3.4.08 - ただいま
アパートのゴミを増やしたくない。
捨てに行くのが面倒だからだ。
だから食事は、なるべく外で済ませている。
今夜も、中華料理屋で食事をしてから、アパートに戻った。
スマホを出して、時計を見る。
19時55分。
冷蔵庫を空けてログインデバイスを取り出す。
リチャージ時間を確認したかった。
『 World Count 24 / Login Recharge 9 』
次にログインできるのは、明日の朝4時頃か。
寝てるな。
まゆにメッセージを送る
『明日の午前10時頃にログインする。
電波を拾って、確認しておいてくれ』
ログインデバイスを冷蔵庫に戻す。
部屋の窓を開けて、タバコに火を付けた。
外は小雨がぱらぱらと降っている。
スマホが震えた。
『明日も学校いくからムリ。夜にして』
雨が部屋に入って来る。
オレは窓を閉めた。
またスマホが震える
『みきさんちで、シチューごちそうになった。おいしい』
知るか。
スマホを畳の上に放り投げる。
寝るにはまだ早い。
かといって、することもない。
布団に寝転がる。
天井からホコリが落ちてこないのは、湿っているからだろうか。
そのうちカビてくるのかもしれない。
オレは、目を閉じて、今日の話を思い返した。
未希は、小学校3年の時に、ニフィル・ロードへ渡ったと言っていた。
未希がひと晩消えたのも、その頃だ。
今回と同じように、次の日の朝、自分の部屋の床で寝ていた。
おそらく、あの時も、ニフィル・ロードへ行っていたのだろう。
……ここは、みきのおうちじゃない。
そう言い残して、縋ったのは、ニフィル・ロードだったのか。
両親の面影が色濃く残る世界。
あの日から、未希は変わった。
別人になっていた。
里子に来てからの未希は抜け殻だった。
一日中、壁か床を眺めていたが、視点は途中のどこかを彷徨っていた。
泣き出すわけでもなく、口数も少なく、誰かを呼ぶこともなく。
家出騒動から戻って、数日後。年が明けて少し経ってからの土曜だった。
たまたま近くで合流し、2人で一緒に学校から帰った日。
玄関で靴を脱いでいた時。
未希が言った。
ただいま。
お父さん。
お母さん。
未希が初めて、オレの両親を、お父さん、お母さんと呼んだ。
オレすらも、クツを脱ぐ手を止めて、視線を向けた。
照れているのが伝わる未希の後ろ姿の先に、唖然とする父と母の顔があった。
父がソファーから腰を上げるが、膝から崩れ落ち、手のひらで顔を覆った。
母は小走りで駆け寄り、膝を落として、未希を両手で抱き寄せた。
未希の両目からはポロポロと、大粒の涙があふれた。
母にしがみついた。
その日、オレんちで、初めて、未希が大泣きに泣いた。
そのまま声も涙も枯れてしまうんじゃないかと思うほどに。
母の肩に顔をうずめて泣き叫んだ。
父と母も、嗚咽を漏らして泣いていた。
オレまで、我慢できずに泣きだしてしまった。
結局4人でしばらく泣き続けたあと、すっきりした顔を順番に眺め合った。
みんな少し恥ずかしそうに微笑んでいた。
何年振りかに見た未希の笑顔だった。
しかし、その笑顔は、あまりにも大人びて見えて、オレには少し不気味だった。
何かを得て、何かを捨ててきた。
それが、あの時の未希の笑顔だった。
未希は別人になっていた。
「おかえり、みきちゃん」
その日から、未希は。
里子から家族になった。
ここまで読んでくれたアナタは…神か……
エピソード50,10万文字達成の回です。
物語は、まだまだ続きます。
次から、本格的な、「あの世界」での旅が始まります。
よろしくお願いします。




