4.3.10
ミラーに案内されて辿り着いたのは、前哨基地のほぼ中心。
昨日まで、ここに本部と呼ばれる木造のバラックが建っていた。
が……今は焼け落ちた瓦礫の山だった。
その周辺に何人かの男達が集まっている。
この基地の責任者であるウィリアム。
遠征隊のリーダーのアーネストと他3名。
他にも数人、見知った男が混じっているが、名前は知らない。
「適当に座ってくれ」と言われたが、足元は黒く湿った泥の地面。
見渡すと、どこかの人体の残骸ではないかと思えるような破片が、あちこちに転がっている。
匂いがしないので、なんとも思わないが、その地面に座る気にはなれない。
ミラーやハートリー、他の何人かの男達は、その地面に平然と座った。
アタマのネジの絞め方が、オレとは違う。
ついこの間まで、現実世界の戦場で殺し合いをして生き延びたというミラーの話。
それが本当なのかもしれない、と思わせる姿だった。
話を始めたのは、ウィリアム。
「この基地を、軍事拠点化する」
これまで、軍の本営はエレメント・ノードの全方位に、エレメント・コアを探るための調査チームを送り、前哨基地を建設したらしい。
ここの前哨基地も、その数多くある前哨基地の1つだという。
今回の調査遠征で、この前哨基地がエレメント・コアに最も近い拠点ということになった。
よって今後は、他の前哨基地はすべて放棄し、人員も資源も、この1ヶ所に集中させる。
そういう話だった。
数週間以内に、数百名の守備隊が常駐できるだけの設備を整える。
この基地が、エレメント・コアを突破するための軍事拠点になるということだ。
そして、数千規模のプレイヤー軍の補給が賄えるだけの規模に拡張すると言った。
ストームは目を輝かせて、その話を聞いていた。
規模が大きすぎて、オレにはまるでピンとこない話だった。
ウィリアムは、その為に、今すべきことを続けた。
「この基地の現状を知っているのは、
昨夜の襲撃を生き残った20人足らずと、
アーネスト達だけだ。
まずは、この事実を軍の本営に知らせる必要がある」
言いながら、ウイリアムはアーネストに顔を向けた。
「本営への連絡は、アーネストとウェストン、他2名に行ってもらう」
オレには、横柄な態度と冷たい視線しか向けてこないアーネストが、やけに神妙な顔をして、その指示を聞いている。
アーネストだけではない。
ゲームの世界だか、子供の遊びの延長だかには、とても見えない光景だった。
どの男の目も鋭く真剣だ。
どこかの軍隊の軍議。映画で見たような光景。
ウィリアムも、現実世界では軍の関係者なのだろうか。
ウィリアムは続けた。
「ストームとその仲間の3名も、アーネストと共に、本部へ戻れ」
オレ達の事か。
まぁ、実際、ここには長く居たくない。
ストームの顔を見て頷く。ストームもオレの顔を見返して頷いた。
本部がどこにあるのか知らないが、噴水広場の街の何処かだろう。
あの場所へ戻れるなら、都合がいいし、それでいい。
それを聞いたストームが、軍議に口を挟んだ。
「戻るのはいいけど、オオカミの群れはどうするの?」
信じられない。
ネクラで、人見知りのストームが、この世界では対人関係でも別人。
オレ達のパーティーリーダーとして、相応しい威厳を漂わせている。
「基地の匂いを消したのは、君たちの仲間か?」
アーネストが、ストームに質問した。
「そうだけど……?」
「出発前に、人間の匂いを消すことはできるか? それができれば、オオカミの脅威はかなり軽減できる」
「できると思うけど。それで完全に襲われなくなるとは思えない」
ストームの問いに、ミラーが答えた。
「まぁ、ムリだろうな。
オオカミは、匂いだけじゃねぇ。
音と振動で得物を探す。
俺の地元じゃ、魂の動きを感じ取るとも言われてる」
「それでもだ。
私達は急いで戻り、報告する必要がある。
なにもせずに、オオカミの縄張りを抜けるよりは良い。それだけの話だ」
アーネストが、命令するでも、頼みこむでもなく、無表情のままそう言った。
オレはふと……
母オオカミに牙を剥けられた時のことを思い出した。
オレと未希、リュウジの3人しか居なかった。
ストームもアーネストも、知らない事だ。
あの時は「匂い」以前に、未希は魔法でオオカミの敵対心を霧散させてしまった。
未希の魔法があれば、オオカミの群れに襲われることなく、抜けられるかもしれない。
まぁしかし、できるかどうかは、未希に尋ねてから決めよう。
「一度、未希に話そう」
「うん」
オレ達に必要な話は、それで終わった。
噴水広場への出発は、明日の早朝に決まる。
あとは、守備隊の補充に必要な人数とか、初期に必要な資材とか、オレ達には興味の無い話ばかりだった。
アーネストは、一刻も早く本部へと戻りたいようだ。
再び、同様の規模のウィルコープスに襲撃されたら、この前哨基地は持ちこたえられないだろう。
そうなる前に、本部に状況を伝え、補充の守備隊と、基地増築要員の編成をしなくてはならない。
それが無くては、何も始まらない。
まぁ……
基地のことや、政治の話はどうでもいい。
オレ達はこれからどうするんだろうか。
まずは、噴水広場へ戻る。
思えば、「この世界での経験を積む」という目的の遠征参加だった。
ずいぶん長い旅だったが、戻ることができれば、ようやく一区切りつけそうだ。
無事に戻れれば……だが。




