第9話
夢を視た。そこには何もなかった。本当に何もなかった。ただ真っ白な場所に私はいた。誰もいなかった。ガランとしていて、なぜか意識がハッキリしている。そして、ここが夢の中だと分かってしまった。そんな状況で、私は自分の手に握られた物に視線を向ける
それは、妖しくも光を反射する抜き身の刀だった。刃は光を反射し、存在を自己主張して訴えかけてくるように見える。
「はて、ここは?」
首を傾げるも、私の言葉に返事が来る訳もない。視線は依然として刀を向けたまま
「なあ、もうちっと愉しみたくはねえか?」
「!?」
急に私に向かって掛けられた言葉に驚き、身構える。そして、いつの間にか正面に立つ人物を見て驚きのあまり固まってしまった。何故ならば、夢の中に出てくるあの男が居たのだから、驚かずにはいられない
「あん時の野郎との死合みてえなのが、いや、殺るか殺られるかのよぉ、命の奪い合いをしたくねえか?」
「生憎だけど、私は貴方とは違う」
私の言葉にククク、と喉を鳴らして笑う。何がそんなにおかしいと言うんだ。男を睨み付けて刀を持つ手に力が入る
「わりいわりい。手前の口からそんな寝惚けた言葉が出るなんて思わなくてな」
「……何が言いたい?」
「まあ、確かにナリは違うわな。男と女だ、背も俺のがデカイか? まあ、でもよ、そんだけだぜ。それによ、俺と手前は同じなんだぜ?」
同じ? 私とこの男が? あり得ない。私が無言で居るのを楽しげにしながら見てくる。その無遠慮な視線はまるで私を品定めしているような錯覚を覚えた。鬱陶しい。いっその事、斬ってしまおうか? 脳裏にそんな言葉が過ったと同時に私は動いてしまった。この男を斬る為だけに
しかし、肉を断つ手応えはなく、代わりに刃金と刃金がぶつかる音が耳に届いた。男と私の間には互いの武器がぶつかっていた
いつの間に? 私の方が速く動いたのに!? 思わず、舌打ちをして、距離を離す。それに対して、男は何もせずに突っ立ったままだ。口角を釣り上げニヤニヤと笑っている。その表情は「そらみろ」と言わんばかりに見える
「ククク。まあ、いいさ。いずれだ、いずれ分かるさ」
正面にいた筈の男の声が突然、後ろから聞こえる。
それに振り向こうとした時には体から力が抜け落ち、倒れてしまった。
「今宵は月が綺麗だぜ? どうだい? いっちょ、出ねえか?」
男が、何か言っているのにそれに意識を向けれない。そもそも、何が起きたか分からない、いや、分かった。この、遅れてやってきた激痛が訴えかけてくる
『私は斬られたのだ』と、暗転する視界と満足そうに笑う男の姿を見て私は、私は意識を手放した
「―――ッッ!?」
跳ね起き、額を伝う汗を拭う。ハァハァと肩で息をする私、何があった!? なぜ、私は斬られたのだ? なんで、あいつは私より速く動いて斬れるの!? お腹の辺りがズキズキと痛みを訴えていて、眉をひそめてしまう
「――ッ、斬られるなんて」
まさかと思い、ゆっくりと寝間着の裾を捲し上げて確認する。ヘソの辺りに違和感がある。視界を下げていくと、そこには白い包帯が巻かれているようだ。
いったん深呼吸してから、それを解いていく。少しずつ露わになっていく、そこには、そこにあったのは小さくなってきた傷口があるだけだった
そうだ、このキズだってあの教会を襲った男にやられたものじゃないか
「ハァハ……ハッ、ハハ――、まったく、何をやってるんでしょうね。私は?」
自嘲気味に呟いた言葉は、部屋の中で響き渡り、夜の闇に吸い込まれ溶けて消えていってしまう。どうするでもなく、私はベッドから、降りて鏡の前に立つ。
「どうしたいんでしょうね、私は」
当たり前だけど、この言葉も闇に溶けた。鏡の中に映る私に問い掛けたつもりだったけど、応える筈がないか
『ねえ、今夜は月が綺麗ね? どう、気分を晴らすために出掛けようか?」
「―ッ!?」
気の……せい? でも、いま。鏡に映る私が喋ったような? 鏡の中の私の顔を見る。私と同じ表情をして、青い瞳に光を纏いながら、私を見つめ返してくるだけだ。なのに、なんでだろうか、彼女の言葉が耳にこびり付いて離れない。
「どうすれば、いい?」
つい、尋ねてしまった。彼女はクスクスと笑いながら、鏡に映るベッドの近くに置かれた刀を指差した。それにつられるように振り返り、刀を見る。刀は、淡い光を浴びて存在を主張している
『ねえ、シェリス。出掛けよ? いいよ、貴女がしたいことしましょ?』
「……そうですね、わかりました」
『うん、いい子ね。シェリスはいい子だよ」
言われるがままに、刀を手にする。さっきまであんなにも取り乱していた私の心は不思議と落ち着いていた
『じゃあ、着替えてから行きましょ? 初めてね、夜に出歩くのは』
そうだっただろうか? まあ、今は関係ないか
今、私は街の外に出ていた。普通なら閉まっている筈の門は開いていたし、そのまま出てきたがどうしようか?
『夜の外は、危険よね? 魔物が闊歩しているし、でも、構うことないわよね? あ、そうだ。ねえねえ。昔に一回だけ、行った近くの森に行きましょ?』
森に? ああ、まだ小さかった私をエミリーさんが連れて行ってくれたっけ。花畑があるからと言って、それっきりでしたけど
たしか、森は北にあったなと朧気な記憶を頼りに歩いていく、その道中で私に近づいてくる姿が見えた
その姿は、異形の者。骸骨だけで手には所々が欠けた剣を持っていた。スケルトン。それがこの魔物の名前だ。スケルトンは私を見るなり、カタカタと歯を鳴らし笑っている。ウルサイ
スケルトンとの距離をゆっくりと詰めていき、刀を鞘から引き抜き斬りかかる
スケルトンは剣で、刀を受け止めてくる。眼がないのによく分かったなと感心する
攻撃する隙を与えないつもりなのか、無造作に剣を振り回すスケルトン。その動きを注意深く見て躱していき、私はスケルトンが動きを止めたのを見て、鞘をスケルトンの眼窩に入れて距離を置いた
「!?!?」
眼窩に入れられた鞘に戸惑っているのか、足をふらつかせながら、剣を振り回している。スケルトンが躓いたのか倒れてしまった。私は走って近付き、スケルトンの頭蓋骨に刃を降り下ろす
「!?」
肉のない体をびくりと一度、震わせた
「まだ、生きてる」
そう呟き、何度も刃を降り下ろしていく。その度に震わせていた。しかし、動きが小さくなっていき、大きな穴が出来た時には動かなくなった
「念のため」
剣を持つ手を斬り放して、踏みつける。反応がないことにホッとする。そうだ、森に行かないと行けなかった。私はその場を後にすることにした
森の中は夜といっても月明かりに照らされていて視界は悪くはなかったのが幸いだった
『やっと森に着いたね、速く行こっか?』
「はい」
声がすぐ近くからしている。この声は私なんだろうか? もう鏡は無いんだから、それに姿が見えないのはなんでだろうか?
「シェリス、行こう? もうすぐだから、ね?」
「………はい」
私は、言われるがままに向かうのだった。
いまさら、魔物が登場です。ファ、ファンタジーですし、いいですよね?(震え声
少しだけでも、読んでくれたらとても嬉しいです
ではでは(^-^)/
一部、追記修正しました(14/06/15)