第七話:責任問題は、お餅のように柔らかくありません
「……帰りたい。今すぐ、領地の隅っこにある実験室に帰りたい」
王都の夜を彩る、豪華な「お披露目会」。10歳になった貴族の子弟が一堂に会するこの場所は、僕にとって処刑台も同然だ。
出がけ、手紙を握りしめた妹のセリカが「お兄様、これ……」と何か言いたげにしていたが、全力でスルーしてきた。あの手紙、たぶん勇者からのラブレターか、僕への殺害予告のどちらかだ。10回の経験上、関わるとロクなことにならない。
僕の隣には、慣れないドレス姿で少し緊張気味のメイアが控えている。
「アルファード様、背筋を伸ばしてください。お餅がはみ出ていますよ」
「いいんだよ、これが僕の正装なんだから」
僕は丸々と肥えた体で、形式通りの挨拶を国王陛下に済ませた。10歳児らしくない落ち着き? いや、11回目だもの。緊張する方が難しい。
斑点と「責任の所在は?
「アルファード様、いつぞやはお世話になりました」
凛とした声と共に現れたのは、あの時死の淵から救ったソフィア王女だった。
病の影響か、ドレスから覗く手首には、うっすらと痛々しい斑点が残っている。周囲の貴族たちは「おいたわしい」と同情の目を向けているが、彼女の瞳は驚くほど力強く僕を射抜いていた。
「……ソフィア様。お元気になられたようで何よりです」
「いいえ、ちっとも良くありませんわ。貴方の中途半端な薬のせいで、後遺症が残りましたもの。……責任をとっていただけますわよね?」
「えっ!? あの薬は完璧に調合したはずですが……斑点ですか? おかしいな、レシピ通りなら消えるはず……」
職業病だろうか。僕はつい、彼女の手首を覗き込んで分析モードに入ってしまった。
すると、ソフィア様はふいっと顔を赤らめて視線を逸らす。
「斑点が残っていては、お嫁にも行けません。アルファード卿には、ぜひ責任をとってもらわねば。……ねぇ、お父様?」
「うむ、そうだな。我が娘を傷物(?)にした責任は重いぞ」
「あら、ソフィア。そんな遠回しに言っても、このお餅……失礼、アルファード卿には通じないのではなくて?」
王妃様の目が笑っていない。
「責任をとる」=「僕が責任を持って彼女を一生支える(結婚)」という、貴族社会特有の恐ろしい包囲網が完成しつつある。
逃げ場のない「褒美」
「まぁ、冗談はさておき。アルファードよ、国を救ったお主には相応の褒美をやらんとな。望みを言ってみよ」
国王の言葉に、僕は千載一遇のチャンスだと身を乗り出した。
ここで「田舎の土地と永住権」を勝ち取れば、勇者との決戦(中盤)を回避できる!
「では陛下、どうか僕に、静かな隠居生活と――」
「なら、私を褒美にしてくださいませ!」
ソフィア様の爆弾発言が会場に響き渡った。
静まり返る広間。
「なっ……!?」と絶句する僕の横で、メイアが僕の腕をミチミチッと音を立てて掴んだ。痛い、メイア。ドレスを突き破る勢いで指が食い込んでるよ。
「ソフィア様、声が大きいです! それに僕はデブで無能な悪役……じゃなくて、ただの伯爵令息ですよ!?」
「関係ありません。私の命を救い、そして私の肌を汚した(※語弊がある)責任、きっちり取っていただきますから!」
シナリオが、僕の知らない方向に爆走を始めた。
勇者に寝取られるはずのヒロインたちが僕を避け、勇者に出会うはずの王女が僕を離さない。
……これ、もしかして「何もしない」方が、かえって事態を悪化させてるんじゃないだろうか?
(メイア、お願いだからそんなに冷たい目で見ないで。僕はただ、平和にポーションを作りたいだけなんだ……!)




