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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
47/555

3.4.06


 駅を出て、実家へと歩く。


 まゆが寄りたいというので、途中のコンビニに立ち寄った。

 オレは店の外でタバコに火を点ける。


 1本吸い終わるころに、コンビニ袋を下げたまゆが、店から出てきた。

 灰皿でタバコをもみ消し、まゆに近づく。


「……タバコくさい」

 フードを被ったまゆの頭がのけ反る。


 歩きながら、前回のログインで発見した「おやしろ」のことを、まゆに話した。


「……総司が、今ログインしている場所は、メモリア・ノードだよね。そこは、ログインデバイスの所有者だけの世界」


「おやしろというのは、どういう存在なんだ」

「たぶん、前のプレイヤーの家? おやしろって名前なのは、総司のメモリアだけだじゃないかな」


「他は何て呼ばれてる?」

「……わたしが知るわけないでしょ。みきさんなら、たぶん自分のメモリアのこと知ってる」


 家の前に着くと、まゆはフードを降ろした。

 黒髪から仄かなシャンプーの香りが混じった汗の匂いが溢れだした。


 呼び鈴を押すと、玄関から母親が出てくる。

「あらいらっしゃい、まゆちゃん。総司もおかえり」


「……こんにちわ」

 まゆが、挨拶したようだが、隣にいるオレでも微かな声だった。


「未希は?」

「部屋にいるわよ。よかったわ。帰ってきてくれて」


 母に促されて、玄関へ。

 靴を脱いで、階段を昇る。

 未希の部屋のドアは閉じられている。


 ドアをノックして声をかける。

「未希。起きてるか?」


「うん。起きてる。開けていいよ」

 未希の声。


 ドアを開けると、まゆが、オレを押しのけて部屋に踏み込んだ。

「みきさん、みて。お菓子買ってきた」

「やったぁ。まゆさんありがとー」


 遊びに来たんじゃない……のはオレだけか。

 未希は、ベッドから出ようとしているところだった。

 白いトレーナーの上下を着ている。


 まゆが、人が変わったように、ハキハキと喋っている。


 ドアは、開けておくことにした。

 母親が、お茶を運んでくるだろう。


「ログインデバイスは、二つともオレが預かっているが、かまわないか?」

「うん。おにいちゃんに助けてもらうまで、私も使えないみたいだし」

「須藤明美とは連絡とれたか?」

「うん。すごい良い人。こんどお茶する約束した」


 オレには、お嬢様の皮を被った、やり手のオンナにしか見えなかったが。

 まぁいい。


 適当に腰を下ろし、しばらく未希とまゆとの、どうでも良い会話に耳を傾けた。

 ふたりは、コンビニ袋から菓子袋を出して、食べ始めている。


 階段を昇って来る足音。

 母親が、ドア口に立った。

 お盆にカップが3つと、クッキーの皿。

「あらー、まゆちゃんおやつ買ってきてくれたの? ありがとう」


 オレは、立ち上がってお盆を受け取る。

「じゃね」

 と言って、母親は階段の下へと消えた。

 ドアを閉めて、お盆を床に降ろす。


 ふたりの雑談が始まる前に、オレは目的の会話を始めた。


「未希、まずは、助けられた場所のことを詳しく教えてくれ」


「エレメント・ノードのわたしのおうち」

「そこには、どうやって行けばいい?」

「うん。えっとね、記憶の回廊を探して、そこを通れば行けるよ」

「記憶の回廊はどこにある?」

「う~んと……記憶の中?」


 まゆが、興味深そうに聞いている。

 オレには意味がわからない。


「どうやって記憶の中にいけばいい」


「回廊のことを覚えている住人を3人集めるの。そこでデバイスを出せば、回廊への道が開くよ」


 まて……

 集める? 3人も?


「未希、おまえはどうやって、あんなに危険な場所で生きていけたんだ?」

「危険……? たしかに、街の外に出ると危険だよね」


 街……?


「村じゃないのか?」

「みきがログインするところは、街だよ? お店屋さんもいっぱい。お花屋さんとか、果物屋さんとか」


 オレが死ぬ思いで辿り着いた村には、床屋と居酒屋しかなかったぞ……


「回廊のことを覚えてる人も、街にたくさんいたから、すぐ行けた」


「まゆ」

「ん?」

 まゆは、口にチョコを咥えている。

「解説してくれ」

「……んん」


「まず……メモリア・ノードについてはわかった?」

「ログインする最初の場所だよな」


「……そう。合ってる。でもね。

 総司と、みきさんのログインするメモリアは違う。

 総司は、なにもないけど盗賊がうろつく平原スタートのメモリア。

 みきさんは、安全な街スタートのメモリア」


「みきのメモリアはね、街の人たちが、すごく親切にしてくれた」


 力が抜けていく。

 ニフィル・ロードでの地獄の日々は、前のプレイヤーが残した遺産だというのか。

 いったいそれは、どういう試練だ。


 スナック菓子を抱える未希が言葉を続けた。


「あ、それとね、おにいちゃん」

「なんだ」

「エレメント・ノードは、4つの中から選ぶの」

「ああ、そんな話も、まゆから聞いたな」

「同じエレメントを選ばないと、みきのおうちには、行けないからね」

「どのエレメントを選べばいい?」

「えーと…………」


「忘れたのか」


 まゆが、菓子を運ぶ手を止めた。

「……6ヶ月前だと……圧縮される記憶の感覚は50年近く前。忘れてても普通」


「だいじょうぶだよ。みきね、日記付けてるから」


 未希は立ち上がり、クローゼットを開ける。

 ごそごそと、1冊のノートを取り出した。


「あれ……?」

「どうした」


「だれかこれ触った? あ、もしかして……おにいちゃん、これ見た?」


 行方不明になった日の朝。

 オレは、この部屋に来て、あのノートを見た。


「すまん。ちょっと見た」


 未希の顔が赤くなる。


「おにいちゃん……見ても、見たっていわないでほしかった……」


 未希が後ろを向いて、ノートをめくっている。

 どうしろって言うんだ。


「あ、まゆさんは、見てもいいよ」

「やった」


 オレは、情報をまとめる。


 オレが最後にログアウトしてきたのはメモリアだ。

 未希を探すには、そのメモリアで、記憶の回廊を呼び出し、エレメント・ノードへ行く必要があるということ。

 そのために、記憶の回廊の姿を知る住人を3人集める。


 ムリだろ?


 だって、オレのメモリアは……

 最後に記憶の回廊が出現したのは、もう50年以上前ということになる。

 つまり、50歳以上の人物を探さなくてはならない。


 記憶の回廊のことを覚えている老人を、あの死と隣り合わせのメモリアで探せというのか?



 冗談だろ……?




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