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ただ一つの渇望

作者: 冬眠クマ

この渇望こそが私の産声、命の形


誓うぞ


たとえどれだけの苦難が待ち受けようとも


私は必ず果たしてみせよう

 



 






 





目が覚めると白い世界だった


何もない一面の白、静寂の世界


常の世にはありえない、まさしく異界だった。


だが何故だろう、不思議と心は穏やかだった。



「あ、目が覚めた?」



声が聞こえた。



・・・ああ、覚えてる。



振り向くとそこには見覚えのある女性がいた。



・・・忘れるはずがない。



腰まで流れる黄金の髪と、白磁器のような肌、碧色に輝く瞳が印象的な絶世と呼ばれるほどの美女だった。



「ごめんなさい!!」



私が目を覚ましたのを確認した彼女は、突如その美貌を哀切に染め上げ、頭を下げた。



「頭を上げて下さい。一体何を謝っているんですか。」



そう言っては見たが、大体の見当はついている。


頭を上げた彼女はこちらを気遣うようにおずおずと話始めた。



「・・・ここはあなたのいた世界の外側。

 あなた達の言葉でいうと・・・天国といったところよ。」



ああ、つまり



「あなたは死んだの。」



彼女は私にそう宣告した。


・・・覚えている


そう、たしかに私は死んだのだ



    会社帰りに駅の階段で転び


    さんざん転がった後受け身を取ったところに車が突っ込み


    跳ね飛ばされた先のマンホールが開いていて下水道に落ち

   

    全身を強打して動けないところをワニに襲われ食い殺された



その光景を覚えている。


・・・見事なコンボだった、当事者でなければ腹を抱えて爆笑していたであろう


当事者からすればまったく笑えない悲劇ではあるが。



「そして、貴方が死んだのは私のせいなの。

 謝って済むことではないわ。

 それでも謝らせて欲しい。本当にごめんなさい。」



そういって彼女はまた頭を下げた。


・・・彼女に対する怒りは不思議と沸かない。


ただ、死んだ理由は聞きたかった。



「・・・怒ってませんから、頭を上げて下さい。

 ・・・私が死んだ理由を聞いてもいいですか。」



私の問いかけに、彼女は語り始めた



「分かったわ。

 まず始めに、貴方のいた世界は私が管理する世界。

 ・・・私はいわゆる神と呼ばれる存在よ。」



・・・やはりそうか



「この宇宙には私みたいな存在が無数にいて、それぞれがいくつかの世界を管理しているの。」



ほう、彼女のような存在が他にもいるのか・・・



「神はそれぞれ世界を管理出来るほどの絶大な力を持っているの。

 私はその中でも弱い方だけど、それでも惑星を砕ける程度の力はあるわ。」



それほどまでか・・・


彼女のどこかのほほんとした雰囲気からは想像も出来ないが・・・


 

「それで基本的に神同士は相互不干渉を貫いてるわ。

 互いに争うメリットはないし、皆自分の世界の運営に熱中しているから。

 ・・・でも、中には例外もいる。」


・・・



「それが邪神と呼ばれる存在。

 こいつらは他の世界にちょっかいをかけて、世界に破壊と混乱を巻き起こすことを楽しみしている連中よ。」



・・・どこの世界にもそのような馬鹿はいるんだな。



「で、その中の一人に六弦という邪神がいるの。

 こいつが最近、私の世界にちょっかいを掛けてきているのよ。」



・・・なんとなく読めてきた。



「こいつは私よりも強いんだけど、ここは私が愛する世界。

 世界の加護の助けもあって、今まではなんとか守りきっていたわ。

 ・・・でも今回は失敗してしまった・・・被害が出てしまった。」



・・・ああ、つまり



「その被害者が貴方。

 私は貴方を守れなかった・・・本当にごめんなさい。

 管理者失格ね・・・」



そういって彼女は深々と頭を下げた。


その光景に、私は痛ましさと深い感動を覚えたのだ。


そもそも彼女には何の非もない。


悪いのはその六弦とかいうクソ野郎であって、彼女ではないのだ。


それなのに彼女は頭を下げた。


あなた達を愛しているのに守れなかったと、涙を浮かべて。


・・・まさしく慈愛の女神だ。


彼女の振る舞いはそう呼ぶにふさわしいものだった。



「先程もいいましたよ。頭を上げて下さい。

 あなたは何も悪くない。むしろこちらが礼を言うべきです。

 ・・・ありがとうございます。私達を守ってくれて、そして愛してくれて。」



彼女は頭を上げると、きょとんとした顔をした。


・・・すごく可愛い。


思わず胸キュン状態になってしまったが、気を取り直して。


・・・聞きたいことがあるのだ。



「だから謝罪は結構です。

 それより聞かせて下さい、私はこれからどうなるのですか?」



そう問いかけると彼女はまた痛ましい顔をしてこう告げたのだった。



「本来なら、私の力で貴方を生き返らせることができたの。

 ・・・普通に死んでたのならば。」



・・・普通に?



「貴方・・・その、個性的な死に方をしたでしょう?

 あれは六弦の呪いのせい。

 あの世界での貴方の因果はめちゃくちゃにされてしまったの。

 とても凶悪な呪いでね、私では解呪できない。

 ・・・だからあの世界に戻すことはできないの。」



・・・そうか生き返れないか。


半ば予想はしていたがな。


・・さて、どうしたものか。



「・・・でも、代わりと言ってはなんだけど、貴方を私が管理する別の世界に転生させることが出来るわ。」



・・・なに!?



「貴方の肉体は汚染されたけど、魂はまだ無事だった。

 だから、世界と肉体を変えれば貴方を生き返らすことができる。

 ・・・ちょっとファンタジーな世界だけど・・・どうする?」



光明が見えてきた!!


・・・落ち着け、ここからは交渉次第。


冷静に、冷静に対応するんだ。


・・・ここで全てが決まるのだから。



「分かりました。その話お受けします。

 ・・・しかし、新たな世界で一から出直しというのは厳しいものです。

 少し・・・援助して頂けませんか。」



「援助?」



彼女が怪訝そうな顔をする。


だがしかし、その顔に嫌悪は浮かんでいない。



「ファンタジーな世界ということはそれなりに力がいるはず。

 それに邪神がまたちょっかいをかけてこないとも限りません。

 ですので・・・力が欲しいのです。」


「うーん、力かー。

 さすがに邪神に対抗できる力は無理だよ?

 そこまでの力は私にはないの。」



・・・食いついた。



「いえ、そこまでは期待していません。最初はレベル1でもいいんです。

 ・・・ただ、鍛えれば鍛えるだけ強くなれる身体にして欲しい。それだけなんですが。」


「んー。」



・・・頼む通ってくれ!!



「まぁ、それならなんとか。

 いいよ、その力をあげるわ。」




通った!!


・・・まだだ、まだ浮かれるな。


次こそが重要。


これが通らなければ何も意味がないのだから。



「それと、私には生前どうしてもやりたいことがありましてね。

 ただ、時間がかかりすぎて不可能だったので、諦めていたのですよ。

 出来ればそれを果たしたい。

 ・・・内容は恥ずかしいので教えられませんが。・・・どうでしょう?」


「・・・具体的にはどのくらい、不老不死はさすがに無理だよ。」



悪くない感触だ。


さぁ、正念場だ。


決まれ、最後の一手!!



「さすがにそこでは。

 ただ、どのくらいかかるか予測が立ちません。

 寿命は人並みでかまいませんから、チャンスの回数をくれませんか?

 具体的に言うと、前回の能力を引き継ぎで、目標を達成するか、諦めるまで転生可能にしてほしいのです。」


「・・・んー・・・」



・・・・どうだ!?




「まぁ、それくらいだったらギリギリなんとかなるかな

 いいよ。それも可能だよ。」






・・・お、おおおおおおおおおおおおお!!!!!!


通った!!!!!!


良かった・・これで準備が整った・・・




「ありがとうございます!!」



・・・しかしこの娘は大丈夫なんだろうか?


深く考えれば私の申し出は結構とんでもないこと、というか実質神を超える力と不死を与えているようなものなのだが・・


心配だ・・・悪い男に騙されないといいが。


・・・私が言えた義理ではないか。





「それじゃあ転生を始めるわね」





瞬間、全身が光に包まれる。


次に感じたのはどこまでも浮上するようでいて、果てしなく堕ちていくような矛盾した感覚。


どうやら転生が始まるらしい。次第に視界がぼやけていく。


そうして意識を失う前、女神の声を聞いた。



「言い忘れたんだけど

 私が管理する世界は、あなたがいた世界以外は大分ハードな世界だから気をつけてね。」



・・・そういうことは始めに言って欲しい。


・・・不安だ、この娘を一人にしておくのは果てしなく不安だ。



「・・・あなたの目的が果たせるよう祈っているわ

 あなたの旅路に幸が多からんことを・・・」



・・・女神の祝福、確かに。






          












目が覚めるとそこはどこまでも広がる草原だった。


眼前に広がるは緑と赤のみ。


・・・ちょっと待て、赤?


緑の一画が赤で塗りつぶされている。


それにこの臭いは・・・



瞬間、天を切り裂くような咆哮が私を襲った。



とっさに耳をかばったが、時既に遅し。


脳がやられたか、頭がクラクラする。


・・・ようやく治まったか。


まだ鈍い痛みを発する頭をあげ、先ほどの咆哮が聞こえた方を見ると、そこにはありえないものがあった。









           「・・・竜?」





伝説上の生物


空の覇者


絶対の存在




・・・ドラゴンであった。



よく見れば、竜の周りには甲冑を付けたかつて人だったものが散乱している。


おそらくは返り討ちにあったのだろう。


英雄になれなかった者たち。


その成れの果ての姿だ。


そして



・・・竜がこちらを見つめていた。



その口がニィと笑う。


新たな愚者を葬る嗜虐に歪む。



「・・・たしかにハードだ・・・

 もう少しこう・・手加減というものはないのかね・・・」



竜の咆哮が再度天を裂く。


同時に疾走を開始する巨躯。


そう、それはあわれな獲物を食らうため・・・






                





              それでは始めようか









目前に迫る死を前に私は笑う。

 

第一歩としてはいささか絶望的な展開だが、渇望成就に比べればなんてことはない。


私は誓ったのだ。


必ずやこの渇望を果たして見せると。


来るが良い竜よ!


たかがトカゲの化け物ごときにこの思いが止められると思うな!!

   

さぁ!









                 開戦だ!!!















 




と、カッコつけたはいいが


・・・当然の如く死んだ。


惨敗である。



「レベル1でドラゴンに勝てるか!!」



渇望成就までは遠い・・・






















数千年後



「お帰りー」


「ああ、ただいま」



彼女との挨拶。


これで何百回目になるだろう。


転生先で死を向かえ、彼女のもとに帰ってくるのは。



「また彼がちょっかいかけて来たの?」


「ああ、あと一歩及ばなかった

 だが次は勝つ」



長年の地獄により私の力は神に匹敵するようになった


数多の強敵、そして癪だが私を殺した邪神、六弦の存在が私を鍛え上げ、神の領域まで押し上げたのだ



・・・あのクソ野郎、次こそは滅してやる



「しかしあなた強くなったわねー

 もう私より強いんじゃない?

 ・・・で、随分経つけどまだ目的は果たせないの?」


「ああ、まだだな

 が、次が終わるころには始められそうだ」


「ふーん

 そういえばあなたの目的そろそろ教えてよ

 今まで何回聞いてもはぐらかすばっかりで教えてくれなかったじゃない」



そう彼女は膨れ顔で言った。


出会った当初は澄まし顔だったが、今ではこんな顔も見せてくれる。



「そうだな次に会ったら教えるよ

 ・・・きっとビックリするだろうけどな」


「?」



不思議そうな顔で首を傾ける彼女。


その微笑ましい姿を見ながら光に包まれる。



「じゃあ行ってくる

 帰ってくるのを楽しみにしてろよ」


「いってらっしゃーい」



目を開けるとまたいつもの草原


いつものように竜がこちらを見るが、もう奴は向かってこない


そう分かるのだ

 

絶対的な力の差が



・・・さて、前回であのクソ野郎を倒す道が見えた


奴など所詮ただの前座


とっとと滅してくれる・・・今までのぶんを熨斗つけて返してな!


そして始めよう、こんなバトルマンガではない私の渇望を


 


 


 


 


 


                 恋物語を!





















                貴女に恋をした







貴女に会うまで私の世界は灰色で、枯れ果てていた。


万象全てが無価値で、ただ生きているだけだった。


死の瞬間も特に何も感じなかった。


ああこれで終わるのかと、ただそれだけ。



だが


貴女に出会ったその瞬間


世界は色鮮やかに輝いた。



そうして芽生えた渇望、私の産声












             貴女が欲しい





 




私は今、生きている。


誓おう。


たとえ那由他の果てまでかかろうとも







 

           この渇望、必ず果たしてみせる  


 

 

         

 了







おまけ



「ねーねー

 私、転生後のあなたのことはおぼろげにしか分からないんだけど

 たしか初期配置にドラゴンいたはずなんだけどアレどうしたの?」


「・・あれ、お前の差金かよ、初期配置にドラゴンとかありえねぇだろ」


「えー、だって力が欲しいっていってたからドラゴン倒せば力があがるかなーと」


「このアーパー・・・

 これだから神は・・・

 レベル1でドラゴン相手にどうしろと・・・」


「でも勝ったんでしょ、どうやったの」


「・・・レベルを上げて物理で殴った」


「え?」


「だから、何度も死んで少しずつ経験値貯めながらレベル上げて、物理で殴った」


「なにそれこわい」


「俺はいきなりドラゴンを当てるお前が怖いよ・・・

 しかもなんだよアイツ、とどめ刺す寸前で変身したぞ?

 そっからとんでもないパワーアップしやがるし。」


「え、ラスボス級の子なんだから第二形態くらいあるでしょ?」


「・・・はっはっは

 すると何かな、君はレベル1の相手にいきなりラスボス級を当てたわけだ。

 ・・・お前今日の夜覚悟しとけ」


「は?」


「こないだのアレ・・・今度は容赦しないから」


「え、ちょ、ま

 死んじゃうじゃない私」


「大丈夫だ、神はそんな簡単に死なない」


「うわー、この人目がマジだよ・・・」



・・・次の日、女神は仕事を休んだという話




 

初投稿です。


つたない話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

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