4.3.03
森を出て県道に戻るのに30分。
軍手を外して、ポケットにねじ込む。
県道を歩き、バス停まで戻る
スマホの時計は、11時30分。
次のバスは1時間後。
近くの蕎麦屋で、昼飯でも……とも考えたが、そんな気はまったく起きなかった。
あんなものに触れた直後で、食欲なんてあるわけが無い。
木陰を探して腰を降ろす。
トレッキングシューズの靴底の泥を念入りに叩き落とす。
ナップサックから英会話の本を取り出して、ページを捲るが、何も頭に入ってこない。
本は戻し、鳥の鳴き声に耳を傾け、空に浮かぶ雲の数を数えた。
スマホを取り出し、鳥の鳴き声を検索してみる。
「ヒヨドリ」、「シジュウカラ」、「メジロ」
飽きた頃にバスが来た。
どうせ、鳥の名前なんてすぐに忘れる。
ついでに、今日のことも忘れてしまおう。
ガラガラのバスに揺られ、駅で降りる。
来た時と同じように、電車を乗り継ぎ、地元の駅に戻ったのは16時過ぎ。
まずはコンビニへ。
買うのは、A4厚紙封筒とボールペン。
住所を書いて、品名に文房具と記載する。
ボールペンを封筒の中へ。
それから、ナップサックを開けて、軍手越しに携帯電話を摘まんで放り込む。
軍手は、そのままコンビニのゴミ箱に捨てた。
封をして、郵便ポストへ投函。
最後に、雇用主へメッセージを送る。
『携帯電話の郵送完了しました』
次は、靴の量販店へ。
適当に安い運動靴を選んで、それを買う。
「履いて帰ります」
と、店員に伝える。
ナップサックから、英会話の本と方位磁石を取り出し、カーゴパンツのポケットへ。
空になったナップサックに、要らなくなったトレッキングシューズを入れる。
店員に、ナップサックごと手渡し「処分してください」と告げて店を出た。
今日の仕事が、終わった。
あとは、忘れるだけ。
それで完全に終わる。




