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捨てられた勇者  作者: 天村 一
ロンバルディア―消えぬ炎
7/30

近づく足音

4月23日、誤字修正

 

「それで四人も死者を出しておいて奴を逃したのか、剛剣のガインとあろう者が」

 

 夜半、グリーンベル王城内にあるロンバルディア王国騎士団長の執務室。風通りの悪いジメジメした部屋の中、グランは椅子に腰掛け、ふてぶてしく突っ立ているガインと机を挟み対峙している。


「エラード相手に死人が出ないとでも思ってたのか?大体一人で行くと言った俺に無理やり騎士共を付けたのはあんただろ」

 

 ガインはグランの(とが)に一切悪びれる様子もなく答える。


「まあもっともこの先の事を考えれば死んだ奴等も今のうちにさっくり死ねて良かったじゃねえか」

「貴様いい加減にしろ!」

 

 グランは野太い声と共に机に拳を叩きつけガインを射殺(いころ)すように睨みつける。だが、ガインは動じず怯える様子も畏まる様子も全くない。ただ不快な沈黙だけが湿気の多い部屋を満たす。


「失礼します!コーラルから緊急の伝令です!」


 ドアがけたまししく叩かれ、空気を読まない若い兵士の大きな声が無言で睨み合ったままの二人がいる室内に響く。


「入れ!」


 グランはガインを睨みつけたまま外で待つ兵に言った。すぐにドアが開かれ若い兵士と、疲れた様子の軽装の男が姿を見せる。彼らはドアを開けると共に流れ出てきた室内の気まずい雰囲気に一瞬たじろいだが、すぐ前に進みでた。


「一体何ごとだ?」


 声に怒気を残したままのグランが言った。


「コ、コーラルの鉱山に異変が起き、その報告に上がりました!」


 伝令がしどろもどろに答える。

 

「異変?」

「はっ、はい!私もなんと言ってよいのかわからないのですが鉱山が”暗闇に”飲まれました」


 伝令が伝える奇妙な話にグランはより一層顔を険しくする、不遜に振舞っていたガインも真剣に耳を傾け始めた。


「どういうことだ?」


 グランの迫力に押されながらも伝令が事の詳細を話し始める。

 今朝方、大きな揺れが起こった事、二人の鉱夫が暗闇に包まれた大穴を鉱内で見つけ不気味なネズミのに遭遇した事、そして昼ごろには暗闇が鉱内全域に広がり、調査に送った者達が帰らなかった事。


「今頃はソフィア様の指示に従い皆で鉱山の入り口を全て魔炎で塞いでいるはずです」

「何故だ?救助を諦めたのか?」


 グランが眉をひそめる。


「その鉱内に広がった暗闇、黒いもやのようなものなのですが、どうにも陽の光に弱いらしく、私がコーラルを発った段階ではまだ外に漏れ出てきていなかったのですが、ソフィア様の見立てでは日没後には外に漏れ出てくるだろうとのことで……」


 言葉に詰まる伝令の表情がそれが苦渋の決断であったを物語っていた。


「……明日からの救援を求めてお前を走らせたか」

「はい」

 

 話を一通り聞いたグランはコーラルで何が起こっているか理解したようだ。

 

「伝令の任ご苦労だったな。明朝すぐに救援をコーラルへ送ろう」


 グランは労いの言葉を掛けると、控えていた若い兵士に部屋を伝令にあてがうよう指示を出す。若い兵士に促されて部屋を出て行く伝令の男。


「あの……」


 部屋を後にする前に伝令が聞きづらそうに口を開く。


「なんだ?」

「やはりこれは魔物が溢れ出す前触れなのでしょうか?」


 伝令は意を決しってグランに尋ねた。その横で若い兵士がグランの答えに耳を澄ませている。まるで親の口から怒りの言葉が今まさに放たれるのを為す術もなく待つ子供のような顔をした若い兵士と伝令を見てグランは、


「そうだ」


 とだけ告げた。それを聞いた伝令は上の空で礼を述べ、心ここに在らずと言った様子の若い兵士に連れられて部屋を出た。


「で、どうするんだ?」


 二人の足音が遠のいた後、ガインが口を開いた。


「……貴様に救援隊を率いてもらう」

「構わねえが、死人は間違い無く出るぜ」


 ガインは先程までの口論を忘れたように再びガインに兵を率いるよう命じるグランに苦笑いしつつ釘を刺す。


「わかっている」


 余計なお世話だと言わんばかりの刺々しい口調でグランは答えた。ガインは呆れたような笑いを浮かべ部屋を出て行く。


「もし抑えられなかった場合だが……」


 グランの声に振り向くガイン。


「最低でもソフィアだけは連れてグリーンベルに戻れ」


 それはつまり”もしもの時にはコーラルを見捨てろ”という意味だった。そしてガインは返事をすることなく部屋を後にした。

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