4.3.06
目を開けると救護所テントの中だった。
テントの中央で仰向け。
痛みはない。疲労もない。
腹も減っていない。
左脚のスネの辺りに何かが載っている。
カラダを起こすと、視線の先に男の頭部。
シャルマだった。
胡坐を組んで瞑想した状態のまま、上半身を突っ伏している。
左脚を引き抜くと、シャルマの頭がごろんと地面に転がる。
「シャルマ?」
声を掛けたが、どう見ても起きている状態ではない。
ログアウトしているのだろうか。
シャルマが、救護所テントに張り巡らした魔法は、強力な結界だった。
あれがなければ、どうなっていたことか。
自らの生命をすり減らすような魔法だったのだろうか。
オレは、自分の手やカラダを確認した。
両手の指は十本。全て揃っている。
ログアウト前は、全身に切り傷があったが、どこにも傷はなく、服が破けているだけだった。
……不思議な世界だ。
こういうところはゲームの世界だ。
立ち上がろうと、右手を地面に突き立てて体重を掛けたところで、テントの入り口の幕が捲られる。
見ると、ストーム(真結)だった。
「う~……もう限界……」
「どうした。なにが限界だ」
「あ……総司。ログインしたんだ。カラダは大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だ。外の様子はどうだ?」
「……日本の女子高生に耐えられる場所じゃない」
そりゃそうだろう……ウィルコープスだけでも300体。
それ以外に、プレイヤーの死体も転がっている。
「未希は?」
「匂いを変える魔法を唱え続けてる……んだけど、妙なことになってる」
「妙なこと?」
「最初は、このテントの中だけ、水筒の水と同じ匂いに変更した……んだけど、外の……ウィルコープスのやつとか……燃えっちゃってるやつとか……匂いに耐えられないから、無臭にする魔法を何度も唱えてるんだけど……」
「それで?」
「みきさんが、唱えた対象以外の物まで、無臭になるようになっちゃって、魔法を唱えなくても、みきさんが近くを歩くだけで、匂いが無くなる」
「……どういうことだ?」
「魔法の汚染……だと思う。同じ場所で同じ魔法を繰り返すと、魔法がバグる」
「汚染? バグ? まったく分からん……」
「この世界の魔法は、土地が学習してる」
「余計わからん……」
「……とにかく……同じ魔法だけを、同じ地域で連発するのは良くないってこと」
話していると、未希もテントの入り口に顔を見せた。
「あ、おにいちゃんおはよう」
テントの外は死体の山だろうに、元気そうだ。
「外は、どうなってる?」
「燃やしてる……」
それからオレは、ふたりから今の状況を説明してもらう。
守備隊の生存者は、リュウジを含めて12人。
オレ達3人と、ソフィアを入れると、16人が生き残った。
プレイヤーは、20人近く死んで、このカウントから退場したらしい。
まぁ、しかし、300体のウィルコープスに襲われたのだ。
全滅しなかっただけでも、奇跡だ。
戦闘が終わり、朝までかけて、火災を鎮火し、ウィルコープスの残骸を焼却している最中のようだ。
今は、死体の匂いが消えてしまって、どこに転がっているか分かりにくい。
問題はそれくらいらしい。
未希も役に立っているようで何よりだ。
それよりも。
「未希、大丈夫か?」
「うん……みきは、考えないようにするの得意だから……」
……
「あ、それより、おにいちゃん」
「なんだ?」
「アーネストさん達が、こっちに向かって歩いて来てる。ミラーさんも歩いて来てるよ」
「アーネストって、遠征隊の?」
「うん、まだちょっと遠いけど。だから、おにいちゃん起きてるかもって思って、伝えに来た」
「生きてたのか……歩いてくるのは何人だ?」
「4人、アーネストさんと、ウェストンさん、あとミラーさんと、そのお友達の人」
「行こう」
遠征隊も、前哨基地も壊滅した。
これから、どうなっていくのか。
オレ達は、どう行動していったらいいのか。
フランス人達のことも含めて、話すことは山ほどある。
とにかく、話を聞く。
今後どうするか、どうするべきか。
こんな戦場跡に、いつまでも留まっていたくはない。




