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第十話:計算外の「弱すぎた」勇者


退屈な入学式が終わった。

王太子であるレオナルド王子の「貴族の義務」云々という立派な挨拶も、11回目ともなれば子守唄にしか聞こえない。


さて、クラス分けだ。

僕の予測では、勇者は「学力は低くても実技でAクラスにねじ込まれる」はずだった。しかし、掲示板を見て目を疑った。


「……勇者、Cクラス?」


そこには、貴族の嗜みである古典語や魔導数学に完敗したらしい勇者の名前があった。

一方、僕はAクラス。前世の記憶をなぞるだけの試験なんて、もはや作業だ。ソフィア王女やセリカと同じクラスになれたのは嬉しいが、静かな隠居計画からは遠のくばかりだ。


「おい、そこの豚! 待ちやがれ!」


背後から、どぶ川の底のような濁った声が響いた。

Cクラスの掲示板を殴りつけたのであろう勇者が、真っ赤な顔で僕を指差している。


「何かの間違いだ! こんな、服を着たオークの亜種みたいな奴がAクラスで、この僕がCクラスだと!? 貴族の権力で点数を買ったんだろう! 汚らわしい!」


周囲の生徒たちがざわつく。

勇者は勝ち誇ったように笑い、手袋を僕の足元へ投げつけた。


「決闘だ! どちらがAクラスに相応しいか、実力で証明してやる!」


(……ああ、きたか。10回中8回はあったイベントだ)


ここで僕は、完膚なきまでに叩きのめされ、ヒロインたちに軽蔑されるのが「お約束」だ。

僕はふぅ、と溜息をつき、お餅のような体を揺らしながら受けて立つことにした。


勝利は虚しいものさ。


演練場に集まった全校生徒。

その中心で、僕はわざとらしく息を切らしながらなまくら剣を構えた。


(よし、一発殴られたら、そのまま場外まで転がって気絶しよう。あとはメイアが看病してくれるはずだ)


「死ね、醜悪な豚が!」


勇者が剣を振り上げ、目にも止まらぬ速さ……のはずの突進を仕掛けてくる。

……はずだった。


(……え、遅い?)


僕の目には、勇者の動きが止まっているかのように見えた。

10回のループで鍛えられた僕の「視覚」と、11回分の積層された魔力。さらには日頃のポーション作りで精密化した僕の神経が、勇者の「未熟さ」を露骨に捉えてしまう。


「えいっ」


僕は転ぶフリをして、軽く足を滑らせた。

そのはずみが、たまたま(計算通り)勇者の足首に引っかかる。


「ぎゃっ!?」


勇者は勝手にバランスを崩し、盛大に地面に顔面から激突した。

さらに、僕が「おっとっと」と倒れ込んだ先には、ちょうど勇者の背中があった。


――ドスッ。


「ぶげふぉっ!?」


僕の「樽とお餅」の質量100%が、勇者の肺を容赦なく圧迫する。

勇者は白目を剥いて、ピクピクと痙攣しながら沈黙した。


「あ……ごめん、大丈夫? 起きられるかな?」


慌てて退こうとしたが、僕の服のボタンが勇者の髪の毛に絡まって、なかなか離れられない。

結果として、全校生徒の前で「座布団のように勇者を敷き続けて完勝したデブ」という、この世で最も締まらない構図が完成してしまった。


「さすがです、お兄様! 相手の勢いを利用して、一歩も動かずに制圧するなんて!」

セリカが目を輝かせて拍手を送る。


「すごいですわ、アルファード様! あえて無様に振る舞うことで、相手の油断を誘う……まさに戦術の極致ですわ!」

ソフィア王女が頬を染めて感動している。


「えっと……やっぱり私の見込んだだけはあるわ。あんなに重厚な攻撃、私でも防げなかったかもしれないもの」

マーガレット、君に見込まれた記憶はないし、今のはただの「圧死」未遂だ。


「……メイア、助けて。なんか、すごい誤解されてる」

「いいえ、ぼっちゃま。あれは、あの男が弱すぎただけです」


メイアだけは、冷ややかな目で気絶した勇者を見下ろしていた。

勇者が、弱い?

そんなはずはない。彼は世界に選ばれた主人公のはずだ。


……それとも、僕が知らないうちに「底上げ」しすぎて、この世界の基準を壊してしまったのだろうか。


「は!どこだここは、逃げたな卑怯だぞ、豚野郎」

「ハァ〜、あんた秒殺されたのよ、負けたのよ」

「え?僕が負けるはずが」

「負けたのよ、認めなさい。じゃ、あたしはこれで」

「・・・・・なぜ?僕は勇者のはず、世界を救うはず。負けた?」

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