表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

初恋の味・失恋の味(1000文字以下のSS)

作者: Urlicht

 まったくもって、愛だとか、恋だとかいうものは理解がしがたい感情だ。

 習慣となった毎朝の苦すぎるコーヒーを口に含めて思う。

「苦い……」

 実に苦い。香りに関してはなるほど、いい香りだということは認めよう。

 黒々とした液体が白いマグカップの中で揺れる様も、不思議と優雅さを感じる。

 だけど、苦い。

「君はなんでこんな苦いものが好きなんだ。理解に苦しむぞ」

「あんたが甘党なだけよ、がきんちょ」

 即座に返された言葉に、口の中に広がる苦さがより一層強くなった気がした。

「そりゃあ、君に比べたら僕は年下だけれども」

 ふわりと。コーヒーの涼やかな香りに甘さが混じった。彼女の体が、自分の真正面にあるのが見える。

 きっと何時ものようににやにやと笑って、何時までもコーヒーに慣れない僕を笑っているんだろう。

「あんたにこの味の良さが分かる日がくるかしらね」

 彼女の声が耳にころころと転がってくる。

「そういう君は当然、分かっているんだろう?」

「じゃなきゃ、毎日淹れないわよ」

「じゃあ、分かるようになった切っ掛けとかあるのかい?君だって僕くらいのときはココアが一番だなんていってたじゃあないか」

 からかうつもりが無かったか、と聞かれたら嘘になる。

 大人ぶるようになった切っ掛けを聞くなんて、黒歴史を卒業した切っ掛けを聞かれるようなものだろう。

 ちょっとくらいは顔が赤くならないかな、と。

 そんな気持ちで口から出た言葉は。

 彼女の顔を美しく、艶めいた色に変えていた。

「聞きたい?」

「……いや、いいよ。ご馳走様」

 表情一つで分かることは意外とあるものなのだと、このとき僕は知った。

 何が悲しくて、好きな人ののろけ話なんて聞かなきゃいけないんだろう。そういえば、彼女がコーヒーを飲むようになったのは……

 そこまで考えて、虚しくなってカップの底にある黒い液体を喉の奥に流し込んだ。

 苦い苦いその液体を、僕は初めて美味しいと感じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ