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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
16/561

3.1.05


 気が付くと藁の上。

 そこに、うつ伏せで寝ていた。


 ずっとこの体勢だったのか、カラダを起こそうとすると、胸から肩にかけての節々が酷く痛い。

 だが最も痛むのは、右の尻だ。

 よりによって、尻をケガするとは。


 我ながら惨めだ。


 痛みを我慢して、体を起こす。

 どうやら、これはベッドだ。

 木枠に藁を敷いただけの粗末なものだった。

 部屋に床板はなく、平らにならされた地面がむき出しになっている。


 簡単に言うなら、これは原住民のボロ小屋だ。

 窓がひとつあるが、ガラスは付いておらず、木の板がキィキィと音を鳴らして揺れている。


 オレは、ゆっくりとベッドから立ち上がる。

 枝を組み合わせただけの戸がある。

 それを押して部屋を出た。

 戸の先の部屋には木製のテーブルと椅子。

 奥にかまどのようなものが並び、その傍らには、キャベツやタマネギが詰め込まれた籠が並んでいた。


「あ、おきた。おきたよー!」

 声の主は、12歳前後だろうか。

 ところどころが灰色に黒ずんだワンピースを着た少女が、オレを見て外に駆け出していった。


 それにしても、この匂いはなんだ。

 掃除してない犬小屋のような匂い。


 匂いから逃れようと、少女が駆けていったドアに向かうと、そこから先は小屋の外だった。


 お昼の少し前くらいだろうか。

 陽差しが照り付けている。

 周辺には、丸太やら、斧やら、クワやら。

 様々な道具がごちゃごちゃと置かれていた。


 その先は、広場を挟んで、複数の似たような木造の小屋が立ち並んでいる。


「起きたか。ちょっとまってろ、いま飯もってきてやる」

 と、声を掛けてきたのは、昨日の男だ。

 たしか、ルボンスだったか。


「もう、もってきとるよ。ホレ」

 どこから出てきたのか、いつの間にかオレの背後に、老婆が居た。

 この老婆はガロムだ。


 手にしているのは底の浅いボウル。

 中身はスープか。いやシチューだろうか。

 そして、匂いの元は……どうやらコレだ。間違いない。


 思えば、ここに来てからまだなにも食べていない。

 匂いはともかく、食べよう。


 オレはガロムから、ボウルを受け取り、近くの丸太に腰をおろした。


「ほれ。これも」

 木のスプーンを手渡された。


「あんたの手柄だ。おかわりも山ほどあるから、好きなだけ喰え」


 つまりこれは、クマ肉のシチュー。

 その他の具はキャベツと玉ねぎ、それとよくわからないキノコ。

 シチューのベースは、豆かな。

 仄かなハーブの香りもある。


 しかし臭みはまったく抜けていない。

 肉を口に含むと、オレの口の中は、掃除したことのない犬小屋になった。


 だが、美味かった。

 空腹は、最高のスパイスとは、まさにこのことだ。

「口に合うようで、よかったよ」

 などと、ガロムが言う。

 いや、悪いが、現代人のオレには、まったく合っていない。

 死ぬほど腹が減っていただけだ。

 今なら、ドッグフードだって、もりもり喰える自信がある。


「で、あんたはどこから来たんだい?」


 どこから……


 なんと答えればいいんだ。

 異世界から?

 むしろここが異世界だ。

 質問には答えず、逆にオレから質問を返す。


「ガロム。ここはどこだ?」


「ここは、ウガーラ村。昔は盗賊の根城でね。20年くらい前に、その盗賊が野獣の群れに襲われて壊滅して、気が付いたら村になってたよ」


 物騒な歴史だな。


 「ごっそさん」と言って、ボウルをガロムに手渡した。


 今何時だ。と、オレは手を叩いて、デバイスを出す。


 『 ELAPSED 00:31 』

 え……

 もう、オレのアタマじゃ、咄嗟に計算できないが、

 どうやら、オレはこの小屋で1日以上寝ていたらしい。


 まぁ、あれだけの怪我だ。

 ガロム達のおかげだろうか。

 病院にも行かずに、よくここまで回復したと思う。


 横で、からんと、ガロムがボウルを落とした。

「ん? どうした?」


 ガロムが、オレの顔を見て口を開け、ポカンとしている。

 なんだ? どうした?


「あんた……わたしびと様……?」


「え?」


 呆けてるガロムが落としたボウルを拾い上げる。

 すると、こんどは、離れたところから別の男の声がした。


「かあちゃん、その男か! クマ殺ったってのは!」


 男が近づいてくる。

 その男は、酷く汚れた白っぽい肌着に、毛皮のベストを羽織っていた。

 口も顎も全てを覆う、白髪混じりの髭が、無作法に伸びている。

 髭でよくわからないが、声や目元の感じから、50代だろうか。


「おう、あんたが、うちのかあちゃん助けてくれたんだってな。礼を言うぜ」


 男とオレが、眼を合わせると、男が続ける。


「ん? あれ? おめぇ……どっかで会ったか……?」


 男が腰に吊り下げている両刃の西洋剣に視線が止まる。

 刃こぼれが目立つボロボロの剣。

 拾ったのか……

 あるいは、使い込んでいるのか……

 この剣は……見たことが……


 オレを殺った男。

 この男は似ている。

 だが、こんな年寄りじゃなかった。

 オレを殺したあの男は、声の感じでは、まだ20代だったように思うし、髭は黒かった。

 だが、似ている。

 あの時オレを殺した男に。


「わたしびと様!」

 混乱していると、今度はガロムが、オレの腕を掴んだ。

 なぜだかわからないが、両目に涙をため、ボウルも受け取らず、掴んだ腕を揺らしている。


「ちょっとまて……まずおまえだ。なんつったか……えーと」


 記憶を探り、思い出す。

「デンゴラバ? だったか?」


 オレが殺される前に、最後に聞こえた言葉。

 それを聞いた、男の眼の色が変わった。


「テメェ……なにもんだ……」

「それは、オレも聞きたいんだが」


「テメェあの時の……? いや、まさかな……」


「とうちゃーん、ハーブもらってきたよー」

 オレたちが睨み合っていると次は、さっきの少女だった。

 少女が、男に駆け寄って来る。


「お、おう。さんきゅー」


 睨みつけていた男の眼光が、父親の目に変わってしまった。


 ああもう……

 いったいどうなっている。



 どこから整理したらいい。



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