表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/168

4.3.04 真結


 7月17日、土曜日、午前10時。


 真結まゆと何度か待ち合わせたことのある駅の改札。

 そこで、未希と待ち合わせをしていた。


 未希のコーデは、赤いリボンのついた白いフリルトップス。

 明るいピンクのプリーツスカート。

 右肩から下がるショルダーストラップの先に、ブラウン色の小さなバッグを下げている。

 両手を後ろで組んでいたが、オレを見つけて、右手をひらひらと振っていた。


 母親が買ってきた服にしては、やけに可愛らしい。

 自分で選んで買ったのだろうか。


 未希に近づく。何か言うべきか。

 わからない。


「おはよう」

 とだけ言った。


「うん」

 未希が答えた。 


 今日はこれから、真結の家に向かう。


「歩いてどのくらいだ?」

「うーん……5分くらい? コンビニでお菓子買ってってもいい?」

「ああ」


 ポケットからサイフを抜いて広げる。

 千円札は2枚。

 あとは全部1万円札だった。

 千円札を抜いて、未希に手渡す。


「えへへ。ありがと」


 未希がコンビニへ向かう。

 すれ違う普段着の中年の男が、横目で未希に視線を投げる。

 その視線は、ほんの数秒。目線の先は、腰から下。

 そして、何も気にしていません、という顔つきで、改札の方へと立ち去っていく。


 コンビニのガラスに、様々な電子マネーのステッカー。

 オレは使い方が分からないので、現金しか持っていない。

 なぜ電子化する必要があるのか。

 その理由が理解できないし、するつもりもない。

 未希は、知っているのかな。

 今度、使い方を教えてもらおうか。

 などと考えていたら、コンビニ袋を下げた未希が戻った。


「おつり」

 と言って、千円札と小銭を手渡そうとする未希。


「未希が持っとけ。真結の家はどっちだ?」

「こっちだよ」


 バッグから茶色い折り畳みサイフを出して、カネをしまいながら未希が歩き出す。

 オレはその後ろをついていく。

 あのサイフは、中学生の頃に見たのと同じサイフだ。

 たしか、母親が買ってきたやつ。

 見た目よりも機能性重視の地味なサイフ。


 駅を出て、数分歩くと、大きな邸宅が立ち並ぶ静かな住宅街に入っていた。

 複数台前提の広いカーポートの車は、高級車ばかりだ。

 通行人はほとんど居ない。車も走っていない。

 鳥の鳴き声すら、ほとんど聞こえない。


「ここだよ」

 未希が振り返らずに言う。

 ポーチ脇の石壁にガラスで出来た英字の表札。「KITAMURA」と読める。


 未希はトコトコと石畳のポーチを歩いて行く。

 銀色の長い取っ手の付いた、黒い親子ドア。

 その横にある、インターホンを押した。


 オレは、立ち止まってその建物を見上げた。


 オレのアパートの倍はありそうな、白く輝く四角い邸宅だった。

 2階建ての外壁は均一なタイル張り。

 開放的な大きな窓。

 しかし、カーテンは全て閉じられ、中の様子は、まるで分からない。


 感じるのは、生活感よりも、人を寄せ付けない無機質な威圧。

 住居というよりも、立ち入り禁止の研究施設のようだった。


 インターホンを押してから十数秒。

 反応が無い。


 未希が、カバンからスマホを取り出しながら、考え込んでいる。


 すると、プツプツっとノイズの後に、インターホンから声がした。


「ごめん……まってて」


 ドアの向こうから、トタトタと走る音。

 ガコンと、カギを開ける音。

 そして、開いたドアの先。

 長い黒髪はボサボサのまま。

 ヨレヨレのグレーのスェット姿で、ピンクや青やらのパステルカラーの靴下を穿いた真結が立っていた。


「ごめん……寝てた……」


 それは、見れば分かる……

 生活感ゼロの建物の中から出てきた、今起きたばかりの真結。

 

 この建物は、研究所では無かった。


 真結たちの家族が住む家。

 たぶん、そういう建物だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ