3.2.08
電話を掛けに行く前に、ポケットのデバイスを取り出した。
「これは、未希のか?」
エラー表示のデバイスを未希に見せる。
「うん、そう。でもまだエラーのまま? なんで?」
「みきさんは、どうやって戻ってきたの?」
まゆの問いに、未希は首をかしげた。
「おにいちゃんが、助けてくれたよ」
ああ……
少しは、オレじゃないヤツが……と期待していた。
オレじゃないなら、オレがなにもしなくても未希は助かる。
しかし、助けたのがオレってことは、未希を助けるまで、ニフィル・ロードに通いつめなきゃならない。
未希の問いは、その事実が確定したってことだ。
「まぁいい。こっちは、誰のだ?」
もう1台のデバイスを未希に渡す。
『 World Count 24 / Waiting for Login 』
すでに、30時間が経過し、ログインできるようになっていた。
「それは、パパのデバイス。みきが使っているのは、ママのやつ」
……ということは「渡し人様」は、未希の父親か。
「ふふ、みきさんて、自分のこと、みきって言うんだ。かわいい」
めずらしく、まゆの顔がほころんでいる。
「えへへ。みきは自分の名前が、大好きだから」
未希は、だれとでも仲良くする能力があるが、まゆとは、それ以上に気が合うようだ。
まゆには、ゲームのリア友だったか。
知らんが、ほっといても大丈夫そうだ。
「ちょっと、電話かけてくるから。これたのむ」
デバイス2台を2人に預けた。
「あとの説明も、たのむ」
まゆに言い残して、未希の病床のカーテンを閉めた。
病室を出て、電話が掛けられる場所の案内を探すが、この病院は広かった。
どこにあるのか分からない。
面倒だ……タバコも吸いたいし、外に出よう。
ニフィル・ロードか……
にしても、未希は、よくあんなところで、生き延びたな。
オレでもギリギリだ。
1秒の差で、クマに食い殺されるところだった。
あとで、コツを聞いておこうか。
ああ、そうか……なるほど。
どうやら、まゆの計画は全てうまくいっている。
先に、未希のところへ訪れたのは、正しい選択だった。
ゲームみたいな世界……だったか。
ヤクザのことはヤクザに。
ゲームのことはゲーム好きに。
考えていたら、エントランスに辿り着く。
そのまま病院を出て、しばらく歩く。
5分くらいか。歩くと、コンビニが見えた。
灰皿もある。
まずは、タバコを出し火を点ける。
煙を吐き出しながらスマホを出して、達郎を呼ぶ。
「あ、どうも、総司さん。どうしました? 明日の件ですか?」
「いや。それとは別に頼みたいことがある」
「なんですか? なんでもどうぞ」
「だれか、家出の口裏を合わせてくれそうなヤツ居ないか? 女性がいい」
「そんなの、いくらでもいますよ。急ぎですか?」
「ああ。できれば今夜」
「わかりました。そしたら、明日の話も今夜やっちゃいましょうか。役に立ちそうなオンナも連れていきます」
「わかった。助かる」
今夜20時にFDで待ち合わせる約束をして電話を切った。
スマホを戻す前に時計を見ると、12時45分。
母親が戻ってくるのは13時頃だろうか。
タバコをもみ消してから、とくに用もなくコンビニに入る。
未希になにか買ってやろうかと思ったが、言い訳のシナリオが完成するまで、未希は狸寝入りだろうな。
しばらく、棚を見て回ったが、結局何も買わずに店を出て、病院に戻る。
エントランスまで戻ると、外来の客がさらに増えていた。
看護師達が、忙しそうに行き交っている。
未希の病室まで戻り、カーテンを開けると、2人はなにやら談笑していた。
母親はまだ戻っていない。
何を話していたのかと聞くと、まゆは、無謀にも、「 Join Me 」をタップしようとしていたらしい。
しかし、押せなかったようだ。
それどころか、「 Join Me 」すら、表示されなかったと言う。
「カウントの途中だと、所有者の変更はできないみたいだね」
「もうこのデバイスは、オレ以外には使えないのか」
「違うよ。たぶん死ぬか、クリアすれば変更できると思う。後で調べてみる」
まったく……ややこしいことだらけだ。
そろそろ、このデバイスの取扱説明書が欲しい。
「ん……っ」
まゆが、顔を上げた。
「どうした?」
まゆが、制服のポケットからスマホを出した。
スマホは振動している。
「アラーム……そろそろ、戻って来る」
「なにが?」
「みきさんのお母さん」
まったく……まゆも、したたかなヤツだ。
「未希」
「ん? なぁに、おにいちゃん」
「家出の口裏合わせの証人は手配している。そのつもりで母さんと話してもいいが、明日、オレと連絡がつくまで濁らせておけ」
「わかった……女の人だよね」
「もちろんだ。男の家に泊まってたなんて言ったら、父さんが怒り狂うぞ」
「うん。ありがとう」




