第十三話:勇者のマッチポンプは、自爆の味
「お兄様、見てください! このドレス、お兄様の瞳の色とお揃いですわ!」
「アルフ様、こちらの薄絹の衣装なんてどうかしら? 責任を取る準備はできていますわよ」
……買い物という名の戦場。
ソフィア王女とセリカ、そしてメイアの三人が女性用の高級洋服店で盛り上がっている間、僕は店の外で「荷物持ち」と化していた。
その時だ。近くの薄暗い路地から、か細い女の子の悲鳴が聞こえた。
「……またか。この展開、6回目のループでも見たぞ」
覗き込むと、そこには白い修道服に身を包んだ可憐な少女――この国の聖女マリアが、いかにもなモヒカン頭の男たちに囲まれていた。
助けに入るべきか、それとも「舞台装置」が動くのを待つべきか。
僕がそう思った瞬間、頭上の屋根から「待てぇい!」という声と共に金色の影が舞い降りた。
ガラン――べちゃっ。
「……べちゃ?」
勇者カイル。かっこよく着地するはずが、足を滑らせて落下、受け身に失敗し、頭から地面に突っ込んでいた。
「あ〜〜〜、そ〜の〜子〜を〜は〜な〜せ〜……」
ゾンビのように立ち上がった、勇者
「えっと、坊ちゃん大丈夫ですかい? 結構な音がしましたが……」
モヒカン役の男たちが、あまりの無様な姿に素で心配して声をかけている。
ああ、仕込みなんだな。
「ははは、大丈夫に決まっているだろう! この僕が、勇者の僕が……ッ!」
なんか復活したっぽい、あれだなバカは復活が早いってやつだな。
「えっと……大丈夫ですか? 頭から、かなり景気よく血が出てますが」
聖女マリアが引きつった笑顔でハンカチを差し出す。
しかしカイルは、血をダラダラと流しながらキメ顔を作った。
「大丈夫ですとも、聖女マリア様。僕はカイル……君を救いに来たんだ」
「な、なぜ私の名前を知って?……まさかのストーカー?」
「なんでやねん!・・・・えっと、まぁなんだ。ここは僕に任せて! さあ、立ち去れ、悪党どもめ! (棒)」
おいおい、セリフが硬いぞ。
カイルが剣を振るうと、モヒカンたちは「ぎゃー、や〜ら〜れ〜たー」と棒読みで逃げ出していく。
……あまりにも見え見えのマッチポンプ。仕込みが雑すぎる。
だが、そこへ予定外の「乱入者」が現れた。
「おうおう。人のシマで好き放題してくれんじゃねぇか、ええ?」
路地の奥から現れたのは、仕込みの偽物ではない、本物のガラの悪い男たち。この界隈を仕切る本物の裏稼業の連中だ。
「へ? なんだお前らは。演出にないぞ?」
「おい、そこの頭から流血してる若造。テメェ、俺らの名前を使って、勝手に『美人局』の真似事してくれたらしいな」
「あ“あ“? 何を言って……」
「ネタは上がってんだよ! 素人が小賢しい真似しやがって。おら、こっちに来い! 衛兵に突き出してやる!」
「えっ、ちょっ、待て! 僕は勇者だぞ! 離せ、この……!」
カイルは、本物のコワモテたちに首根っこを掴まれ、ズルズルと引きずられていった。
自作自演のために本物の悪党のナワバリを勝手に使ったのがマズかったらしい。
「……どうしよう、メイア」
「とりあえず、放っておくことはできませんね。あのままでは聖女様が一人取り残されてしまいます」
「そうだね。一応、保護しておこうか」
僕は溜息をつき、お餅のような体を揺らして路地裏へ入った。
「大丈夫ですか、聖女様。……あー、あの人はたぶん、大丈夫ですから。それより、僕たちと一緒に来ませんか?」
僕が差し出した(おやつ用の)お菓子につられたわけではないだろうが、聖女マリアは「……美味しそうな、いえ、優しそうな方ですね」と僕の服の端を掴んだ。
結局、洋服店から戻ってきたソフィア王女とセリカに、新しい「メンバー」として聖女が加わったのを見て、僕の頭痛はさらに悪化した。
「あら、聖女様じゃない。アルフ様、また女の人を拾ったんですの?」
「お兄様、この方もお腹枕の列に並ぶつもりでしょうか……?」
かしましさが増したどころではない。
勇者が衛兵所で取り調べを受けている間に、僕の周りにはついに「主要ヒロイン」が全員揃ってしまった。
(勇者……君、本当に何しに来たの……?)
僕は、聖女に渡した飴玉の甘さが、今の僕の状況には全く足りないことを痛感していた。




