4.3.08
昼を過ぎた頃。
野菜や豆、干し肉で調理されたスープが配られる。
以前はカネを取られたが、かき集められた食材が無償開放された。
それを、未希とソフィアが人数分を調理した。
食糧もかなり焼失してしまったが、それが必要な人数も減った。
全員が、数日は食べていける程度は残っている。
オレ達は、未希とストーム、それとソフィアを交えて、一緒に食べた。
味も匂いも無く、水気と具材の食感があるだけのスープだった。
未希の匂い消しの魔法効果は、夜中まで続くのではないかとストームが言った。
匂いの無い食事は、エサを食べさせられているかのような感覚だ。
しかし、あちこちで燃やされている物がなんなのかを考えると、その匂いを嗅がずに済むほうがよほどマシだろう。
食事をしながら、オレは、ウィルコープスから剥いで山積みになっている戦利品の分配のことを3人に話した。
「私も、ナイフは持ち歩いてるわ。ミキもストームも、護身用に持っておいたほうがいいわよ」
ソフィアが、腰から刃渡り20センチ近い刃物を抜いて見せる。
サバイバルナイフのように頑丈そうな片刃のナイフ。
乱戦の最中でも、そのナイフをウィルコープスに突き刺していた。
「みきも、小さいナイフなら持ってるよ」
と言って、腰から、刃の薄いキッチンナイフのようなものを取り出した。
食事を用意するのに使うナイフだ。
ストームが、それとソフィアのナイフを見比べながら呟く。
「持っていても、人を斬ったり刺したりなんてできるかな……」
ここは現実世界ではない。
だが、襲ってくるウィルコープスも、プレイヤーも。
見た目だけでなく、感触、匂い、すべてが実物となんら変わりが無い。
そんな対象に、刃物を向け、傷を負わせる。
持っていたとしても、それが出来るかどうかは、別の話だ。
オレも最初、躊躇した。
動物に対してはなにも感じなかった。
しかし、人間の形をした相手に刃物を向け、傷を負わせるに至る決意は、まるで違う。
ここは仮想世界。
殺しても、殺されても、そいつが本当に死ぬわけじゃない。
殺す体験、殺される体験。
それを疑似体験し、記憶に刻まれるだけ。
その記憶も、ログアウトすれば100倍に圧縮される。
そう理解していたとしても、それが実際にできるのか。
ましてや、2人は、平和な日本に住む、ただの高校生だ。
リアルな殺し合いの体験なんて、どう考えても不要だ。
まぁ……
オレが考えてもしょうがない。
そんな野蛮なこと、ヤメロとか、するなとか。
オレがどうこう言うことでもない。
2人が選択し、決断し、行動すればいい。
いつだったか、ガスコスの言葉を思い出した。
殺さなきゃ、殺される。
運よく生き残ったとしても、近くの誰かが代わりに斬り刻まれる。
たとえば、オレがそれに気が付いたときは、ガスコスが瀕死の重傷を負っていた。
自分の手を汚さなきゃ、何も得られない。誰も救えない。
ここは、そういう世界だ。
だからオレは、言った。
「この世界で、何かを成し遂げたいなら、武器は身に着けておけ」
「うん……」
暫く時間を置いてから、2人がそう返事をした。
そのまま、俯いて黙り込んでしまった。
「……ねぇ、それより2人とも、私に会いたくない?」
ソフィアが話題を変えた。
ストームが顔を上げる。
「え? それってリアルで?」
「そうよ、今度、旅行で日本に行くから。時間が合えば会いましょう。クリスも一緒のはずよ」
「すごい! いつ? いつ来るの?」
「えーと……いつ……だったかしら……」
「え? なにそれ? 覚えてないの?」
「夏のすごく暑い日。スカイツリーっていう高いタワーに観光に行くわ」
「みきさん、行こう、スカイツリー」
「うん、みきも行ってみたいし、ソフィアに会いたい」
ソフィアは不思議な女性だ。
良い言い方をすれば神秘的。
オレに言わせれば、やはり信用できない。
ソフィアが、眼球を泳がせながら、未希達の質問に答えている。
これから行くのではなく、見てきたことを話すように。
まぁいい。ソフィアは仲間。
未希とストームは、そう結論付けた。
それでも、現実世界で会うというのは少し、いや、かなり心配だ。
本当に会うつもりなら、オレもついて行こう。
3人の話に耳を傾けながら、基地を見渡す。
時間は、昼を過ぎて、午後に入っていた。
ウィルコープスの焼却も、8割は終わっている。
それが終わったら何を手伝うのだろうかと考えた。
ふと、離れたところ。
ミラーがこちらに向かって歩いているのに気が付いた。
アーネストが戻ったのは早朝。
もう6時間経ったのか。
ミラーも、オレの視線に気が付いたのか、足を止めて、右手を上げる。
手の甲をこちらに向けて、その腕を何度か小さく振った。
来てくれと合図しているのだろう。
オレは立ち上がった。
「アーネスト達が、ログインしたようだ」
話が盛り上がっている3人にそう告げる。
すぐにストームも立ち上がる。
「これからどうするか、決めたい。行こう」
未希と、ソフィアも立ち上がり、両手でお尻の砂を払っている。
「みきは、ボウル洗ってから行く」
「あ、じゃあ私も手伝うわ」
「ごめん、お願い」
未希とソフィアを残して、オレとストームの2人で、ミラーの方へと歩き出した。
さて。
話の続きを、しにいこう。




