表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/168

3.2.06


 駅前から、タクシーに乗る。

 病院はここからでも、さほど遠くない。


 先にまゆが乗り込み、オレはそのあと。

 運転手に病院の名前を告げ、タクシーは走り出した。

 

 まゆが抱える紙袋。

 そこから、石鹸の香りが漏れ出し車内に漂っている。

 タクシーの運転手には、オレ達はどう見えているのだろう。


 隣りでごそごそと音がする。

 まゆはリュックからタブレットを取り出して、何かを読み始めた。

 前髪が邪魔なのか、左手でかきあげて、耳に引っかける。

 耳から白いワイヤレスイヤホンが垂れ下がっていた。


 オレは背もたれにカラダを預けて、頭をカラにする。

 最近、いろいろ在り過ぎている。

 

 スマホが震えている。


 取り出すと、達郎だった。

『すいません、ちょっと相談にのってほしいことがあります。明日とか、空いてますか?』


 まぁ……今回の件では、達郎にも世話になった。


『遅い時間でもいいか』

『ありがとうございます。明日の夜22時は空いてますか?』

『わかった。FDへ行けばいいか』

『おねがいします!』


 揉め事の仲裁かなにかだろうか。


 半年くらい前か。

 山川田病院まで、バイクでこけた達郎の見舞いに行ったのを思い出した。

 あの時は、達郎のオンナと2人でタクシーに乗っていて。

 達郎のオンナが今日と同じようにソープフラワーを抱えていた。


 フフッ……

 あの時は、ソープフラワーの石鹸の匂いが、あのオンナのキツイ香水の匂いにかき消されていた。


 まゆの顔が視界の隅に入った。

 ニヤニヤしているオレの顔を、怪訝そうに覗き込もうとしている。


 ……まゆに、気持ち悪がられたようだ。



 しばらくすると、タクシーは病院に到着した。


 立地は少し郊外だが、複数の建物が連なるそこそこ大きな病院だ。

 オレも何度かお世話になったことがある。


 オレ達は、大きな2枚ガラスの自動ドアを通り、待合用のベンチが並ぶエントランスを進む。

 ベンチは、年寄りで、ほぼ埋まっていた。


 受付へと向かっていると、後ろから母の声。


「総司?」


 振り向くと母。 

「あら、まゆちゃんも。来てくれたの? ありがとうね」

 まゆが、ぺこりと頭を下げる。

 制服を着た高校生が、平日のこんな時間に病院に居るのだが。

 そこまで気が回らないのだろうか。


 母親は、オレ達を受付まで連れていく。

 付添人用のカードが入った、吊り下げホルダーを2人分用意してくれた。

 これなら、時間を気にせず、未希の所へ行ける。


「みきちゃん、また寝ちゃったんだけどね」


 オレ達は、母に案内されて、未希の病室まで行く。

 未希の部屋は大部屋だった。

 病床は左右に合計6つ。

 水色のカーテンで区切られた区画が均等に並んでいた。


 母が歩く先は、入って右側の奥の窓際。

 カーテンを開けると、未希は右腕に点滴を刺して仰向けに眠っていた。


「あの……これ……」

 と、まゆが、持ってきた紙袋を母に渡す。

「あらまぁ、かわいい。ありがとう、まゆちゃん」


 母は、ブーケを袋から出し、未希の枕元にある棚に飾った。

「いい香りね」

 ブーケを眺める母に、声を掛ける。 

「未希は、なにか話したか」

「目を覚ましたとき、ごめんなさいって。そしたらまた眠っちゃったわ」

「医者は?」

「もう大丈夫だろうって。早ければ明日には退院できるって」

「そうか」


「でね、総司、悪いんだけど……

 未希ちゃんの着替えを取りにいきたいの。

 1時間くらい掛かっちゃうかもしれないけど、少しいい?」


「ああ、かまわないよ」

「じゃあ、お願いね」


 母親が行こうとするところで、1つ思い出した。

 預かっていた家のカギ。

 アパートに置いてきてしまった……


「母さん、家のカギどうしよう」

「いいわよ。総司が持っておきなさい」

 と、言い残し、母は行ってしまった。


 病院は、どうやらお昼の時間で、独特の給食の匂いが充満していた。


 ベッドと窓の隙間にある、1つしかない丸椅子に、まゆが腰かける。


 さて、どうしようか……と、悩んでいると。



「みきさん……はじめまして……まゆです」

 まゆが、未希を覗き込んで、言葉をかけていた。


 ん……?


「えへへ……」

 と、掛け布団の襟布の下から、未希の声。


 未希は、起きていた。



 どうやら、狸寝入りをしていたらしい。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ