」
?「あ…!」
虎之介「大丈夫?」
?「て…天童くん…!」
虎之介「怪我無い?」
?「だ、大丈夫…あ、ありがとう。」
虎之介「良かった、ごめんね。虎吉、ちょっと急いでてね。」
?「ホント信じられへんわ!」
?「『晴美』。」
晴美「あのアホ!ぶつかったら謝ったらどやねんっ!」
虎之介「ホントにごめんね。」
晴美「天童くんも天童くんやで!あのアホの教育しっかりせなあかんで!」
虎之介「ごめんね。」
晴美「まったく…『雪菜』大丈夫?」
雪菜「うちなら平気。天童くんが支えてくれはったし。」
晴美「とにかく、一辺ガツンと言わしたらなあかんな!虎吉ぃ!」
虎之介「はは、相変わらず元気だね『晴美』ちゃん。」
晴美「虎吉ぃっ!」
虎之介「俺達も行こう。」
雪菜「うん。」
(教室に行く)
虎之介「あ、やってるやってる。」
晴美「ちょっと聞いとんの!」
虎吉「やかましいやっちゃで…。」
晴美「虎吉ぃ!」
虎吉「痛い痛い!何すんねん!この晴れババァ!」
晴美「誰が晴れババァやっ!」
虎吉「痛いっちゅうねん!こら、虎!見てないで助けんかい!」
虎之介「無理だよ。だって完全に虎吉が悪いからね。」
虎吉「こんの裏切りもんが…っ!」
雪菜「晴美、もうええて。」
晴美「いいや、このアホはしばいたらな分からへんねん!」
虎吉「アホちゃうわアホ!」
晴美「アホはアンタやアホ!」
虎吉「うっさいわブス!」
晴美「なっ!」
虎吉「そんな性悪やからモテへんのや!このペチャブス!」
晴美「こ…っ!」
生徒1「何やペチャブスって?」
生徒2「ペチャパイのブスってことちゃうか?」
生徒1「あ、成程!上手いこと言うやないか不破!」
虎吉「せやろ?このアホを表すのに、いっちゃん合うとるあだ名やで!なっはっはっ!」
晴美「くっ…!」
虎之介「あ〜あ…知〜らないっと。」
晴美「このっ!」
虎吉「へ?」
晴美「一辺死ねぇっ!」
虎吉「ぶぺぇっ!」
虎之介「今日もよく吹っ飛んだねぇ。」
生徒1「…さ…さて、授業の準備せなな!」
生徒2「せ、せやせや!」
晴美「このアホッ!」
虎之介「…毎朝毎朝、飽きないね。」
虎吉「うるさいわ、ちきしょう…。」
虎之介「ところで依頼はあった?」
虎吉「…。」
虎之介「虎吉?」
虎吉「…あった。」
虎之介「あったの?」
虎吉「これや?」
虎之介「ん…これだけ?」
虎吉「せや…。」
虎之介「バスケットゴールの修理か…。」
虎吉「しかも報酬は五百円や。」
虎之介「こりゃまた安いね。」
虎吉「…あかんあかん!この依頼はパスやパス!」
虎之介「でもいいの?何でも引き受けるのが『万能屋』だよ?」
虎吉「んなもん、こっちかて仕事選ぶ権利ぐらいあるわ。」
虎之介「仕事選んでる余裕なんかある?今日の夕飯どうすんの?」
虎吉「う…。」
虎之介「大体虎吉がそうやって仕事を選ぶから、俺達苦労してんだよ?」
虎吉「オレはな!ホンマもんの仕事がしたいんや!男の中の男の仕事をっ!」
虎之介「ポリシーだけじゃ、お腹は膨れないよ?」
虎吉「だぁもうっ!せやったらどうすんねんっ!たった五百円の為にバスケゴール直す言うんかいっ!しかも三つもやで!やってられへんわ!」
虎之介「んふふ…。」
虎吉「な…何や?」
虎之介「これな〜んだ?」
虎吉「ん?…ま…まさかそれはぁ!ふ、ふ、福沢さんじゃああ〜りませんかぁっ!」
虎之介「ビンゴ♪」
虎吉「ど、どないしたんや虎!そないな大金!?」
虎之介「実はさっき依頼されたんだよ。」
虎吉「だ、誰にや?」
虎之介「二年B組の『大石』くんから。」
虎吉「ふぅん…で、依頼内容は?」
虎之介「探しものだって。」
虎吉「探しもの?」
虎之介「ま、詳しいことは放課後話すってさ。」
虎吉「よっしゃ!んじゃ放課後までその福沢さんで!」
虎之介「駄目だよ。」
虎吉「な、何でや!?」
虎之介「まだ依頼を完了してないのに駄目だよ。」
虎吉「アホッ!それは前払いやろ!やったらその金はもうオレらのもんやんけ!」
虎之介「…それもそうだね。」
虎吉「やろ?んじゃ行くで虎!」
虎之介「何処に?」
虎吉「決まっとるやろが!その金で……特製マグロ丼を食うっ!!」
虎之介「と、特製マグロ丼っ!!!そ……それは俺達には夢のような食事……一杯2500円の…奇跡の丼!!!」
虎吉「せや……いつかは…そう!いつかは口に運ぶことを夢に見て…今日まで生きてきたんや!!!」
虎之介「た、確かにこんなチャンス滅多に…無い!」
虎吉「行くで虎ぁっ!」
虎之介「よっしゃあっ!」
虎吉「我々はついに辿り着く!夢のワンダーランド〜!」
虎之介「楽しみだね虎吉!」
雪菜「何処行くんやろ天童くん達?」
晴美「ほっとき。」
(食堂に到着)
虎吉・虎之介「おばちゃあん!特製マグロ丼二丁!!!」
食堂のおばちゃん「…まだやってへんで。」
二人「へ…?」
(授業中)
虎吉「くそぉ…せっかくの特製マグロ丼が…。」
虎之介「大丈夫だよ虎吉。あ、焦らないで昼休みを待つんだよ。そ、そうすれば!」
虎吉「そうすれば…我々の夢は…。」
二人「ひっひっひ。」
生徒1「先生!二人が気持ち悪いです!」
先生「いつものこっちゃ、ほっとけ。」
二人「ひっひっひ。」
(昼休みを告げるベルが鳴る)
虎吉「鳴ったぁっ!行っくでぇっ!」
虎之介「おうっ!」
虎吉「退け退け退け退かんかぁいっ!!!」
(食堂に到着)
二人「もらったぁっ!!!」
食堂のおばちゃん「マグロ今日は無いんよ。」
二人「は…?」
食堂のおばちゃん「特製アボカド丼ならあるで。」
二人「そ、そんなぁ〜っ!」
(放課後)
虎吉「どよ〜ん…。」
?「えと…大丈夫?」
虎之介「ああ大丈夫大丈夫、依頼内容を詳しく話して『大石』くん。」
大石「わ、分かった。実は探して欲しいんはこの子やねん。」
虎之介「写真…これは…猫?」
大石「そうや、名前は『太一』や。」
虎吉「おいおい、探しものって猫かいな。んなもん待っとったらいつか帰って来るやろ?」
大石「…今までは長くても三日以内にはちゃんと帰って来とったんや。せやけど…もう一週間も帰って来ぉへんねん!」
虎之介「…。」
虎吉「アホくさ、猫はな放浪すんのが好きなんや。犬と違って家にずっといるわけじゃ…ん?どしたんや虎?」
虎之介「…虎吉、この写真見て。」
虎吉「はあ?何言ってんねん。オレはさっきからちゃんと…。」
虎之介「虎吉、しっかり見て。」
虎吉「虎……まさか!」
大石「?」
虎吉の心「こ、これは!」
虎之介「ね?」
大石「あ、あの…どないしたん?」
虎之介「いや、何でもないよ!」
大石「…それで、この依頼…。」
虎吉「あかんあかん!」
虎之介「虎吉!」
虎吉「この依頼お断りや!」
大石「そ、そんな!」
虎吉「悪いことは言わへん、この猫のことは諦めぇ。」
大石「…い…嫌やっ!」
虎吉「…何でそない必死やねん、たかが猫やろ?」
虎之介「言い過ぎだよ虎吉!」
虎吉「ふん。」
虎之介「ご、ごめんね大石くん!」
大石「…ど…どうしてもあかんのんか?」
虎吉「…。」
大石「『太一』は俺の命の恩人やねん……小さい頃俺が川で溺れた時…怪我してまで助けてくれてんっ!」
虎之介の心「そうか…多分その時に…。」
大石「せやし、もし今アイツの身に何かおうてんなら今度は俺が助けたいんやっ!」
虎之介「虎吉。」
大石「頼むわ!力貸してえや!!!」
虎吉「……後二万。」
大石「え?」
虎吉「後二万出す言うなら考えてやってもええで?」
大石「出すっ!『太一』を見つけてくれたら俺の全財産やるっ!」
虎吉「全財産ねぇ…男に二言はあらへんか?」
大石「もちろんや!」
虎吉「…しゃあないな…虎。」
虎之介「うん。じゃあ大石くん、この依頼、俺達『万能屋・トラ×トラ』が受けおったよ!」
大石「あ、ありがとう!」
虎吉「すぐ届けたるから、鰹節でも用意して待っとけや。」
大石「よ、よろしく頼むで!そ、それじゃ待っとるわ!」
虎之介「……虎吉。」
虎吉「ああ…厄介やな。」
虎之介「久しぶりに裏業だね。」
虎吉「んじゃさっそく行くで。」
虎之介「うん。」
(川に行く)
虎吉「ここやな、大石が溺れたんは…どや?」
虎之介「……やっぱりアレの仕業だね。」
虎吉「みたいやな…まあ、あの写真に写っとったしなぁ…『霊斑』が。」
虎之介「大石くんを溺れさせたのは…。」
虎吉「『邪霊』の仕業やな。多分大石を殺ろうとしたんやろうが、猫に邪魔された。」
虎之介「『太一』は怪我してたって言ってたよね?恐らくその傷から…。」
虎吉「『侵蝕』しよったな。」
虎之介「長年かけて、『太一』の体をのっとった。」
虎吉「大石の側を離れたのは、猫の最後の抵抗ってわけやな。」
虎之介「元々その霊が狙ってるのは大石くんみたいだしね。」
虎吉「せやけどこんままやったら、『完全侵蝕』されて『邪体』になるで。」
虎之介「そうなったら大石くんだけじゃなく、他の人も襲う。早く何とかしなくちゃ。」
虎吉「……で、分かったか?」
虎之介「待って……見つけた!微かだけどまだ『霊糸』が残ってる。ということは…。」
虎吉「近くにいるってわけやな!よっしゃ!早ぅ辿るで!」
虎之介「うん!」
虎吉「『万能屋・トラ×トラ』、ミッションスタートや!」
次回に続く