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妹が消えたあと、世界の数が合わなくなった話  作者: 渡しログ
2章ワールドカウント24
16/18

3.1.05


 気が付くと、オレはベッドに、うつ伏せで寝ていた。

 ずっとこの体制だったのか。

 カラダを起こそうとすると、胸から肩にかけての節々が酷く痛い。

 だが最も痛むのは、右の尻だ。

 よりによって、尻をケガするとは。


 我ながら惨めだ。


 痛みを我慢して、体を起こす。

 ベッドは木枠に、藁を敷いただけの粗末なものだった。

 部屋に床板はなく、平らにならされた地面がむき出しになっている。


 簡単に言うなら、これは原住民のボロ小屋だ。

 窓がひとつあるが、ガラスは付いておらず、木の板が外側で風になびく、ただの窓枠だった。


 オレは、ゆっくりと体を起こし、ベッドから立ち上がる。

 枝を組み合わせただけの戸があったので、それを押して部屋を出た。

 そこには、木製のテーブルと椅子。奥にかまどのようなものが並び、その傍らには、キャベツや人参が無造作に詰め込まれた籠が、いくつか並んでいた。


「あ、おきた。おきたよー!」

 歳は、12~3といったところか。

 ところどころが灰色に黒ずんだワンピースを来た少女が、オレを見て外に駆け出していった。


 それにしても、この匂いはなんだろうか。

 掃除してない犬小屋のような匂い。


 匂いから逃れようと、少女が駆けていったドアに向かい、小屋の外に出た。


 今は、お昼の少し前くらいだろうか。

 陽差しが照り付けている。

 出入口の周辺には、丸太やら、斧やら、クワやら。

 様々な道具がごちゃごちゃと置かれていた。


 その先は、広場を挟んで、複数の似たような木造の小屋が立ち並んでいた。


「起きたか。ちょっとまってろ、いま飯もってきてやる」

 と、声を掛けてきたのは、昨日の男だ。

 たしか、ルボンスだったか。


「もう、もってきとるよ。ホレ」

 どこから出てきたのか、いつの間にかオレの背後に、老婆が居た。

 この老婆はガロムだ。


 手にしているのは底の浅いボウル。

 中身はスープか。いやシチューだろうか。

 そして、匂いの元は……どうやらコイツだ。間違いない。


 思えば、ここに来てからまだなにも食べていない。

 匂いはともかく、食べよう。


 オレはガロムから、ボウルを受け取り、近くの丸太に腰をおろした。

「ほれ。これも」

 と、木でできたスプーンを受け取る。

「あんたの手柄だ。おかわりも山ほどあるから、好きなだけ喰え」


 つまりこれは、クマ肉のシチュー。

 その他の具はキャベツと玉ねぎ、それとよくわからないキノコ。

 シチューのベースは、豆だな。

 仄かなハーブの香りもある。

 しかし臭みはまったく抜けていない。

 肉を口に含むと、オレの口の中は、掃除したことのない犬小屋になった。


 だが、美味かった。

 空腹は、最高のスパイスとは、まさにこのことだ。

「口に合うようで、よかったよ」

 などと、ガロムが言う。

 いや、悪いが、現代人のオレには、まったく合っていない。

 死ぬほど腹が減っていただけだ。

 今なら、ドッグフードだってもりもり喰える自信がある。


「で、あんたはどこから来たんだい?」


 どこから……


 なんと答えればいいんだ。

 異世界から?

 いや、むしろここが異世界だろうが。

 質問には答えず、逆にオレから質問を返す。


「ガロム。ここはどこだ?」


「ここは、ウガーラ村。昔は盗賊の根城でね。

 20年くらい前に、その盗賊が野獣の群れに襲われて壊滅してね。

 で、気が付いたら村になってたよ」


 ふーん。

 「ごっそさん」と言って、ボウルをガロムに手渡した。


 今何時だ。と、オレは手を叩いて、デバイスを出す。

 『 ELAPSED 00:31 』

 え……

 もう、オレのアタマじゃ、咄嗟に計算できないが、

 どうやら、オレはこの小屋で1日以上寝ていたらしい。


 まぁ、あれだけの怪我だ。

 ガロム達のおかげだろうか。

 病院にも行かずに、よくここまで回復したと思う。


 横で、からんと、ガロムがボウルを落としていた。

「ん? どうした?」


 ガロムが、オレの顔を見て口を開け、ポカンとしている。

 もしかして、ログインデバイスを見られるのはマズかったか……?


「あんた……わたしびと様……?」


「え?」


 呆けてるガロムが落としたボウルを拾い上げる。

 すると、こんどは、離れたところから別の男の声がした。


「かあちゃん、その男か! クマ殺ったってのは!」


 男が近づいてくる、

 その男は、酷く汚れた白っぽい肌着に、毛皮のベストを羽織っていた。

 口も顎も全てを覆う、白髪混じりの髭が、無作法に伸びている。

 髭でよくわからないが、声や目元の感じから、50代だろうか。


「おう、あんたが、うちのかあちゃん助けてくれたんだってな。礼を言うぜ」


 男とオレが、目を合わせると、男が続ける。


「ん? あれ? おめぇ……どっかで会ったか……?」


 男が腰に吊り下げている両刃の西洋剣に目がとまる。

 刃こぼれが目立つボロボロの剣。

 拾ったのか……

 あるいは、使い込んでいるのか……

 この剣は……見たことが……


 オレを殺った男。

 この男は似ている。

 だが、こんな年寄りじゃなかった。

 オレを殺したあの男は、声の感じでは、まだ20代だったように思うし、髭は黒かった。

 だが、似ている。

 あの時オレを殺した男に。


「わたしびと様!!」

 混乱しているところへ、今度はガロム。

 なぜだかわからないが、両目に涙をため、ボウルも受け取らず、オレの腕を掴んでいた。


「ちょっとまて……まずおまえだ。なんつったか……えーと」


 記憶を探り、思い出す。

「デンゴラバ? だったか?」


 オレが殺される前に、最後に聞こえた言葉。

 それを聞いた、男の目の色が変わった。


「テメェ……なにもんだ……」

「それは、オレも聞きたいんだけどな」


「テメェあの時の……?いや、まさかな……」


「とうちゃーん、ハーブもらってきたよー」

 オレたちが睨み合っていると今度は、さっきの少女だった。

 少女が、男に駆け寄って来る。


「お、おう。さんきゅー」


 男の眼光が、父親の目に変わってしまった。


 ああもう……

 いったいどうなっている。

 どこから整理したらいいんだ。



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