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第六話:ドナドナされる子豚、聖域へ

「……なんで、僕なんだよ」


豪華な馬車に揺られながら、僕は窓の外を流れる景色を恨めしそうに眺めていた。

手元には、金縁の豪華な「召喚状」。無視すれば不敬罪で死刑。行けばシナリオに巻き込まれて死ぬかもしれない。まさに詰みだ。


父上は、なぜか今回の謁見には同席を許されなかった。王室が「公式」ではなく「極秘」に僕を呼んだということだ。嫌な予感しかしない。


王宮の奥、禁じられた一室


通されたのは、きらびやかな謁見の間ではなく、重々しい空気の漂う後宮の奥深く。そこには、国王陛下自らが沈痛な面持ちで立っていた。


「……アルファード・ベルンシュタイン。貴公の功績は聞き及んでいる。不躾な呼び出し、許せ」

「はっ、滅相もございません……」


(威厳がすごい。お腹が鳴りそうだけど、必死に引っ込める)


カーテンの奥に横たわっていたのは、第一王女ソフィアだった。

彼女の白い肌には、痛々しい赤い発疹が広がり、高熱で意識を失っている。宮廷医師たちが匙を投げ、絶望の空気が部屋を支配していた。


僕はその症状を見て、前世の古い知識を総動員する。

(……これ、天然痘てんねんとうじゃないか?)


この世界では「呪い」や「悪魔の指先」と呼ばれ恐れられているが、僕の知識と、この「無限の魔力」を込めた薬学があれば、対処は可能だ。


「陛下、宮廷医師の方々に材料の工面をお願いしてもよろしいでしょうか。一刻を争います」


脂肪の下の「神業」


医師たちは「子供に何ができる」と懐疑的だったが、陛下の命により渋々従った。

僕は彼らの前で、大釜に魔力を流し込み、素材の成分を分子レベルで組み替えていく。


「……これを、毎日少しずつ差し上げてください。絶対に、一度に多く飲ませてはいけません。劇薬ですから」


僕は処方箋と、万が一僕がいなくなった時のための「予備のレシピ」を医師に預けた。

自分の名声なんてどうでもいい。ただ、目の前で苦しむ少女が、僕と同じ「シナリオの犠牲者」になるのが耐えられなかっただけだ。


嵐の前の静けさ


「ふぅ……。終わった終わった。さあ、帰ろうメイア」


数日後。王都のタウンハウスに「王女殿下、劇的に回復!」という知らせが届いた頃、僕はすでに馬車に乗って領地への帰路についていた。

王家からの謝礼や爵位の復活なんて話が出る前に、とっとと逃げ出すに限る。


「アルファード様、本当によろしかったのですか? お礼を言いたいと、陛下も仰っていたそうですが」

「いいんだよ、メイア。僕みたいなデブが王宮に居座っても、目をつけられるだけだ。それより、帰ったら美味しいオーク肉のパイを焼いておくれよ」


僕は馬車の座席に深く沈み込み、満足げに目を閉じた。

これで貸しは作った。しばらくは放っておいてくれるだろう。


……しかし。

病から目覚めたソフィア王女が、朦朧とする意識の中で見た「黄金の魔力をまとい、自分を救ってくれた慈愛に満ちた(ように見えた)巨漢の少年」の姿を、生涯忘れられぬ初恋として刻み込んでしまったことに、僕はまだ気づいていなかった。


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