4.3.09
ミラーに近づく。
「今後の方針を話し合う。おまえらも参加しろ」
そう告げて、背中を向けて歩き出した。
オレと、ストームも後に続く。
歩きながら、ストームが独り言のようにつぶやく。
「結局……遠征隊で生き残ったのって何人?」
ミラーが振り返らずに言葉を発した。
「エルハムとスペイン人のふたりが裏切って、どこかに逃げやがった。そいつらも入れたら12人。死んだのは6人だ」
「裏切ったって……どういうこと?」
ストームが聞き返す。
オレには、意味も理由も分からず聞き流している。
「エルハム、エンリケ、ぺレス。あの3人は、たぶん、他のエレメントのスパイだ」
「3人は、どこへ逃げたの?」
「分からなかったが、今朝、ここに戻って来て分かった。あいつらが向かったのは、たぶんこの前哨基地だ」
「え? 見かけなかったけど?」
「忘れたのか? エルハムの斥候チームは、エレメント・コアの近くで数百体のウィルコープスを目撃して、ハートリーだけが命からがらキャンプに戻ってきただろう」
「え、それって……まさか」
「そうだ。この前哨基地まで、ウィルコープスの群れを誘導したのは、たぶんあいつらだ」
「ウソ……でしょ」
「そうでもなきゃ、こんなところに何百体ものウィルコープスが現れたりしねぇ」
衝撃的な話。
オレは心のどこかで、あの群れをここまで呼び込んだのは、オレ達だったのでは?
とすら考えていた。
オレ達は、森から離れるとき、複数のウィルコープスから逃げるように、この基地へと向かった。
しかし、その時に見たウィルコープスは十数体。
数が違い過ぎる。夕べ襲撃してきたのは、300体以上だった。
それにしても、どういうことだ。
裏切ることになんの得がある。
ミラーに質問した。
「裏切ることに、どんな意味がある?」
ミラーが顔だけ振り返って、逆にオレに質問を投げた。
「おまえ達は、なんで、このエレメントに……ニフィル・ロードに来たんだ?」
「……暇つぶしだ」
「フゥ……フフフ」
ミラーは、呆れたような顔を見せると、顔を戻して背中を向けたまま歩き続ける。
また、言葉を続けた。
「俺達はな、まだ戦争中なんだよ」
「戦争? 何処と? 誰とだ?」
「おまえの住んでる国、日本……それとドイツだ」
「はぁ……?」
何を言ってるんだ?
この男は?
横からストームが声を掛けた。
「総司……このカウントがリリースされた西暦、何年か話したっけ?」
聞いたかもしれないが、覚えていない。
ストームの方を向き、質問する。
「何年だ?」
「西暦1950年。第二次大戦は終わってるけどね。たぶんログインプレイヤーの多くは、その時代の人達だよ」
「なら、ミラーもそうなのか?」
「ちょっと……そういうこと聞くのはマナー違反なんだけど」
ミラーが、背中を向けたまま、オレの問いに答えた。
「ッハッハ。構わねぇよ。俺達と、総司達とじゃ価値観が違うみてぇだな」
そして、また顔をこちらに向けて、言葉を続けた。
「俺は1921年生まれの35歳。
1956年からログインしてる。総司はいつだ?」
それを聞いて呆気にとられた。
思わずストームの顔を見る。
ストームに、驚いたようなそぶりは無い。
どう答えていいか分からない。
黙っていると、ストームが答えた。
「私達の時代では、その質問はマナー違反なの」
「ッハハ。そりゃすまねぇ。
まぁとにかく。
俺もハートリーも……
アーネストや、ウェストンもそうだ。
ヒデェ戦争だったぜ。
俺もハートリーも徴兵されて、戦争に参加させられてよ。
さんざん死にかけたが、運よく生き残った」
信じられない。
オレの目の前を歩いている男が、70年前の男?
その男が10年前まで第二次大戦で兵士だった?
しかも、ミラーだけじゃなく……
「アーネストもなのか」
「そうだ。
あいつは俺達の隊の隊長だった。
おなじ中隊の戦友だ。
生き残ったのが、アーネストとウェストン、俺とハートリーの4人だ。
あとはみんな、死んじまった」
「戦争は終わってるんだろう。なんでこんな世界に入り込んで、戦争を続けてるんだ」
「……いろいろあんだよ。政治ってやつか。まぁ、俺やハートリーは、楽しいからやってんだけどな」
楽しい……だと?
こんな殺し合いの何が楽しいんだ。
それだけじゃない。
裏切り、裏切られ、オオカミに追いまわされ、倒れ込むまで森を彷徨い続けて。
そんな日々のなにが楽しいんだ。
オレは堪らず、その質問を、そのままミラーに投げた。
「この世界の何が楽しいんだ」
ミラーは、振り向かず、何秒か時間を置いて答えた。
「仲間がいて、居場所がある……」
やけに重そうに、そう言った。
オレは、混乱するだけだった。




