4.2.40
土曜の昼のファミレス。
かなり混雑している。
隣に未希。はす向かいに、まゆ。
最初に話したのは、2人がログアウトしてから訪れた惨状。
未希も、まゆも、熱心にオレの話を聞いた。
今見て来た映画の説明を聞いているかのようだ。
あたりは、死体だらけ。
テントは燃え落ち、おそらくプレイヤーも大勢死んでいる。
そしてオレも死にかけた。
匂いの説明は、あえて避けた。
ただ、血生臭い戦闘があったという話。
それだけを伝える。
オレは、ログアウト前に見て、触れて、感じたことを話している。
だが、2人には、全く持って、現実味の無い話。
まぁ、仕方がない。
実際に現地に行かないと、わからない。
あとは、ログインしたときに、パニックにならないようにと付け加える。
それと先に礼を言っておく。
「オレの命を救ったのは、未希とストームの2人だ。ありがとうな」
「わかった……わかったけど……ここではストームって呼ばないで。わたしだけオタクっぽくて変」
「ああ、そういや、『まゆ』は、本名だって言ってたな」
「そう。北村真結……みきさんは、表札見たからもう知ってる」
「うん、真結さんち、すっごい広くてビックリ」
どんな家だ……と、聞こうとしたが、真結の私生活なんて、どうでもいい。
それよりも、警告しておきたい事。
「2人に言っておくことがある」
店員が、食事を運んできた。
未希は、サラダの付いたカルボナーラのセット。
真結は、チーズの乗ったハンバーグ定食。
オレの日替わりランチはまだ来ない。
「おにいちゃん、まだ死体の話……?」
2人も、食事はまだだったのか。
まぁいい。死体の話じゃない。
「違う、ソフィアの事だ」
未希が、カルボナーラにフォークを挿し込み、くるくると回している。
「ソフィアさん? なんか、優しいお姉さんみたいな人だったね」
「……うん、すごいイイ人。魔法も凄い」
真結に視線を向ける。チーズの香ばしい匂い。
「ソフィアはまだ……信用するな。シェイプシフトデバイスの事は話したか?」
「もちろん、話してない……わたしも、ソフィアさんは少し警戒してる」
「ええ、なんで? みきは、ソフィアさんも、パーティに誘いたい」
「フランス人の毒、医療チームの目つぶし、ソフィアさんなら両方可能」
「でも、みき達も一緒にいたよ? できる? そんなこと?」
「犯人だと決めつけている訳じゃない。ただ心の距離に少し気を付ける。それだけだ」
「……うん、わかった」
未希が、スプーンの上にまとめたカルボナーラを口に運ぶ。
喉が渇いた。
そういや、ドリンクバーか……
テーブルの上には、水のグラスも置かれていない。
真結もそれに気が付いて、オレに言った。
「総司もなんか、飲み物取ってきたら?」
「そうだな……」
席を立ち、ドリンクバーを探す。
すぐに見つけたが、子供が群がっていた。
怖がらせるつもりは無いのだが、オレが近づくと、子供達は、逃げるように走り去っていった。
グラスをセットし、ウーロン茶のロゴが入ったボタンを押す。
注ぎ終わると、まずは、その場で飲み干す。
それから、アイスコーヒーを注ぐ。
砂糖は入れず、ミルクだけ溶かして、席に戻る。
戻ると、オレの日替わりランチも、席に届いていた。
「次はいつログインするんだ」
オレの質問に、真結が答えた。
「17日以降でもいい? 夏休みに入るから」
夏休みか……
それなら、今日、明日で、急いで話を合わせる必要も無いか。
オレも仕事が入ってる。
「ああ、それで構わない」
「みきと真結さんはね、ハイキングに行って、カラダ鍛えるから」
「ハイキング? どこへ?」
「近くの高原とか」
「そうか。気を付けてな」
「……まさか、ニフィル・ロードの旅があんなに過酷だなんて、思わなかったよね」
不健康そうな顔色の真結が言う。
「次は、おにいちゃんに、あんまり迷惑かけないようにしたいよ」
「オレのメモリアは、もっとヒドかった」
「でも、おにいちゃん、英会話すごいできるようになった」
「……まぁ……な」
それは、正直、オレも驚いている。
英文を書けと言われても書けないが、会話はどうにかできるようになった。
どうにか、せざるを得なかった。
それから1時間くらい。
ファミレスでどうでも良い会話を交わして、ファミレスを出た。
代金はオレが払ったが、ランチということもあってか、ここに来るためのタクシー代よりも安かった。
2人はこれから、図書館へ行くらしい。
今度は、フランス語を勉強すると息巻いている。
店の前で、2人と別れる。
オレはどうしようか……
することが無い。
英会話教室にでも、通うか。
悪くないかもしれないな……
あの昭和のヤクザ……リュウジでさえも、流暢に英語を話していた。
リュウジは、どこに住んでいるんだろうか。
次にログインしたら、聞いてみようか。
そんなことを考えながら、駅に向かって歩く。
暑くてたまらない。
がぶ飲みした、ウーロン茶やアイスコーヒーの水分が、皮膚から噴き出している。
オレも、一緒に図書館へ行けばよかった。
スマホが震えている。
立ち止まって、スマホを抜く。
見ると、雇用主からのメッセージ。
軍手と、登山靴を買っておけと書かれている。
ああ……そういや、オレもハイキングか。
仕事なので、未希達を連れていく訳にも行かない。
行先をホームセンターに変更する。
オレはまた歩き始めた。




