3.4.04
「なんか、ケンカしてるみたいなんで、見物に来たんス」
ブロック塀越しのタツに質問する。
「タツ、おまえ、スマホどうした?」
「え?」
達郎がポケットからスマホを出す。
「あ……電池切れっす」
……このやろう……
「ねーねー、達郎、この人だれ? すっげぇ強そう」
達郎の横にもう一人、若そうな男。
頭は坊主だ。
頬や、口元に古い切り傷の跡がある。
目つきが悪く、目頭にそこそこ筋肉がついている。
ほとんどヤクザの顔つきだ。
「名前くらい知ってるだろ? 総司さんだ」
「あー……えーと……ごめん、知らない」
「とにかくタツ。話を聞かせろ」
「え……? あれ、どうしたんすか……なんか怒ってます?
あ、こいつおれのダチっす。すぐ近くに住んでるんで、そこで茶でも」
「この3人は?」
オレは、後ろで転がっている3人を、指さして尋ねた。
「いやぁ……? 見ない連中ですね。誰だろ?」
どうやら……
やらなくても良いことに、クビを突っ込んだことだけは分かった。
転がってる3人は放置。
達郎の案内で、第3ビルのすぐ裏にある安アパートの1室に案内された。
表札は無いが、ポストに小さく「折田」とあった。
部屋に入って、適当に座る。
まず坊主の男がオレに声を掛けた。
「総司さん? でしたっけ。自分とタイマン張ってください」
無視して、達郎に質問。
「タツ、ここで何してた?」
「いやぁ、朝まで遊んで、さっき起きたことろっス
こいつは、特小から出てきたばっかりなんすけど、幼馴染なんすよ」
「おイッ……総司だっけ? シカトすんなよ? おれんちだぞここ? なぁ?」
オレは、スマホを抜く。
ヨシヒロに電話を掛けると、すぐに繋がった。
「オレだ。タツを見つけた。無事だ」
「ほんとっすか! よかったです。どこですか?」
「チッ……」と、坊主が舌打ちしてオレの髪の毛を掴んだ。
オレは、その腕を捻りあげる。
「イッテテテテテテッ……!!!」
腕を放してやる。
「ちょっとまってろ」
オレは、電話口のヨシヒロにそう言ってから、スマホを達郎に渡す。
達郎がオレのスマホで会話を始めた。
「ん? あ、ヨシヒロ? どうした? なんかあった?」
坊主がちゃぶ台の上にあった、ナイフを掴む。
こいつが、少年院を出た折田なんだろう。
折田は、座っているオレにナイフを構えて飛びかかってくる。
足元に敷いてあった布団を引っ張る。
折田は、勢いよく後ろに転び、後頭部をちゃぶ台にぶつけた。
坊主頭を抱えて、転げまわっている。
達郎は、電話を続けている。
「え、マジか……あ~……しょうがねぇなぁ。わかった。
あとで、石鹸とタオルだけ差し入れてくんね? このまま行くわ。
……うん、頼むよ」
達郎が電話を切って、スマホをオレに返した。
「総司さん、すんません。おれ切符でちゃいました。
しばらく泊まり込みになりそうです」
「ひったくりだとか、恐喝の件か?」
「あ、知ってました? そうなんすよ。
まぁでも、おれらは関係ないんで、たぶん2週間で出られると思いますけど」
「こいつは?」
オレは、まだ、頭を抱えている折田を見て、達郎に聞いた。
「あ、こいつも違いました。
こいつ、頭おかしいんですけど、基本、ケンカバカなだけで。
恐喝とかするような奴じゃないんすよ」
「タバコ吸っていいか」
「あ、どうぞどうぞ」
「おれんちだ、つってんだろ……なに勝手に……」
坊主の折田が、頭を抱えて涙目でオレを睨んでいた。
「恐喝犯の目ぼしはついてないのか?」
「それが、この街の人間じゃないみたいで、
黒いセットアップの3人組ってことだけしか分かってないです」
タバコの煙を吐き出す。
「タツ」
「はい?」
「相談て、なんだ」
「あ、そうでした。
いやぁ、おれパクられそうだったんで、
しばらく総司さんに、ガキ共のケツもってくれないかなーって」
「……どいうことだ……」
「総司さん、ギャングのリーダーやりません?」
「無理だ……その頼みだけは聞いてやれない……」
「ですよねーぇ……でもそこをなんとか……」
それからオレは「連絡先教えろ」という折田と、SNSを交換した。
バカだが、何かの役に立つこともあるかもしれない。
達郎と2人で、折田のアパートを出る。
「じゃ、しばらく連泊してきます」と達郎は、その足で警察署に向かった。
もういい。
ひったくりも恐喝も、オレの知ったことじゃない。
ギャングの面倒なんて見るわけないだろが。
先に雇用主にだけメッセージを送っておく。
『第3ビルの件、ガキを追っ払いました』
『そうか。サンキュー』
時計を見ると、14時30分。
次は未希の所だな。




