3.4.03
「おまえらは、ついてくるな」
「同行します!」というヨシヒロを追い返して、独りで第3ビルへ向かう。
警察にマークされてるギャングのガキ共なんかと歩けるかよ。
オレまで警察に怪しまれたら、仕事をクビになる。
いまの仕事は失いたくない。
軽くメシを済ませてから第3ビルへ。
ビルの入り口が見えるコンビニに、ガラの悪い派手な服装の4人のガキがいた。
ヨシヒロが手配している見張りだろうか。
目立ち過ぎだ。あれじゃコンビニでたむろしてるただのガキだった。
無視して、ビルに向かう。
スマホを抜く。
時刻は、13時15分。
達郎に掛けたが、「電波が届かない」だった。
次に雇用主にメッセージを投げる
『教えてください。第3ビルの管理はどこの業者ですか?』
返事が来るまで、軽く周囲を観察したが、他に、ビルを監視している風な奴は見当たらない。
『平成京コンサルだ。どうした?』
第3ビルは普段は無人の薄汚れたビルだが、普通に所有者がいて管理されている。
普通じゃないのは、その管理業者。
平成京コンサル。ヤクザのフロント企業だ。
『近所のガキが、中でなにかしてるみたいなんですけど、予約入ってますか?』
使用目的は、取引や監禁。別荘帰りの簡易宿泊所にもなる。
ロクでもないこと専用のビルだが、業界では色々と需要がある。
そのビルで監禁されているとなると、ヨシヒロのようなガキ共では手が出しにくいのも事実だった。
『分かった。調べよう。ガラスが割れていたりするようなら、普通に警察に通報していいぞ』
『わかりました。ありがとうございます』
このご時世、フロント企業といえども、まっとうな会社だ。
建物も正当な書類が用意され、合法的に管理されている。
もちろん中は指紋も残さず綺麗に掃除する。
そして、こういった管理物件が荒らされているようなら報告するのも、オレみたいな下っ端のサービスの1つだ。
入り口のガラスドアに手を掛けたが、カギが掛かっていた。
ブロック塀伝いに裏に回る。
ガラスが破られているようなところも無いようだ。
立ち止まり、タバコを出して火を付ける。
達郎はどこだ?
後ろで、じゃりっと、小石を踏みつける音がした。
振り向くと、18~19歳のガキが3人。
ジャラジャラとアクセサリーを付け、3人とも、黒っぽい色でセットアップしたジャージみたいな恰好。
真ん中のガキはシャツの7分袖から、タトゥーがはみ出ていた。
真ん中の男が最初に口を開いた。
「おにーさーん、なにしてんの? こんなところで?」
無視してタバコを投げ捨て、靴底でもみ消す。
「あ、ポイ捨て? いまこの人! ポイ捨てしたよ? ねぇ? 見た?」
真ん中の男がオレを指さして、左右の男に言葉を掛けている。
「おにいさん、ダメだよ、ポイ捨てしたら。ここ人様の敷地だぜ?」
スマホが震える。見ると雇用主だった。
『確認したが予約は無しだ。ガキが悪さしているようなら知らせろ』
「え、マジ? 無視してスマホって、どういう神経?」
ニフィル・ロードの盗賊4人組は、言葉を交わすこともなく四方からオレとガスコスを包囲した。
コイツらは、いまも横並びで、ヘラヘラとじゃれ合っている。
「まぁいいけどさ。お金出してってもらおっか? うちらが掃除しておくからさ?」
ああ……めんどくせぇ。
逃げたいが、情報欲しさに雇用主に連絡してしまった。
これでビルが荒らされたら、オレがやられる……
「ねぇ? シカト? おにーさん?」
真ん中の男が近づいてくる。
オレは、正直、ケンカは得意じゃないと思う。
格闘技を習ったこともないし、まともにカラダを鍛えるようなことをしたこともない。
男が、間合いに入る。
オレの襟を掴もうと、右腕を伸ばしてくる。
その右腕を掴んで、捻り上げる。
「うぎ、いっ」
悪いが3対1だ。
男が「痛い」といい終わる前に、オレはその手首の関節を外した。
後ろの2人も驚いたようだが、その目に怒気が宿った。
「お、こいつっ……」
俺から見て、左の男が先に動く。
ニフィル・ロードの盗賊や、クマと比べたら、なんの緊張感も無かった。
このケンカには、殺意が微塵もない。遊びだ。
左の男が近づくと、右脚を畳んで、蹴り出そうとしていた。
オレは、右脚を大きく踏み込み、けり出す前に、右こぶしを男の顔に叩きつけた。
片足で体制を崩したその男は、そのまま横倒しに地面にカラダを打ち付けた。
残った、右の男を見ると、右手にナイフを抜いて向かってくる。
ナイフだ。笑える。
記憶は薄れているが、ニフィル・ロードで鉈や手斧を持った男と殺し合いをしたのは、2~3日前。
オレは、振りぬいた右腕の勢いのまま、カラダを左に回転させて、左脚の後ろ回し蹴りで、ナイフの男の顔面を蹴り飛ばした。
男はのけ反ったが、すぐに態勢をもどし、オレの右胸あたりを狙ってナイフを突き出した。
コイツは、まぁまぁやるようだ。
突き出したナイフを持つ右腕の脇が少し浮いている。
右胸への突き出しはフェイントで、そのまま左に払うつもりだろう。
オレは、重心を右に傾け、ナイフを左に躱した。
男の伸びた腕を左手でつかみ、右手でひじの付け根を少し強めに叩く。
「いぎゃあ」
男は、悲鳴を上げてナイフを落とし、内側の上腕筋を抑えてうずくまった。
たぶん、筋肉の筋がブチブチに切れている。
しばらく腕は振りまわせないだろう。
ケンカは終わった。
オレは視力がいい。
相手の動きが見える。予測できる。
だがオレは強くない。だから、一瞬で終わらせる。
さて。
ガキ共の尋問の時間だ。
オレは、またタバコに火を付けて、手首を抑えてうずくまってる男に近づこうとした。
「あれ?
総司さんどうしたんすか?
なにしてんすか? こんな所で?」
後ろから声を掛けられる。
振り向くとブロック塀の上から顔を出していたのは、達郎だった。
「いや……タツ……
おまえは、なにしてんだ、そんなとこで……」




