3.2.10
須藤明美と、並んでカウンターに座る。
ストレートヘアから香る、気品のある柑橘のフレグランスが、彼女の存在を立体的に彩っていた。
バーテンの男に「ジンリッキーで」と、声をかけてから、彼女が最初に言葉をかけてきた。
「妹さんの件、任せてください。お名前はなんて?」
「変な頼みで済まないな。妹の名前は田心未希」
「みきちゃんですね。15歳って聞いてましたけど」
「ああ。なにも事情を知らずに2日間泊めたことにしてくれればいい」
そのあとオレ達は、細かい情報を詰めて、連絡先を交換した。
迷惑料だと言って、2万円を彼女に渡す。
要らないと最初は断ったが、帰りのタクシー代にしてくれと言うと、彼女はそれを受け取った。
「約束があるんで、今夜はここで」
彼女は言うと、20分もしないうちに、グラスを空けて店を出て行った。
「あらぁ、総司ちゃん、なに? フラれちゃったの?」
近づいて来た女店員が、またオレを茶化す。
女店員を無視してタバコに火を付ける。
オレは、残り香をタバコの煙で塗り潰した。
これで、家出の言い訳の下準備は終わった。
あとは、未希に伝えるだけだが、今は入院中でスマホは家においたままだろう。
どうしようか。
時計を見ると、時間は19時30分。
病院の面会時間も過ぎている。
オレは、スマホを抜いて、まゆにメッセージを送った。
須藤明美との打合せの内容を、まゆにも共有しておく。
『わかった。先にまゆさんに会うようだったら、わたしが伝える』
と、まゆからの返信を見た後に、スマホをポケットに戻す。
……帰るか。
しばらく何も考えずにグラスを傾け、呑み終えるとオレはアパートに戻ることにした。
アパートに戻ったが、なにもすることがない。
オレは冷蔵庫を開けて、ログインデバイスを取り出した。
未希のデバイスは、エラーのままだった。
オレはアパートの部屋の真ん中に立つ。
ただ暇だったからという理由だけだ。
右手に未希のエラーデバイスを持ち、左手に持ったログインデバイスを水平に構える。
構えたデバイスに『 Join Me 』の文字が表示された。
ただ暇だったから。
オレは、『 Join Me 』を押して、ワールドカウント24へログインした。
あとがき#1
~総司と達郎の会話~
「オレのことは、ほっといてくれ」
「だめですよ、総司さん、そんな態度じゃ……」
「どうしろっていうんだ」
「べつにどうもしなくてもいいんですけど、打合せ通りに例のアレだけ…」
「あ…まってくださいよ! 『 星 』 忘れてますよ! 総司さん!」
(続く)




