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第二話:隠れ肥満(物理)の極秘会談


「ふぅ……。この体で馬車の荷台に潜り込むのは、もはや一種の拷問だね」


ベルンシュタイン領の商人ギルド。その奥まった一室で、僕はようやく脂汗を拭った。

本来なら、廃嫡された僕が勝手に領地を出歩くのは禁じられている。けれど、忠実なメイアと、僕の「おやつ好き」を隠れ蓑にしてくれる老執事セバスの連携プレーのおかげで、なんとかここまで辿り着いた。


「アルファード様、わざわざのお越し、痛み入ります」


深く頭を下げるのは、ギルド長のガイウスさん。

彼は僕が「ただのデブな放蕩息子」ではないと知っている数少ない一人だ。何せ、僕が匿名で卸しているポーションの純度は、王宮魔導師が腰を抜かすレベルなのだから。


「ガイウスさん、そんなに恐縮しないでください。僕はただの、居場所のない食い詰め者ですよ」

「いえいえ、稀代の薬師であられる貴方様には、これくらいが丁度いい。口先だけで何もしないどこかの貴族より、我々商人にはよほど価値がありますからな」


僕は机の上に、二つの小瓶と包みを並べた。


「今日は新商品を二つ持ってきました。一つはこれ、『魔力回復飴マナ・ドロップ』です」

「飴、ですか?」


ガイウスさんが不思議そうに包みを開ける。中には琥珀色の綺麗な粒が入っている。


「ポーションを水飴状にして固めました。一度の回復量は微々たるものですが、舐めている間、持続的に魔力を供給します。戦闘中に瓶を煽る暇がない冒険者やハンター、呪文の維持に苦労する魔法使いには重宝されるはずです。何より、軽くて割れない」

「……素晴らしい。これは戦術が変わる逸品だ」


「そして、こっちが本命です。『濃縮型・流行病の予防薬』。10倍に薄めて10日間飲み続けてください。強い薬なので、一気に飲むと体に負担がかかります。まだ本格的な流行前ですが、今のうちに広めておきたい」


僕は真剣な面持ちで付け加えた。

「これは無償で配ってください。処方を間違えないよう、ギルドから厳重に説明をお願いします」


「……承知いたしました。アルファード様の慈悲、確かに預かります」


支払いはいつものように、僕が将来「夜逃げ……いや、隠居」するための隠し口座へ振り込んでもらうことにした。


「さて、ギムレット。見つからないうちに帰ろうか」


帰り道、馬車の小窓から領都の景色を眺める。

ふと気づいたのだが、数年前までドブ臭かった側溝が、驚くほど澄んでいる。運河に至っては、本来この寒冷な土地にはいないはずの、鮮やかな錦の柄をした魚が優雅に泳いでいた。


(おっかしいなぁ。環境改善なんて魔法、使った覚えはないんだけど)


……心当たりがあるとすれば、僕が夜な夜なポーションの実験で失敗し、「捨てるのはもったいないけど、不純物が混ざったから自分では飲めない」と排水溝に流した、数千リットルの超高濃度魔力水くらいだろうか。


「ま、綺麗になったならいいか。僕のせいじゃないよね、たぶん」


僕がのんびりと鼻歌を歌っている頃。

その「浄化された運河」の水を飲んで病が完治した市民たちや、その奇跡を調査し始めた王宮の役人たちが、血眼になって「謎の聖者」を探し始めていることなど、僕は知る由もなかった。



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