第十五話:鉄壁のティータイムと、弾かれるテロリスト
学園祭当日は、文字通りの戦場だった。
ソフィア王女が看板娘、聖女マリアが癒やしの給仕、セリカが「お兄様へ近づく輩」を監視する門番。この豪華すぎる布陣に、学園祭に訪れた貴族も市民も、文字通り「蛇口をひねったような」大行列を作った。
そんな中、薄暗い執念を燃やして現れたのがカイルだった。
彼は懐に忍ばせた小瓶を握りしめ、給仕用の紅茶にそれを混ぜようと虎視眈々とチャンスを狙っていた。
それは「禁断の催淫薬」。
飲んだ者の理性を溶かし、特定の主(ある種の成分……つまりカイル自身の体液等を混ぜたもの)に無条件でかしずく奴隷と化す、エロゲー顔負けの最低最悪な呪薬だ。
「ヒヒッ……これで、王女も聖女も、全部僕の……」
しかし、彼が小瓶の蓋を開けようとした瞬間、背後に「般若」のような影が立った。
「カ・イ・ル。……掃除は終わったのかしら?終わってない?、言ったわよね?忙しいのだから手伝いなさいって、それを・・・こんなところで油売って〜〜〜」
「いや、これはほら、学園の秩序が乱れているからな、えっと!」
「おしおきが足りないようね。こっちきなさい!」
「ぎゃああああ」
例の「鉄の女」が、再び彼の首根っこを掴み上げ、ゴミを捨てるような所作で連行していった。
床に転がった呪薬の瓶は、メイアが「汚いものですね」と一瞥して、即座に中身を廃棄した。……のちに、この薬が廃棄されたゴミ捨て場のネズミたちが「異常な統率力を持ってカイルを追い回す」という怪事件が起きるのだが、それはまた別の話である。
一方、僕が淹れた紅茶には、別の「特別な成分」をたっぷりと混ぜていた。
それは、十一回のループを経て僕がたどり着いた、最高純度の「魔力結界触媒」だ。
「アルフ様、この紅茶、飲むとなんだか体がポカポカして、とっても守られているような気がしますわ」
「お兄様、なんだか元気が出てきました!」
僕が淹れた紅茶を飲んだ客たちは、知らず知らずのうちに、僕の無限の魔力から生成された「超高密度な防壁」を身に纏うことになっていた。名付けて、『飲める要塞』。
学園祭の最後を飾る、夜のダンスパーティー。
ソフィア王女をエスコートさせられた僕(お腹がキツい)が、ホールで踊らされていたその時、轟音と共にステンドグラスが割れ、黒装束のテロリスト集団が乱入してきた。
「動くな! 王族を拘束する! この国は今日、我々『魔王の目』が乗っ――」
テロリストの首領が叫び、聖女マリアに向けて魔力の刃を放った。……しかし。
――ポヨンッ。
「なっ……なんだこの壁は!?」
魔力の刃は、マリアの数センチ手前で、まるで「巨大なゼリー」のような弾力のある透明な壁に弾き飛ばされた。
「は、入れない! ターゲットに近づけないぞ!」
「こちらでもだ! なんだこの感触は……お餅、か? 焼きたての餅のような弾力で、剣が通らない!」
テロリストたちが焦って四方八方に攻撃を仕掛けるが、ホールの客全員が「ポヨポヨ」とした透明な結界に守られ、一傷も負わない。
客たちは最初こそ驚いたが、あまりの安全度の高さに「……あれ、これ、アトラクション?」と、飲みかけの紅茶を片手にテロリストを観察し始める始末だ。
「アルフ様……これ、もしかして」
ソフィア様が、僕のお腹と目の前の結界を交互に見て、察したように微笑む。
「……あ、いや、僕はただ、お茶の保温効果を高めようとしただけで……」
僕がとぼける中、リーダー格のテロリストが僕に向かって突っ込んできた。
「貴様か! 貴様がこの結界の主か!」
僕は怖くて、ついギュッと目を閉じてお腹に力を入れた。
その瞬間、テロリストは僕のお腹(の結界)に激突し、凄まじい反動で天井まで跳ね飛ばされ、シャンデリアに引っかかって気絶した。
「……さすがはお兄様。腹を立てるだけでテロリストを殲滅するなんて」
セリカがうっとりと呟く。
こうして、伝説の「お餅の盾事件」により、テロリストは一人も捕縛できずに全員「自爆」で壊滅。
僕はまたしても「無能なデブ」を演じることに失敗し、代わりに「国宝級の結界師」という新たな誤解(事実)を背負い込むことになった。




