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第十七話:お餅の王様と、約束のポーション


辺境の地は、かつての荒れ果てた姿が嘘のように、緑豊かで穏やかな「聖域」へと変わっていた。


アルファードは、辺境伯として、そして一人の男として大きな決断を下した。

10回のループ、どんな時も隣で血を流し、共に散っていった唯一無二の伴侶。彼は迷わずメイアを正妻として迎え入れたのだ。


そこにはソフィアも、セリカも、マリアも、そして家出同然で転がり込んできたマーガレットもいたが、彼女たちは皆、メイアの慈愛とアルファードへの献身を認め、奇妙に調和の取れた「家族」として賑やかな日々を過ごした。


しかし、幸せな時間は永遠には続かない。


二人の宝物である娘を授かった後、メイアの体は静かに、けれど確実に限界を迎えていた。過去10回の過酷な死の記憶と、今世でアルファードを支え続けた無理が、彼女の命を削っていたのかもしれない。


「また、見つけてくださいね」


「アルファード様、今世は……本当に、最高に幸せに過ごさせてもらいました」


ベッドに横たわるメイアの手は、かつてのように力強くはなかった。けれど、その瞳には11回分の愛が宿っていた。


「え、メイア、君は……もしかして」

「ええ、すべて覚えておりましたよ。……そして、私は昔から、ずっと貴方が大好きでした」


アルファードは言葉を失った。自分だけが孤独に戦っていると思っていたループの旅路。彼女は何も言わず、ただ黙って彼に寄り添い、11回分、彼がデブでも、無能でも、英雄でも、愛し続けてくれたのだ。


「メイア、僕も……僕もずっと君を愛しているよ」

「いけませんよ、アルファード様。そんなに泣いたら、お顔が台無しです。……でも、嬉しいです。もし、12回目があったなら……また私を見つけて、お餅のようなお腹を触らせてくださいね」


「ああ、きっと見つける。何回だって、君を幸せにしてみせるよ」


メイアは満足そうに微笑み、静かに息を引き取った。

アルファードの慟哭が、辺境の屋敷に一晩中響き渡った。


それぞれの道、それぞれの愛


月日は流れ、アルファードの周囲は新たな形での「幸せ」を築いていった。


セリカ:養女という立場を活かし、正式にアルファードと結ばれた。彼女は今世で最も長く彼に寄り添い、領地を盛り立てる中心人物となった。授かった長男は、アルファードの「優しさ」とセリカの「行動力」を継ぎ、次代の辺境伯として立派に育った。


ソフィア:王女としての才覚を存分に振るい、王宮と辺境のパイプ役を担った。彼女との間に生まれた双子の娘たちは、アルファードそっくりのぽよぽよとした頬を持つ、領民から愛される天使となった。


マリア:教会と密に連携し、この地を真の意味での「聖域」に昇華させた。子宝には恵まれなかったが、彼女が開いた孤児院から巣立った子供たちは、皆「お餅のパパ」と「聖女のママ」を誇りに思っていた。


マーガレット:実家を捨てた執念か、内政において凄まじい手腕を発揮。辺境の経済を立て直した功労者となった。勝気な彼女に似た二人の息子は、一人が辺境の騎士として、もう一人が彼女の実家の跡取りとして、国を支える柱となった。


エピローグ


晩年、隠居したアルファードは、村の丘にあるメイアの墓の前に座っていた。

お腹は相変わらず丸いままだ。


「メイア……。11回目、なんとかやり遂げたよ。皆、笑ってる。……僕も、案外悪くない人生だった」


彼は懐から、一本の小さなポーションを取り出した。

それはどんな傷も癒さない。ただ、飲むと「最愛の人の夢」が見られるという、彼が一生をかけて作り上げた最高傑作だ。


彼は静かにそれを飲み干し、穏やかな午後の陽だまりの中で目を閉じた。

その口元には、かつての「悪役」の影など微塵もない、ただ幸せそうな隠居老人の微笑みが浮かんでいた。


次に目を覚ます時、それが12回目の始まりなのか、それともメイアの待つ白い世界なのか、彼は知る由もない。

けれど、彼の手には、11回分の「愛」という名の最高のポーションが、今もしっかりと握られていた。



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