4.3.04 真結
7月17日、土曜日、午前10時。
真結と何度か待ち合わせたことのある駅の改札。
そこで、未希と待ち合わせをしていた。
未希のコーデは、赤いリボンのついた白いフリルトップス。
明るいピンクのプリーツスカート。
右肩から下がるショルダーストラップの先に、ブラウン色の小さなバッグを下げている。
両手を後ろで組んでいたが、オレを見つけて、右手をひらひらと振っていた。
母親が買ってきた服にしては、やけに可愛らしい。
自分で選んで買ったのだろうか。
未希に近づく。何か言うべきか。
わからない。
「おはよう」
とだけ言った。
「うん」
未希が答えた。
今日はこれから、真結の家に向かう。
「歩いてどのくらいだ?」
「うーん……5分くらい? コンビニでお菓子買ってってもいい?」
「ああ」
ポケットからサイフを抜いて広げる。
千円札は2枚。
あとは全部1万円札だった。
千円札を抜いて、未希に手渡す。
「えへへ。ありがと」
未希がコンビニへ向かう。
すれ違う普段着の中年の男が、横目で未希に視線を投げる。
その視線は、ほんの数秒。目線の先は、腰から下。
そして、何も気にしていません、という顔つきで、改札の方へと立ち去っていく。
コンビニのガラスに、様々な電子マネーのステッカー。
オレは使い方が分からないので、現金しか持っていない。
なぜ電子化する必要があるのか。
その理由が理解できないし、するつもりもない。
未希は、知っているのかな。
今度、使い方を教えてもらおうか。
などと考えていたら、コンビニ袋を下げた未希が戻った。
「おつり」
と言って、千円札と小銭を手渡そうとする未希。
「未希が持っとけ。真結の家はどっちだ?」
「こっちだよ」
バッグから茶色い折り畳みサイフを出して、カネをしまいながら未希が歩き出す。
オレはその後ろをついていく。
あのサイフは、中学生の頃に見たのと同じサイフだ。
たしか、母親が買ってきたやつ。
見た目よりも機能性重視の地味なサイフ。
駅を出て、数分歩くと、大きな邸宅が立ち並ぶ静かな住宅街に入っていた。
複数台前提の広いカーポートの車は、高級車ばかりだ。
通行人はほとんど居ない。車も走っていない。
鳥の鳴き声すら、ほとんど聞こえない。
「ここだよ」
未希が振り返らずに言う。
ポーチ脇の石壁にガラスで出来た英字の表札。「KITAMURA」と読める。
未希はトコトコと石畳のポーチを歩いて行く。
銀色の長い取っ手の付いた、黒い親子ドア。
その横にある、インターホンを押した。
オレは、立ち止まってその建物を見上げた。
オレのアパートの倍はありそうな、白く輝く四角い邸宅だった。
2階建ての外壁は均一なタイル張り。
開放的な大きな窓。
しかし、カーテンは全て閉じられ、中の様子は、まるで分からない。
感じるのは、生活感よりも、人を寄せ付けない無機質な威圧。
住居というよりも、立ち入り禁止の研究施設のようだった。
インターホンを押してから十数秒。
反応が無い。
未希が、カバンからスマホを取り出しながら、考え込んでいる。
すると、プツプツっとノイズの後に、インターホンから声がした。
「ごめん……まってて」
ドアの向こうから、トタトタと走る音。
ガコンと、カギを開ける音。
そして、開いたドアの先。
長い黒髪はボサボサのまま。
ヨレヨレのグレーのスェット姿で、ピンクや青やらのパステルカラーの靴下を穿いた真結が立っていた。
「ごめん……寝てた……」
それは、見れば分かる……
生活感ゼロの建物の中から出てきた、今起きたばかりの真結。
この建物は、研究所では無かった。
真結たちの家族が住む家。
たぶん、そういう建物だ。




