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第十一話:勇者の迷走と、パジャマパーティーの誤算


「……はぁ。またこのパターンか」


僕は、伯爵邸の地下にある最新の調合室で、紫色の煙を上げるフラスコを眺めながら溜息をついた。

メイアが淹れてくれたハーブティーを一口飲み、王宮からの極秘伝達をテーブルに置く。


内容はこうだ。

――『例の男(勇者)、王宮に不法侵入。魅了チャームのスキルを乱発するも、衛兵全員に効かず。逃走中』


「前回のループでもあったよね、これ。あの男、自分の顔と『主人公補正』を信じすぎて、セキュリティを舐めすぎなんだよ」


実は、二年前のセリカの事件以来、僕は王家とベルンシュタイン領に、特製の「抗魅了ポーション(粉末状)」をバラ撒いておいた。井戸や食料庫に混ぜておいたそれは、今や王宮衛兵の体質そのものを「精神操作無効」に書き換えている。


勇者からすれば「あれ? おかしいな、女の子がメロメロにならないぞ?」と首を傾げているうちに、おっさん衛兵たちに囲まれるという悪夢のような展開だったはずだ。


しかも、勇者が必死に潜入したはずのソフィア王女の寝室は、もぬけの殻だった。

なぜなら――。


「アルフ様! この枕、すごくフカフカですわ! 領地の羊の毛かしら?」

「お兄様、私の枕の方が反発力が強くてお兄様のお腹に近いです!」

「ちょっと、アルフ、せっかく私がきてあげたんだから、早くきなさいよ」


現在、僕のタウンハウスの一室では、王女、妹、ついでにマーガレットによる「第1回パジャマパーティー」が開催中なのである。


「……メイア、あの子たちの騒ぎを止めてきてくれないかな。僕、薬の配合を間違えそうだよ」

「無理ですよ、ぼっちゃま。ソフィア様は『今夜はアルフ様の隣で寝る権利』を賭けてセリカ様とトランプで決闘中ですから」


……カオスだ。

前のループでは、勇者が王女を「救い出す」名目で仲良くなるイベントがあったが、今世では王女が自ら「デブの屋敷」に泊まり込みに来ている。


僕は、ふと勇者のステータスを思い出した。

顔はいい。剣の才能もある。そして、女の子をその気にさせる「魅了」のスキル。


「……まるで、出来の悪いエロゲーの主人公だな」


でも、本来のゲームなら、彼はここで王女を「落として」味方にするはずだった。

それが今や、不法侵入の変質者として指名手配寸前。一方で、悪役であるはずの僕は、ヒロインたちにパジャマ姿で包囲され、お腹の肉を枕にされそうになっている。


「ねぇ、アルフ様! こっちに来て一緒にトランプしませんこと?」

「お兄様、負けた方はお兄様に膝枕(お腹枕)してもらえるルールにしました!」


……どっちに転んでも、僕が肉体的に拘束されるルールじゃないか。


「……本当に、僕が『悪役』で、あいつが『勇者』なのか? 誰か配役を間違えてるんじゃないかな……」


僕は遠くの空を見つめた。

勇者の「自爆」が加速すればするほど、僕の「隠居計画」が、ヒロインたちに囲まれた「軟禁生活」へとすり替わっていく。


「よし、決めた。明日は勇者をさらに追い詰めるために、『精神汚染を完全に除去する石鹸』でも開発しよう」


勇者の武器を一つずつ奪っていく。それが、僕なりの「平和への道」だ。



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