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3.8.15


 翌朝。


 アルクと2人で役場へ行く。


 すぐにテーベの執務室へと案内された。


 テーベの方でも、すでにシチリの所在を突き止めていたようだ。

 だから話は早かった。


 シチリとコユルギを、この街の呪縛から解き放つ。


 その為の打合せを3人で詰める。

 どうやら、シチリ達が抱えていた借金は、家の担保を優に超えていた。

 家を売っても、到底払いきれない額だった。


 そこで、「株式会社」の仕組みをテーベに売る。


 結果、テーベは、仕組みを買い取った。

 それでも、シチリの家は差し押さえる。

 足が出た分だけを、テーベの息がかかる商会が、肩代わりする。


 それでいい。


 あの2人にとって、これが救済なのか、断罪なのか。

 それはわからない。


 シチリとコユルギは、この街の居場所を失う。

 それでも、この街の借金苦から、解放される。

 そしてこの先、追われることもない。




 話しを終えてから、アルクを残して、オレは役場を出た。

 カネの件は、2人に任せる。


 シチリの家へと向かう。

 途中で、広場に通りかかる。


 役に立たない石像が、花壇の上から街を見下していた。

 周囲には誰も居ない。


 あれは、おそらく先々代のプレイヤーなのだろう。

 バイスタンダーと言ったか。

 どういう意味だったか。

 あいつは、何をして、そう呼ばれるようになったのか。


 どうでもいいか。


 シチリの家は、今日も陰鬱としていた。

 家の前には、ダレも居ない。


 扉をノックすると、すぐにコユルギが顔を出した。

 昨日の夕方と何も変わらない。

 やせ細り、不幸を纏った、オレと同年代の女性。

 少しだけ、彼女から無色の気配を感じた。

 よくわからない気配。


 オレを見る眼が緩んでいる。

 やめてくれ。


 オレは希望の光でも、救世主でもない。

 ただ、必要だから、ここに来た。

 先へ進むために、シチリの記憶を借りたいだけ。


 家の中へと入る。

 手ぶらのオレを見て、ほんの少しだけ、残念そうなシチリの顔。

 今日は、なにも土産を持ってこなかった。


 代わりに持ってきた別の言葉。


「シチリ……おまえ達を助けたい」


 ……ウソだ。


 この街という鎖に絡め取られた初老の女性と、呪われかけた無垢な女性。


 目的は2人の救済じゃない。

 借金を帳消しにしてやりたかったわけじゃない。

 だがオレは、言葉を続けた。


「明日、カタセ村へ発つ」


 オレは、この2人から居場所を奪い、カタセ村へと連れていく。


 それは、オレのためだ。


 未希のためでもない。

 未希を助けたと納得したい……オレのためだ。


 そのための最後の言葉。


「おまえ達も、一緒に来るか?」


 欲しかったのは、強制でも、従僕でもない。

 オレが2人に求めたのは……


 願い。



 コユルギが、シチリに歩み寄る。


「おばあちゃん……私……」


 涙声に変わりながら、コユルギが続けた。


「わたしびと様と……ソウジと一緒に行きたい……」


 シチリは笑みを浮かべて、コユルギの頭に手を置おいた。

「そうね……」


 それからしばらく。

 時間が流れる。

 ただ静かなだけの時間。

 シチリが決意を固めるための時間。


「ソウジ様。どうか私たちも……」


 何かを捨てて、何かを得る決意をした。

 シチリの顔は、そんな顔だった。


「カタセ村まで、同行させてください」


 その言葉を言い終えたシチリは……



 とても、スッキリとした表情をしていた。



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