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私の望みは……  作者: 甘栗
6/13

6話

久しぶりに話が浮かんだので、忘れないうちに投稿しました

 親父は言った。大事なもんが出来たら死に物狂いで守り通せと

だが、俺には大事なもんが自分にとって大事なもんだと気づいた時には手遅れで、気付きゃ失っちまった後だった

 こんなにも、情けねえ気分になんなら。こんなにも、気が狂いそうになっちまうんだったら

この新しい居場所も、大事なもんになる前に


――いっそ、自分の手で消しちまえばいい――


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


頭がぼーっとする、また夢か

私は、鈍い思考のままにクローゼットを開け着替える

着替えながら、頭に過るのはついさっき視た夢のこと

あの男は泣いていた、気がする

何があったかは、分からない。それはこれから分かるのだろうか?


「いっそ自分の手で、か」


自分の手をじっと見る、私にそんな事は出来るとは思えないが、やりたくなんかないな

ここは、私の居場所だから。私を育ててくれた人がいる

私と過ごしてくれた場所だから

だというのに、なんで

あの男の言葉に共感してしまうのだろう?



着替え終えて、私は廊下に出た

と、廊下を歩くメイド服を着た女性が目の前を通った


「おはようございます、レヴィさん」


私の呼び掛けに気付き止まり、振り返った

銀色のショートヘアーにややつり目がちな目付きで青い瞳、病的なまでに白い肌、身長が確か148、と低くてキレイというよりは可愛い分類に入るんだろうな

 レヴィさんは、この屋敷で勤務歴が一番長い人だ。物心着いた時には既にこの屋敷で働いているのを見かける


「ん、おはよう、シェリス」


僅かに笑みを浮かべ、私の頭を撫でてくる

こんな事をしてくるのは、彼女だけだ

やめてほしいと訴えた事があったが、「私にとっては幼いまんま」と却下されてしまった

なので、私も諦めてされるがままにしている


「君は、その服は着なくていいんだよ?」

「働く上で、最適な格好だと思ったんですが?」

「働くね、じゃあ執事服でも良くない?」

「うっ、一応。女なんで」

「やっぱり、まだまだ幼いね」


失礼な、私はもう16だ。成人―20歳から成人―はしてないが大きくはなったのだ

じっと見つめて、不服である事を訴えるも通用しない


「レヴィさんは、初めて会った時のままです」

「ん、そだね。人間じゃないからね、私も」


彼女は笑いながら言った

そう、レヴィさんは人間ではない。屋敷で働く人の殆どがそうなんだけど、彼女は吸血鬼らしい

 と言っても、それらしい行動をしてるのを見た事はないけど

この人も、朝に起きて夜には眠っているくらいだ


「あ、そうそう。他の皆も言ってたけど、女の子なんだし服くらい買いなさい」


私の顔を人指し指をピッと指して、そんな事を要求してきた

いや、でも服なんかよく分からない。そう言おうとしたらジト目で見られた


「……考えときます」

「よろしい、んじゃ。また」


片手を挙げて、奥の方へと向かっていくレヴィさんを見送る

さて、では起こしに――


「シェーリース♪」


――必要なかったか、まったく朝から元気な人だ

後ろから、エミリーさんが飛びついてつくる

ふらつきながらも倒れないように踏ん張り、挨拶をする


「おはよう、エミリーさん」

「おはよ、シェリス」

「今日はどうするので?」

「えへへ、今日はね――」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


エミリーさんの希望で、教会の前に来ている

なんか、あったのだろうか?

教会に着いたというのに、彼女の顔から笑顔が消えてしまった

ふむ、何かあっても良いように刀を持ってきて正解だったかもしれない


「んー、誰かいるね。知らない人」

「分かるの?」

「ソイツだけ、魔力出してるみたいだから

教会の人なら、そんな事しないし」


魔力を感知しているのか? いかんせん私には魔力はない。魔力測定でも魔力無しと判断されている

だから、魔力がどうのと言われても分からない

立ち止まっていたら、轟音がして教会から土煙が上がった


「エミリーさんは、誰か呼んで来てください」

「や、私も行く」

「だけど、危険だ」


出来るなら遠ざけたい、彼女に怪我を負わしたくないという私のワガママだ

彼女は、私の顔を見上げてにっこりと微笑んだ


「貴女が行くなら、私も行くよ

だって、大事な友達だもの」

「………」


まったくこの人は、だけど、つい口元が緩むのは仕方ないだろう


「分かりました、貴女が望むならば行きましょう」

「シェリス、ありがとう」

「いいんです、さあ、行きましょう」



教会の中は、荒れていた

椅子が壊れて、残骸が飛び散っている

シスター達は無事なんだろうか?


「ねえ、いるのは分かってるわ

出てきたら?」


エミリーさんが、大声で呼び掛ける

その呼び掛けに答えるかのように靴音が懺悔室から響いた

ドアが吹き飛ばされ、中から人が出てくる

中から出てきたのは、黒髪の男性だった

黒いコートを着て、スーツを黒で統一されている

黒くないのは褐色の肌に、白い手袋をしている手だけ


「おや、お客さんか?」

「ここで何をしてるの?」

「いや何、ちょっとあの男の私物が無いか探しに来たのさ」


ニヤリと、口を歪めて笑みを作った


「で、カイルの私物は見つかった?」

「いや、さっぱりだ。まったくあの神父には困ったものだ」


カイル? ああ、それが父の名前なんだ

この男は、よくない意味で父の知り合いか

はぁ、困った父親だ


「シスター達に手は出してないな?」

「ん? ああ、騒がれても面倒だから地下にあった倉庫にぶちこんだ。俺の目的はあくまでカイルの私物だからな」

「父は死んでますが?」


私の言葉を聞き、男は突然笑いだした。思わず顔をしかめるも、相手は気にもしてない


「何がおかしいんです?」

「ハハッ、いやいや、すまない

ヤツに娘がいて、マトモとはね。愉快な話だ」

「お引き取り願えますが?」

「シェリスも言ったけど、カイルは死んだわ」

「………奴の死、か。知っているから来たが、無駄足ではないらしい。お嬢ちゃん、奴の娘なら分かるな?

俺を追い返す方法は?」


私は刀の柄に手を添える、いつでも抜けるように


「正解だ、優等生じゃないか」


男は、口を笑みで歪めながら腰にぶら下げられていた剣を抜いた


「さあ、おひとつ付き合ってもらおうか?」



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