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3.8.01 - おとめ座


 この世界のボロ小屋のカビ臭さにも、すっかり慣れた。


 目を開けると、部屋の中は、ほとんど暗闇だった。

 ここは、ウガーラ村のガロムの小屋だ。


 藁のベッドから起き上がる。

 手探りで探し当てた手斧を腰にさす。

 ゆっくりと動き出し、かろうじてそれだと分かる、木編みの戸に触れる。

 押し開けて、隣りの部屋へ。


 ガロムがぐつぐつと、湯を沸かしていた。

「ずいぶん、早起きだねソウジ。戻るんか? カタセ村に」


「ああ、また世話になった。ガロム」


 思い出して、腰の革水筒を掴む。

 ほとんどカラだった。


「すまないが、エールを注ぎ足してくれないか」

「かまわないよ。テーブルに置いときな」


「ありがとう。少し出かけてくる」


 革水筒をテーブルに残し、ガロムの家を出る。

 外はまだ、朝焼けだった。


 カラダを伸ばしていると、声が掛かる。


「お早いですね、ソウジ。準備はよろしいですか?」


 アルクだった。

 腰には、鞘に納まった細い剣。

 薄汚れた、チュニックと毛皮のベスト。

 野盗のような身なりの上から、淡い琥珀色のマントを羽織る。


「シユフはいいのか?」


「はい。追っては迫っているでしょうが、いきなり殺されることはないでしょう。

 シユフも今は、事態を把握しています。

 捕縛されたとしても、取り乱さなければ、安全なはずです」


 それから、旅の打ち合わせをして、オレはガロムの所へ戻った。


「あれ、もう戻ったのかい」

「ああ、出発する」

「そうかい。エールは足しといたよ。あとこれも。ほれ」


 ガロムが手渡したのは、カタセ村の酒場の店主から借りたズタ袋。

 中には、黒パンが2つ。


「それじゃあ、行ってくる」

「んん。ガスコスのこともよろしくのぅ」


「ああ、そうだ」

「どした」


「ガロムは、記憶の回廊を見たことがあるか?」

「いんや。わしは見れんかったわ。見たかったんじゃがなぁ」


「そうか。今度……フィーダに見せてやってもいいか」

「おぉ、そりゃ良い。フィーダも喜ぶ。いつでも来い」


「ああ、またな」


 ガロムがオレの背中をパンパンと叩いた。

 そして小屋を出る。


 アルクと目を合わせる。

「行こう」

「はい。参りましょう。ソウジ」


 陽はまだ、昇りかけだ。

 暮れる前までに、カタセ村まで行けるだろう。


 アルクと2人で、ウガーラ村を出発した。





 灯巫子川あかりみこがわが見えてきたころ。

 オレは「魔法」のことを思い出した。


「アルク。魔法って知ってるか?」

「また、ずいぶん、ソウジらしからぬことを聞いてきますね」


「なにか知っているのか?」


「私が知ってるのは、おとぎ話です。

 50年前のわたしびと様は、魔法が使えなかったようです。

 それよりも、もっと、遙か昔。

 わたしびと様ではなく、鬼人おにびと様と呼ばれていた時代に、

 魔法を使う者がいたという伝説です」


「おにびと?」

「ええ、子供の頃に聞かされた話ですけどね。

 わたしびと様と呼ばれるようになったのは、100年前からだと言われています」


「おとぎ話には、どんな魔法があるんだ?」


「巨大な魔獣に、大木を突き刺して倒したとか、

 戦争で、何千人もの敵を、なぎ倒したとか、

 荒唐無稽な、英雄のおとぎ話です」


 ……お花や、ジャガイモを育てるような、メルヘンな話とは程遠いな。


「ですが……庶民の間ではおとぎ話ですが、

 王都に行けば、当時の文献も残されているはずです。

 国にとっては、おとぎ話ではなく、歴史ですから」


 戦いの役にたつのなら、興味はある。


「ソウジが、王都に来る理由が、ひとつ増えましたね」


 よく訓練された、アルクの笑顔。

 その表情のほうが、よほどアルクらしい。

 少し安心すら感じる。


「王様に会うのは、遠慮させてくれ」

「まぁ、そう仰らずに……」


 灯巫子川沿いに上流へと進む。


 昼に差し掛かるころに、少し休憩を挟む。

 川辺に腰を降ろし、エールのキャップを開けた。

 ズタ袋から、黒パンを取り出し、アルクと2人で食べる。


 小休止を終えて、再び歩き出す。

 そして、夕方に差し掛かる頃、オレ達は、カタセ村が見渡せる丘の上に到着した。


「私は、また、酒場でひと晩、御厄介になります。ソウジは?」


「少し、用事を済ませたい。スピカへの出発は明日の昼前でもかまわないか?」


「わかりました。それでは、私も、明日の昼までに、長旅の準備をしておきます」


 村に入り、まずは酒場へ。

 オレは、ズタ袋を店主に返す。

 アルクとは、ひとまず酒場で別れた。

 呑んでいけと言われたが、ミートパイを2つ買い込み、陽が落ちる前に、おやしろへと向かった。


 デバイスを呼び出す。

『 ELAPSED 00:08 』

 まだ、8分しか経過していなかった。


 1時間で戻れと未希に言われたが、明日から長旅だ。

 旅が始まれば、安易にログアウトはできないだろう。


 アルクを信用する気は無い。

 思惑も、知ったことじゃない。



 めんどうな旅になりそうだ。



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