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第十四話:勇者の迷走と、紅茶に沈むお腹


勇者カイルが学園に戻ってきた時、その姿はかつての輝きを失い、どこか薄汚れた「ただの人」に成り下がっていた。

無理もない。自作自演に失敗し、本物の裏稼業に絞られ、挙句に実家(養子先)からは「次はないぞ」と三行半を突きつけられている。


「……ふぅ。これでようやくシナリオも落ち着くかな」


僕がそう楽観視していた間、僕の周りはさらにカオスを極めていた。

編入してきた聖女マリアは、僕の作ったポーションの純度に「これこそ神の奇跡です!」と涙を流して感動。教会の司教からは「聖女をよしなにお願いします(意訳:彼女の面倒を見て、ついでにポーションのレシピを……)」という重たい親書が届く始末。


さらに、タウンハウスのパジャマパーティーにはマリアが加わり、夜な夜な女子トーク(と僕のお腹枕争奪戦)が繰り広げられる。


「アルフ様、もうすぐ学園祭ですわね!」


ソフィア王女が目を輝かせて提案したのは、なんと『貴族による本格メイド・執事喫茶』。

「王宮の作法で市民にお茶を振る舞うのです!」という彼女の鶴の一声に、誰も逆らえるはずがなかった。


こうして、普段は「奉仕される側」の令息や令嬢たちが、メイアの厳しい指導の下、慣れない手つきでティーポットを握ることになった。


「背筋を伸ばして! カップを置く音を立てない!」

メイアの鬼教官ぶりが炸裂する中、クラスメイトたちは泡を吹いて倒れそうになっている。

僕はといえば、長年のポーション作りで培った「ミリ単位の計量」と「正確な温度管理」のスキルを応用し、メイアも唸る最高の一杯を淹れていた。


「アルファード様、完璧です。今すぐお店が出せますね」

「ありがとう、メイア。でも、もうお腹がいっぱいだよ……」


味見という名目で、クラス全員分の淹れたて紅茶を飲み干す役を仰せつかった僕は、今や歩くたびに「タプン、タプン」と腹から液体音が聞こえそうな状態だ。


「ヤァ、苦戦してるみたいじゃないか。この僕がきちっと優雅に指導してあげよう」


そこへ、場違いな爽やかスマイルを浮かべたカイルがやってきた。

……君、Cクラスだよね? クラスの出し物(たぶん肉体労働系)の準備はどうしたんだ。


「カイル様。おじゃまですよお茶の指導なら私が――」


僕が声をかけるより早く、背後から現れたCクラスの女子生徒(通称:鉄の女)が、カイルの首根っこをガシッと掴んだ。


「ちょっと、カイル! 他人のクラスに関わってる暇あるの?全く。自分のクラスの準備を逃げ出したと思ったら、何よその顔は! こっち来なさい、今日中に終わらなかったら明日はご飯抜きよ!」

「あ、あわわっ! 離せ、僕は選ばれし……しまって、やめ。ぎゃあああっ!」


勇敢な女子生徒によって、勇者はまるで捕獲された宇宙人のように引きずられていった。

……うん、敬礼。あの女子生徒こそ、今世の真の勇者かもしれない。


「もう、何をやっているんですかアルファードくん。早く次のお茶の味見をして!」

「ソフィア様、もうお腹が限界を……」


「お兄様、私が胃袋をマッサージして差し上げます! ぽよんぽよんですわ!」

「ああっ、聖女様、そんなお腹に手をかざして回復魔法を使わないで! 飲める量が増えちゃうじゃないか!」


学園祭前夜。

かつてのループでは、ここで魔王の影が忍び寄り、血みどろの展開になっていたはずだが。

今世の僕は、紅茶でパンパンに膨れたお腹を抱え、女子たちの黄色い声に埋もれながら、これが「平和」という名の拷問であることを知るのだった。


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