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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
21/250

3.2.04


 今夜の職場は、街外れの薄暗い駐車場だ。

 コンビニで、菓子パンとコーヒー牛乳も買っておいた。

 時計を見ると、16時50分。

 指定時刻の10分前。


 ポケットから、スマートキーを取り出して、ボタンを押す。

 駐車場の隅から、キュッキュッという音。

 見ると、ヘッドライトが点滅し、ここだと合図している。


 後部座席のドアを開け、シートに身を潜めた。

 趣味の悪そうな、芳香剤の匂いが鼻につく。


 スマホを取り出し、雇用主にメッセージを投げる。

『現場に着きました』


 数分で返信。

『クルマの中から正面のビルの出入りを監視』

『帽子を被らず入る者、および警察が近づくようなら連絡』


 メッセージを消す。

 そのまま後部座席の中央に座り、ビルの入り口の監視を始める。

 念のためドアロックを全て確認。

 おそらく、このクルマの保全も、業務に含まれている。

 気付かれにくいように、ギリギリ見える高さまでカラダを沈め、フロントガラスの先を眺める。


 しばらく眺めていると、黒いスーツを着た男がコンビニ袋をさげて、ビルに近づいた。

 およそ似つかわしくない野球帽を袋から取り出した。

 それを被りビルに入っていく。

 中でなにが行われているかは、オレの知るところではない。

 むしろ、知らない方がいい。

 まぁ、あえて予想するとしたら、拉致監禁。


 ビルの監視を続ける。


 暇だ。

 何も考えなくて済むが暇だ。


 オレは、通行人の数を数える。

 飽きたら、ビルのガラスに映る信号機の色が変わる回数を数える。


 別の男が、入り口で野球帽を被って入っていく。


 スマホが震えた。

 メッセージの着信。

 時計は、21時15分。

 仕事の終わりを期待して、画面を見た。


『あした何時?』

 まゆだった。


 入り口から眼を逸らさないように、ビルの横にスマホをかざして、タイプする。

『11時くらいでいいか? 前と同じ駅前で』

『わかった。みきさんが倒れた理由わかったかも』

『どうしてだ?』

『あした、はなす』


 スマホをしまう。

 仕事はまだまだ終わらない。



 0時を少し過ぎた頃。

 男が4人。

 いずれも黒いスーツを着て早足で、ビルに近づく。

 手には何も持っていない。

 帽子も被っていない。


 スマホを取り出して、メッセージを準備した。

『スーツの男が4人』

 男たちが、そのままビルに入る。

 オレは送信ボタンを押した。


 それから十数分。


『撤収だ。カギはいつもの住所にA4で。ごくろうさん』

 雇用主からのメッセージだった。

 メッセージを消して、腰をかがめたままクルマから降りる。

 ドアのカギを確認し、触れた箇所を拭き取ってから、クルマから離れた。


 帰り道。

 コンビニで、A4厚紙封筒とボールペンを買う。

 宛先は、指定されているいつもの住所。品名は「文具」でいいか。

 クルマのスマートキーと、文具であるボールペンを放り込み、ポストに投函。


 今夜の仕事が終わった。


 アパートへ帰ろう。

 まだギリギリ電車は動いている。


 オレは、駅に向かって駆け出していた。




 翌日。

 目が覚めると、外は雨だった。

 タバコを吸ってから、キッチンで、顔を洗う。

 冷蔵庫から、コンビニ袋をとりだし、2台のログインデバイスをポケットに入れる。


 時計を見ると、10時20分。

 傘はと、玄関を探すと、黒い傘が1本。


 オレは部屋を出て、傘をさして駅へと向かった。


 ふいに、子供の頃のことを思い出した。


 あれは12月の頃。

 未希は小学3年生。

 オレは中学2年だった。


 あの日も雨が降っていて、オレは傘もささずにずぶ濡れの学ランを着て、商店街を歩いていた。

 すると、学校帰りの赤い傘を差した未希が、ひとりでオモチャ屋のショーウインドウを眺めていた。


 未希が見ていたのは、ピンク色のクマのぬいぐるみ。

 しばらく眺めていたが、店から出てきた子連れに驚いて、その場を離れていった。


 未希は家で、何かを欲しいと言ったことがほとんどない。

 稀に遠慮がちにねだるのは、学校で使うエンピツやノートだった。


 未希が立ち去ったあと、ショーウインドウに近づいて、クマのぬいぐるみを見る。

 値段は、それほど高くない。

 サイフを広げると、ぎりぎり買える金額だった。


 オレはずぶ濡れのまま店に入り、迷惑そうな顔をしている店員に、あのぬいぐるみを買いたいと告げた。

 家に帰り、雨に濡れたままのビニールを被ったぬいぐるみを母親に渡した。

 未希のクリスマスプレゼントにしてくれと。


 クリスマスが過ぎると、ぬいぐるみは、未希の枕元に置かれ、未希は名前で呼んでいた。


 「ランタポンタ」


 未希がつけた、くまのぬいぐるみの名前だった。



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