表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/22

1.3


「お腹空いてる? なにか食べる?」


 少し落ち着いた母が、ダイニングに歩いていく。

 何も答えず、靴を脱ぎ、母を追う。


 外から「チチチ」とスズメの鳴き声がしたが、それ以外に音は無く、静まり返っている。


 母が、テーブルの椅子を引いて腰かける。

 キッチンにいちばん近い右の奥が母。

 オレの椅子は、母の向かい。


 母は、深い影のこびり付いた目で、ぼんやりとオレの椅子を眺めていた。


 母の手元に、カラのマグカップがひとつ。

 カップの淵に、乾いて固まったコーヒーがこびり付いている。


 最初に母が口を開く。

「なにか飲む?」


 問いには答えず、問いかけた。

「未希はいつから?」


「学校から帰って、晩ご飯も食べて……

 そのあと、お風呂に呼んでも降りてこなくて。

 部屋を見に行ったら、居なかったの」


「何時ごろ?」

「8時……を少し過ぎたころかしら」


 時計を見る。もうすぐ朝の9時。


「未希の靴は?」

「全部あると思うんだけど……」


 未希は裸足で? 夜にどこへ?


「未希の部屋を見ていいか」


 答えを待たずに、階段に向かう。

 昇りきると、廊下の手前が未希の部屋。


 ドアは内側に開いていた。

 カーテンは閉じておらず、朝の光が部屋に落ちている。


 部屋に入ると、微かな気配だけを残す妹の匂い。


 窓を見ると、カギは閉まっていた。


 スマホを抜いて、未希に電話を掛けてみる。

 何処かでバイブレーションの音がした。


 ベッドに近づく。

 シワひとつなく綺麗に整えられている。

 スマホは枕元で震えていた。

 画面表示は「おにいちゃん」。

 そのスマホに寄り添うように、ピンクのくまのぬいぐるみが転がっている。

 拾い上げると、石鹸とシャンプーの混じる匂い。

「未希はどこいった」

 問いかけても、微動だにせず。

 スマホは留守番電話サービスに転送された。


 ぬいぐるみを戻し、勉強机に近づく。


 整頓された机に、黒い名刺入れのようなものが置かれていた。

 拾い上げてみると、見た目より重く、手触りはスマートフォンに近い。

 名刺入れではなく、電子機器のようだ。

 背面になにか張られている感触がある。


 裏返すと、親指ほどの大きさの白いシール。

 印刷されているのは、アルファベットの「S」だろうか。


「床に落ちていたから、拾って机に置いたのよ」

 後ろから聞こえた母の声。

 振り向くと、ドアのところに母が立っていた。


「あのね……警察に、捜索願いを出してくるから、

 総司、留守番しててくれる?」


 警察は動かないが……それでも、出さないよりは良い。

「わかった」

 頷きながら、「一緒に行こうか」と言いかけてやめた。

 手にしていた電子機器を机に戻す。


 母の気配が、階段の方へと消えた。


 次は、クローゼットを開けてみる

 もわっと、防虫剤の匂い。

 ここに隠れていたりはしないかと思ったが、未希の姿は無かった。


 コートに冬服、夏用の薄着まで一通り揃っているが、未希の服は多くない。

 右から左へ視線を這わせていく。

 古く薄汚れた段ボール箱が目に入った。


 これはたしか……


 遺品だ。

 未希の実の父と母の。

 段ボールの口を広げる。


 一番上は、1冊の薄いノートだった。

 それを手に取ると、名刺入れサイズの黒い電子機器が目に入る。


 その下には、アルバムや書類ケースが詰め込まれている。

 どれも、きちんと揃えられている。

 ノートの表紙には「メモリア」と幼い文字で書かれていた。


 オレはノートを開いた。

 日付の下に字が並ぶ。

 最初の日付は何年も前で、書かれている文字も幼い字だった。

 日記だろうか。

 ページをめくっていくと、最後の記述は3日前。


『パパとママのことを知っている人がいた

 足跡をおいかけて、やっとみつけた

 また明日も聞きにいこう

 パパとママに会える方法をおしえてもらう

 この世界のこと、いつか、おにいちゃんにも話したい』


 パパとママ?

 この世界?

 どこの世界だ?


 何のことだろうか。

 ノートは箱に戻した。


 黒い電子機器だけを持ち、机に戻る。

 

 見比べると、やはり同じものだった。

 裏返すと、ここにもシールが張られ、「K」と印刷されていた。

 どこか開けるところは無いかと探るが、見当たらない。


 ところが、しばらく触れていたら、表面に文字が浮かび上がった。

 『 World Count 23 / Waiting for Login 』

 文字は、左半分が白、右の『Waiting for Login』は赤。

 

 文字に触れても何も変わらず、上下に動かしても変わらない。

 諦めて、遺品箱に戻そうと部屋を横切ろうとしたとき。


 『Waiting for Login』が、緑色に変わった。


 そして、その下。


 『 Join Me 』


 それは、触れるのを待つかのような短い単語。



 Join Me ―― こっちに来て



 オレを呼んでいるのか?


 ……未希。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ